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    兄上お誕生日おめでとうのお話。(2022.10.8)
    昇仙AU曦澄です。現代に生きているので現代AUでもあります。
    幸せのかたち。

    ##MDZS
    #曦澄

    或る仙の日常 陽が山の稜線に隠れそうな頃合い、ちいさな田舎街の石畳をひとり、のんびりした歩調で上りゆく男がいた。肩から黒い鞄をひとつ掛け、服装は至って普通のシャツにパンツといったこの街でもよく見る風合いである。しかし、飛び抜けて目立つ優美な風貌をしていた。
     男はひとつ角を曲がると、小さな路地裏に入り進んだ先の扉のベルを鳴らした。ジーッと音が鳴り、少し待つ。すると足音がし、ガチャッと扉が開かれるとともにあたたかな光が部屋の中から差した。
    「おかえり、思ったより早かったな」
    「汽車の便数が多くなっていて」
     もう汽車じゃないぞ、ずいぶん前から電気駆動だからな。そう笑いながら出迎えた男も少し厳しめの面立ちをしてはいたが、また美貌の持ち主だった。
    「今日は何を買って帰ってきてくれたんだ?」
     藍渙、と洗面所へ向かって問いかけると、手を洗う男から「いいものをたくさん」とやわらかな応えが返ってきた。
          *
     そもそもの発端はもはやその付き合いも何百年経たのかよく分からぬ義兄であった。ギリギリ携帯電話の電波が入るか入らないかといった場所に住むこちらと違い、あちらは人の多い都市部の街を好んで選び住んでいた。そんな相手からある夜、江澄の携帯電話に一本のメッセージが入ったのであった。
    『お義兄さん、数日借りれない?』
     その表現に、こいつ……と思いながら電話をかけさせ、詳細を聞き出すと以下のようなものであった。曰く、都市部で強力な邪祟が出たので調査したが、どうにも自分とは相性が悪い。現地で動く藍忘機との相性を考えると藍㬢臣の力を借りた方がよさそうだ、ということになったとのことであった。
    「出張扱いで経費も出してくれるようですよ」
    「ふん、当たり前だ」
     当人同士での通話が終わり、あなたは一緒に行かないの? と聞かれ、ちょうどこちらにも話が舞い込んだところだと返す。
     江澄と藍渙はふたりで茶坊を営んでいた。といっても片田舎の路地裏である。到底、一般のひとが来る店ではなく[必要とされた時]に[必要とした人]のみが訪れる、そんな形式の店であった。そういった店に、たまさか日中お客様がいらしたのである。話を聞いたのはその時、店にひとりでいた江澄であった。
    「こちらは話を聞く限り、行ったらすぐ解決しそうだからな。少しばかり距離があるが、まあ夜中に動くさ」
    「御剣するの?」
    「山の方だからな。大丈夫だろう」
     かつて仙師であった頃は自在に御剣で飛び交っていたものであるが、あいにくと空を飛び交うものは仙師だけとはいかなくなった昨今は目眩しの術をかけ、御剣での移動も夜間のみとするようになっていた。それすらも魏無羨たちの住むような都市部ではいろいろと難しい。よって、必然的にあちらへ出向くとなると列車での移動となる。
    「ひとりで大丈夫か?」
    「何言ってるんですか、大丈夫ですよ」
     駅の場所は変わってないでしょうし、他のことも聞けば大抵なんとかなります、と微笑む藍渙にそれもそうか、と返す。念の為、魏無羨と繋がる携帯電話の最低限の使い方を教え、持たせることにはした。
     その日の夜半、江澄がすらりと三毒を抜き「行ってくる、あなたも気をつけて」と言い残して闇夜に消えゆくのを藍渙は手を振って見送ったのであった。
          *
    「都市部ではね、こういったものが今流行ってるそうなんです」
     無羨もおすすめしてくれてね、と鞄の中から取り出したのはひとつの紙袋であった。実のところ、この鞄は今風に改良した乾坤袋である。江澄が紙袋の中を覗くと、プラスチック製のまるいカップがふたつ入っていた。
    「なんだ?」
     透明なカップを取り出すと、乳白色を帯びた茶色い液体の中に黒い球がころころと入っているのが見えた。
    「タピオカミルクティーです」
    「タピオカミルクティー」
     茶坊で取り扱ってもいいんじゃないかとも言われて……と話す藍渙に、うちはそういう店じゃないだろうと返しながら、カップの表面フィルムにストローを突き刺す。
    「お、美味いな」
    「ほんとう?」
     都会の味がするぞ、と笑いながらタピオカを吸い込み、もちもちと口を動かす相手を可愛いなあと思いながら藍渙ももうひとつのカップにストローを刺し、口をつけた。
    「大きいのをひとつでもいいかと思ったんだけど、味がいろいろあって迷ってしまって」
    「そうなのか」
     こっちが茉莉茶、そちらは烏龍茶がベースなんです、甘さも選べたので変更してみましたという説明に、なるほどと言いながらカップを交換して飲み合う。
    「どちらも美味しいな……今度作ってみるか」
    「そうだね、わたしは甘さ無しのこちらが好きかな」
     タピオカは面倒臭いから無しで、濃く淹れて牛乳を入れて飲もうと話しながらも、鞄から続々と出てくる品々の説明を聞く。
    「あなた、買いすぎじゃないか?」
     どれだけ土産を買ってきたんだ、と若干呆れた声を滲ませながら聞く江澄に「そうかな……」と返しつつ、たまの都会も楽しいですね、にょきにょきと雨後の筍のごとく大きい建物が建っていて夜でもずうっと明るいし人通りも途切れないんですよ、ああ、これは無羨からあなたへ。お酒ですよ、なんて笑いながら鞄を探り、「あった」と声を出してバサリとそれを引き出した。
    「……花束?」
    「そうです、綺麗でしょう」
     この辺りでは目にしないような珍しい花も店にたくさん置いててね、と話す藍渙の顔を見つめて江澄は思案した。
     なにかを忘れている気がする。
    「その顔は忘れているね」
     綺麗な花束を抱えた男は、目の前の考える可愛いひとの顎に手を伸ばし、そのまま指を軽く動かしてくすぐった。
    「今日はわたしの誕生日だよ」
     そう言って微笑むと、あっ、という顔をして固まった。
     何百年も生きているともはや生まれた日の概念など薄らいでしまうのである。いや、そもそも仙に上がる前も江澄には祝いの日という概念が薄かった。唯一きちんと記憶している日は甥の誕生日だけという有りさまで。公に何か祝いの品などが必要な日やその品については周囲に任せきりであった。
    「気にしないよ」
     これはわたしが買いたくて買ってきたものだから、と花束に顔を近づける男は文字通り眩しかった。
    「飾ってくれる?」
     花瓶、選んでくる、と返しながら襟元を引き寄せ、江澄は男の形の良い唇に、己のそれを押し当てた。
          *
     都市部へと向かう列車の中、藍渙はぼんやりと車窓の流れる景色を眺めていた。この国はここ数十年でとても変わった。生活にあまり変化を求めず、ゆっくりと片隅で過ごしている自分たちですら、肌身に感じるときがあるのだ。人の身であれば如何ほどのことかと思う。
     仙の身となってから、幾星霜の時が経った。藍渙にとっての最たる僥倖は、愛するひとが共に仙になってくれたことだと今でもしみじみと思う。彼は、仙になる素質はあったが、性格からして仙になりたいと思うひとではなかった。藍渙はそう思っている。
    (すぐに解決できるとは言っていたが、江澄はもう家に帰り着いた頃だろうか)
     あのひとのことだ、心配しすぎても怒らせてしまうのであまり口にはしないようにしているが、やはりどうしても怪我をしていないか、無事であったかどうかなどは気になってしまう。思わず、渡された彼の携帯電話を握りしめた。
    (わたしもそろそろ、これを持つべきでしょうか)
     機械は苦手であった。扱おうと思えば扱えるが、藍渙にとってそれは繊細すぎるのである。これを言うと毎回、彼のひとは少し変な顔をしたのち、大笑いをする。曰く、あなたが扱う茶器のほうがよほど繊細にできている、ということであった。
    (江澄もスマートフォンに買い替えようかなと言っていたし、その時に一緒に買うのも悪くないかもしれない)
     今住んでいる場所も、この数年で以前よりは電波が安定してきたとも言っていた。離れて住む忘機とも個人的なやりとりがいつでもできるようになる。一緒に買えば、操作なども教えてもらえるだろう。彼はこういったものの扱いを覚えるのがすこぶる早い。
     うん、いい考えだ、と思いながら藍渙は目を閉じた。
          *
     依頼のあった邪祟退治をつつがなく終え、ここのところ長くなってきた夜が明けきらぬうちに、江澄は三毒に乗って我が家へと帰ってきた。
     この家に住み始めたのは、それまで住んでいた山奥の村に中央の手が入ったからである。数十年前ほどであった。その村はとてもいい気脈が通っており、なるほどこれは飯が要らないかもしれないな、と思うほどであった。仙はいい気脈があればそれだけでも別に生きて行ける。江澄は昔から食べることが好きなので、適度に食事も摂っていた。
     見つけたこの家も、かつての住処であった山村よりは劣るけれども、この周辺ではなかなか見ることのない良質な気脈の上にある建屋であった。空き家であったことにこれ幸いと許可を取って住み着き、今へ至る。その後、都市部へ出ることを考えたこともなくはなかった(義兄に言わせると住めば都、都市部の方が交通機関も便利ですぐ地方にも行けるし便利だぞ、ということであった)が、どうにも江澄たちには田舎の暮らしのほうが肌に合っているようだったので、今のところ引っ越しは考えていない。
    「ただいま……そうか、出かけているんだったな」
     帰宅の挨拶を口にしながら扉を開け、ひとりごちた。今どのあたりだろうか、無事に列車には乗れただろうか。
    「心配しすぎか?」
     それでも藍渙が列車を使用してひとりで移動するのは、ずいぶんと久しぶりのことである。時代も移り変わり、いまだに携帯電話ひとつ持たない生活をしている彼のことを気にかけてしまうのは仕方ない、と思い直した。
    「やはりそろそろ携帯電話を持たせるか……」
     こんな時に、メッセージ一つでお互いに連絡が取れたら何も心配することはないだろう。普段一緒に居るので必要性を感じたことがあまりなかったが、こういった時にはなんとなく不便さを感じてしまう。
    「便利さを一度知るとだめだな」
     帰ってきたら一緒に買いに行こうと誘おうと思いながら、江澄は三毒を定位置に置き、そのまま朝の市場へと買い出しに繰り出した。
          *
     江澄が作っていた夕食を一緒に食べ終え、ふたりはソファーでのんびりとしていた。
    「花、綺麗だな」
     この青い花は初めて見た、なんていう花だろう、と飾った花を眺めながら、互いにこの二、三日であった出来事を話す。藍渙からはやはり魏無羨と藍忘機の様子の話が多かった。相変わらずの仲らしく、ふうんと聞き流した部分もある。なぜ何百年経っても身内の恥知らずな話を耳にしなければいけないのか。公共の場でくらいおとなしくしていてほしい。魏無羨には一言、「しょっぴかれるなよ」とだけメッセージを送った。
     一晩出かけた以外、家に居た江澄からは、なんてことのない日常の話ばかりだ。それでも話していると、市場でこんなものを売っていた、道で誰それに話しかけられた、今度茶葉の仕入れに行こう、など話題は沸き出てくるもので、不思議なものだといつも思う。きっと藍渙の聞き方が上手なのだ。
    「そうだ、江澄」
    「なんだ?」
     あのね、携帯電話を持とうと思うんだ、と言われて目を丸くする。
    「奇遇だな、俺もその話をしようと思っていた」
    「本当?」
     嬉しいな、と微笑む美しいひとの頬へ、軽く口付けを送るとますます笑みが深くなった。かわいいひとだ。
    「誕生日プレゼント、それでいいか?」
    「なんにもいらないのに」
     ちょうどいいから、と呟くと、じゃあお言葉に甘えてそうするよ、と言いながら、肩口に引き寄せられた頭にやさしく口付けを送り返された。
    「藍渙」
     名前を呼びながら首に両腕を回すと、間近で向き合った顔がますますやわらかい表情になるのを見ることになった。ああ、このひとのこういうところが何百年経っても愛おしいのだ。この顔と向き合う自分も、同じような顔をしていたらいい、この気持ちが伝わっていたらいい。
    「誕生日、おめでとう」
     瞳を見ながら微笑んで唇にのせた言の葉は、相手のそれによってやさしく受け取られた。
                          終
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     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
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    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
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    兄上やらかしの全貌
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     蓮花塢の風は夏の名残をはらみ、まとわりつくようにして通りすぎる。
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     まったく余計なことをしたものだ。
     江澄は舌を打った。
     
     酒を飲んだ藍曦臣は、しばらくはただにこにことしていただけだった。
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    「味、ですか」
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    巡(メグル)@20216575z

    DONEわかさんのスペースでお話されていた病弱江澄のお話の一部設定を使わせて貰ったお話。
    ①出会った時、澄は曦を女の子と勘違いする
    ②江澄が病である
    ③澄が曦の元を去る
    ④最後はハピエン
    上記四点を使わせていただきました。
    本家のお話はわかさんに書いていただくのを楽しみにしてます。

    宜しければ感想お聞かせください🙏
    病弱江澄ss曦澄おち「もうここには来んな」
    「どうして?そんな事言わないで、阿澄」
    「どうしてもだ」
    「明日も会いに来るから」

    そう言って帰って行った彼。
    綺麗な顔を歪ませてしまったけれど仕方がなかった。

    小さな頃の約束は果たせそうにない。
    ごめんな。




    初めて藍渙…あの頃は阿渙と呼ばれていた。
    出会ったのはココ。
    このクラス10000の清浄な空気に囲われた箱庭みたいな小さな世界だった。

    俺と同じ病の弟のドナーになるためにこの病院にやってきた彼。
    小児病棟の端っこで他の患児達と混じることなく一人でいた彼はとても可愛らしい顔に不安を滲ませラウンジのベンチに座っていた。

    「忘機…」
    それが弟の名前だったらしかった。

    何となく気になってしまった俺はその子に声をかけてしまっていた。今から思ったら笑えてしまうけれどその時俺は一目惚れをしてしまったのだった、彼に。
    1625