sweet medicine ふ、と。
意識が浮上した。
まだ眠っていたいという怠惰な欲に逆らって、寝ぼけ眼をこじ開けたのは、近くで聞こえた囁き声のせいだ。
「……こら、静かに。まだ早いだろう」
ぶんぶんと尻尾を振る音。ハッハッと期待の息遣い。
「散歩はこの雨が止んでから。予報では午後だよ」
諭すような声音。
ついさっきまで息を弾ませていた鳴き声が、途端にきゅん、と寂しげなものに変わる。
ようやく焦点が合った眼前の光景。
自分と同じようにまだ寝台上の人でありながらも、腹に乗った愛犬の首を撫でる男の姿。
彼の愛犬は彼の腹の上でしゅんとしょげて耳を垂らしている。その顔があまりにも可愛らしくてクスリと笑みを零すと、隣の彼と目が合った。
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