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    曦澄真ん中バースデーおめでとうのお話。(2022.10.22)
    前回上げた下記のお話、昇仙AUの続きのふたりです。
    https://poipiku.com/198124/7626973.html

    ##MDZS
    #曦澄

    或る秋の一日 ある日のこと、家で江澄が先日入手したばかりのスマートフォンをいじっていると、ジーッと来客を知らせる音が鳴った。茶坊への客か? と思いながら、のそりと立ち上がり玄関の扉を開くと、そこには小包を持った配送業者が立っていた。荷物に心当たりはなく、同居している藍渙からも特に何も聞いていなかったものの、配達先は確かに自宅になっていたためサインをして受け取った。
     ……という出来事があったのを、ふたりで夕飯を食べた後、唐突に思い出した。仙となった身であるので、別に飲食を喫さなくても問題なく生きてゆけるが、食は江澄の楽しみのひとつである。今日は季節柄、いい蓮根が手に入ったので久しぶりに蓮根排骨湯を作ったのであった。相変わらずの好物は、染み渡るようなやさしい味がした。
    「そういえば昼間、荷物が届いたんだ」
     受け取った箱を手にして居間へ戻ってくると、藍渙が差出人欄を覗き込み、ああ、という声を出した。
    「先日、忘機たちのところへ行った際に買ってきたものだよ」
     乾坤袋ならぬ乾坤鞄があるのにわざわざ別送に? という不思議な顔を江澄がしたことを察して、藍渙はにっこりと笑った。
    「開けてみて」
     そう言われると開けるしかない。江澄は鋏を持ってくると封に切れ込みを入れ、箱を開けた。
    「……服?」
     丁寧に不織布とビニールの袋で梱包された中身を取り出すと、折り畳まれた黒いジャケットが一枚出てきた。広げると、抑えられた光沢感の中、綺麗に仕立て上げられた代物であることがわかる。
    「あなたに、と思って仕立ててもらったんだ」
    「サイズは」
    「ふふ」
     知ってるのか、と思いながら肩の部分に当ててみる。
    「ね、着てみて」
     こてんと首を傾ぐようにされ、色々と言いたいことはあるものの仕立て上がって手元に届いてしまったものは仕方ない。そう思い、江澄はそうっと躾糸のついたジャケットに袖を通した。袖を通してみると、肩の縫い目の位置も、袖周りの感覚も、正面のボタンも、全てがしっくりくるサイズ感であった。裏地の色も上品な深紫(こきむらさき)で、流石の誂えである。
    「うん、よく似合ってる」
     本人がいないところで勝手に誂品を仕立て上げた男は、その姿を見て満足そうに頷いていた。
    「洗濯は?」
    「自分たちで可能な生地でお願いしたよ」
     本当は正絹で仕立て上げたかったのだけど……と少し残念そうに藍渙は呟くが、この田舎街ではクリーニングを依頼するにも金も手間もかかりすぎる。自分たちで洗える生地でなかったら突き返すまではいかなくとも、少し小言をと考えていた江澄はその返答を聞いて、わかっているじゃないかと鷹揚に返した。今時は便利な生地が売っているし、仕立て屋でも取り扱っているものなのだ。そして、仮に正絹で仕立ててもらったとしても、ふたりの現在の生活では着ていく時も場所もない。
    「普段から着れる方がいいでしょう?」
    「もちろん」
     鏡の前に行き、羽織ったままくるりと回ってみる。うん、とてもいい。今の季節にもぴったりである。
    「びっくりしたが、ありがとう」
    「気に入ってくれた?」
    「とても」
     そう答えると、目の前の美丈夫はとろけるような顔をした。
    「でもなんで急にジャケットだったんだ?」
    「いつもの上着、いつ頃から着てるか覚えてる?」
     そう問われて考えると、十数年はゆうに経っている気がしてきた。当時、市場でたまたま見かけて買った品物だったが色も形も汎用性があり、生地も意外と丈夫だったためそのまま着続けていたのである。
    「あれも似合っているから好きなんだけど、だいぶくたびれてきてるなあと思っていて。あと、昔みたいに偶には服を贈るのもいいかなと」
     自分で選んだもので自分の好きなひとを着飾るのはやっぱりいいね、と藍渙が臆面もなく言うので、江澄はいまさらながら少し照れてジャケットの袖裾をつまんでいじる。確かに下界での生活に馴染んでからは、装飾品や服を送ることは以前よりはるかに少なくなっていた。
    「俺もあなたに服を贈ればよかったな」
     先日あった藍渙の誕生日のプレゼントとして、ふたりはスマートフォンを買いに行ったのである。それはそれで、良い贈り物であったと思うし、なにより実用的である。藍渙は未だにフリック入力には慣れていないが、何気ないメッセージのやりとりをしたり、ネットサーフィンをしたり、本も読んだりしているようであった。江澄もスマートフォンに変えたことにより、今までの携帯電話よりも出来ることが増えたので有意義に使用している。
    「というか、なんでもない日なのに贈り物をしてもらってなんか悪いな……」
     江澄のその言葉を聞いて、藍渙がそうそう、と思い出したような声を上げた。
    「今日、真ん中バースデーなんですよ」
    「? 真ん中……?」
     突然の聞いたこともない単語に、江澄の頭上にクエスチョンマークが浮かび上がる。なんだ? 真ん中……?
    「わたしの誕生日が先日、八日だったじゃないですか。で、あなたが来月の五日。その間が今日なんです」
     そういう日を真ん中バースデーって言うらしいですよ。とにこにこしながら言われ、なるほど、と頷く。
    「魏無羨にでも教わったのか?」
     このひとのこういった概念の情報源はだいたいあの恥知らず夫夫である。そう思って何気なく聞いたのだが、返ってきた答えは「ネットに書いてありました」であったので、江澄は思わず目頭をおさえたくなった。あの人望厚く誰からも畏敬の眼差しで見られ、いと尊き仙師であった沢蕪君がインターネットから最新の情報を入手して活用している。なんだかグッと込み上げてくるものがあった。近いうち、このひとの脳内の蔵書閣にはまた膨大な量の知識が蓄えられるのかもしれない。
    「というか、真ん中と言うなら平等でなければならないのでは」
    「じゃあわたしは美味しい夕飯をご馳走になったので、それで……」
     誂品のジャケットと、普段の延長の夕飯が釣り合うのか? と思ったものの、目の前のひとが満足そうな顔をしているのでまあいいか、と思い、江澄はジャケットを着たまま両腕を伸ばした。そのまま意を汲んだ相手からも腕が伸び、肩と腰を引き寄せられ、ぎゅうと思いきり抱きしめられる。
    「藍渙、ありがとう」
    「こちらこそ、受け取ってくれてありがとう」
     大事に着る、と言うと、普段から気兼ねなく着てほしいと返されたので、ぴたりと体同士がくっついた状態でくふくふと笑いながら、そうする、と返事をした。
     秋も深まったとある夜、腕の中はあたたかい。
                                終
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