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    rupam17wt

    @rupam17wt ワンライ等支部にあげる予定のないもの、続き物を区切りよく書けたときに使います。

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    rupam17wt

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    ひいあいワンライ お題 『○○の秋』『色』
    ということでおそらく芸術の秋とかをイメージしてこねくり回したものです。当時読んでくださった方ありがとうございました。

    その絵画に描かれていたのは、穢れなき純白というべき美しい色のドレスを纏う王妃様だった。
    「きれいだなァ」
    隣の藍良がうっとりとため息を吐いた。
    「うむ、今すぐにでも動き出しそうなくらいリアルな絵だね。」
    「ねぇ、この布の感じとかすごくない?この光沢とか。触ってないのに感触わかっちゃう。」
    「触っちゃダメだよ。」
    「分かってるよォ。」
    侵入禁止のラインをほんの少し超えて王妃様に手を伸ばした藍良を嗜めると、ぷうと頬を膨らませながら藍良は腕を下ろした。ちなみに今日は二人でお忍びなので、藍良はいつもの「ラブい」を封印している。
    「絵ってあんまり見ないけど、そんなおれでも『すごい!』ってなるんだから、芸術ってすごいね。」
    「西洋画は僕も馴染みないけど、その魅力に取り憑かれてしまいそうだ。」
    先ほどは藍良を注意したけれど、うっかり絵画に手を伸ばしてしまいそうになる不思議なパワーがあることはよく理解できる。
    「ちなみにこれはフランスの王妃の肖像画だそうだよ。」
    解説のパネルを読みながら僕が言うと、藍良は途端にしかめ面をする。
    「どうしたんだい」
    「別にィ。ただあんまりいい思い出のない言葉を聞いちゃったからさ。」
    いい思い出がないという言葉で、僕は過去に藍良がぽろっと語った彼の過去についてを思い出した。彼に流れる異国の血が、彼を孤独にしたとかそうでないとか。
    「ごめんよ、そういう意図はなかったんだ。」
    「ううん、もう気にしないって決めたのに、いつまでもウジウジ言ってるおれのが悪いから。」
    邪念を振り払うように大きく首を振った藍良は、天井近くまで広がる絵画を見上げた。
    「この王妃様みたいにきれいで気品があれば、おれももうちょっとだけ胸を張って生きていけたのかな。」
    「その言い方だとまるでもう死んでしまったかのようだね。」
    「ヒロくんきらい!」
    少し元気づけようと茶化した言葉を言うと、藍良は眉をしかめて僕に殴りかかってきた。とんできた藍良の拳を手のひらで受け止めると、フロアに小気味よい打音が響いてしまった。そばにいたお客さんとフロアスタッフが一斉にこちらを見る。いつもは観られてナンボなお仕事をしているけど、この場で注目を集めるのはよろしくない。僕と藍良は慌ててペコペコお辞儀をして謝罪の意を示した。
    「僕の記憶が正しければ、この王妃様はフランスじゃない国からやってきた方じゃなかったかな。」
    「出た、無駄にお勉強のできるヒロくん。」
    「うむ、学生は教科書の内容を全て覚えないといけないんじゃなかったかな?」
    「うっ正論……。でも世の中教科書を丸ごと覚えている人なんてそういないからね……。」
    「ふむ、そうなのか。」
    「で、この人がなんだって?」
    僕達の会話はよく脱線してしまう。悪いことだとは思うけれど、なかなかなおらない。
    「この王妃様も新しい場所の文化に馴染むのに苦労したって、さっきどこかの解説に載っていたよ。」
    「ふーん。そういやおれは絵ばっかり見ていてあんまり解説読んでなかったなぁ。もったいない事しちゃった。」
    「別に美術館は自分の見たいもの、目移りしたものを見ればいいと思うけど。」
    「そうだけど。でもどうせなら背景とか知った方がより詳しく見えるものがあるというか。アイドルのインタビューとかがあるのはそういうのもあるでしょ。」
    藍良は優雅に微笑む王妃様を見つめる。その横顔は絵画に負けないくらい美しく見えた。純白……とは違うかもしれないけれど、彼の魂はとても洗練された色だと僕は思う。
    「この王妃様もこんなにきれいな顔してるけど、絵に描かれていないところで苦労して必死でもがいていたのかな。」
    「藍良もとっても綺麗だよ。」
    つい思っていることを口にしてしまうと、藍良は顔を真っ赤にしてこちらを振り返った。
    「もぉ!ヒロくん、ファンサは要らないから!」
    「ファンサじゃなくて本心なんだけどね。」
    照れる藍良が愛しくて、つい彼の頭を撫でてしまった。
    「あの、すみません。」
    じゃれ合う僕達に、スーツを着たフロアスタッフの女性が声をかけてきた。
    「ほら、ヒロくんが無駄にファンサするから気付かれちゃったじゃん!」
    「えーそうなのかい?」
    小声で耳打ちしている僕達に、女性は申し訳なさそうに、けれどきっぱりと言った。
    「他のお客様がお待ちですので先に進んでいただけますか。」
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    rupam17wt

    MOURNINGひいあいワンライ お題『雨』『紫陽花』 お借りしました 画像は埋もれてしまうのでこちらにもあげています。お気に入りの傘ほど雨で濡らしたくないと思うのに、その傘を持ち歩いている時に限って大降りになる。雨の日はろくなことが起こらないから藍良は好きではなかった。
    今日は一日晴れと聞いていたのに、十二時を過ぎたあたりで雲行きが怪しくなり、やがて細い雨が降り出し、現在では叩きつけるような激しい雨が降っている。天気の崩れやすい梅雨の時期だからとお守り代わりに傘を持っていたのは不幸中の幸いだが、濡れるのは避けられなかった。
    藍良は足元にできた海のような水たまりをみて、何度目か分からない深いため息を吐いた。水たまりにはうんざりした顔の藍良と、お気に入りのターコイズブルーの傘と、はりきって履いてきたおろしたてのスニーカーが映り込んでいた。
    今日は前から一彩と前から気になっていたお店でスイーツを食べる約束をしていた。オフの日だったから朝から一緒に行動すればよかったけれど、午前中それぞれ用事があったから午後に待ち合わせしようと約束をした。午後三時にお店の最寄り駅前の広場に集合する予定だったのだが、三時を少し過ぎても一彩が約束の場所に来ない。
    空を見上げると、ねずみ色の雲が絶え間なく流れている。しばらく雨は止み 1827

    rupam17wt

    MOURNINGいばにゃんとじめにゃんのお話
    オタク仲間と二人の話がチラリと出たので調子乗って書いてしまった
    ノリで書いたので色々許していただきたい
    事務所に向かうためにエントランスホールを歩いていると、馴染みのある後ろ姿を見つけた。
    年齢の割に華奢な体格、春の青空を透かしたような髪。間違いなく彼は紫之創、以前共演したことがあるライバル事務所所属のアイドルだ。
    彼はおっとりとしていてのんびりだなと思うときはある。しかし今日の彼はいつも以上に足取りがフラフラしていて鈍い。それもそのはず、彼は両腕に大きな荷物をいくつも下げていて、薄い腕の肉に袋の持ち手が食い込んでいた。
    「こんにちは、じめにゃん。本日もお仕事ですか?」
    後ろから声を掛けたら、彼は「わあ!」と大袈裟なくらい声をあげて、天敵に見つかった野生動物のように飛び跳ねる。ウサギの名は伊達ではない。
    「こんにちは、いばにゃん。急に声を掛けられてびっくりしちゃいました」
    「いいえ、こちらこそ死角から近付いてしまい申し訳ありません」
    彼はこちらを振り返ってぺこりとお辞儀をする。誰に対しても丁寧で真摯な対応をするその姿勢が、彼の好感度と親しみやすさの秘密で、自分が彼を好ましく思う理由の一つだ。
    じめにゃんもエレベーターホールへ向かっていたようなので、そのまま彼の隣に並ぶ。ほんの少し小柄で歩 2344

    rupam17wt

    MOURNINGひいあいワンライ お題『宣言』
    またしてもお題にきちんと添えていない……
    これからワンライはこちらにバックナンバーを登録していきます。ちゃんと運用できれば良いのですが。
    読んでくださりありがとうございます。
    土曜日のお昼どき、一彩からESの食堂に呼び出された藍良は、入り口で待ち構えていた彼の鬼のような形相にびっくりした。どうやら怒っているらしい。一彩はその穏やかさととんちんかんな思考回路ゆえに、滅多に感情を荒げることがないのに。一体何があったのだろうか。
    藍良が状況を飲み込めていないことに構うことなく、一彩は藍良の手を引いてずんずんと食堂の奥の方へと向かう。連行や誘拐という表現が正しく思える乱暴さだった。
    やがて二人はテーブル席に辿り着く。四人がけの席は二人きりで占領するには広くて、これから食事を摂りにくる人たちに申し訳なさを感じる。
    一彩は藍良を解放し、席に座るように促した。彼の異様さに面食らっていた藍良は、言われた通りに椅子に浅く座った。藍良の向かいに座った一彩は、重々しく口を開いた。

    「白鳥藍良、僕は『ALKALOID』の君主として、今から君に厳しいことを言わなくてはならない」
    目が据わった一彩を見て、藍良の背中に日当たりの良い食堂が底から凍りつくような悪い予感が走る。思い出すのは解雇を言い渡されたあの日や、ライブで失敗してしまった時。知らないうちに取り返しのつかないことをしてしま 2004

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    MOURNINGひいあいワンライ お題『一周年』『始まり』
    少し前からきちんとお題に添えていない気がします。
    読んでくださった方、ありがとうございました。
    ESの食堂で昼食にオムライスを食べた後、藍良と次の仕事まで時間を潰すことになった。空いている席が日当たりが良すぎる場所しかなかったため、僕らのいる場所は冷房の恩恵があまりない。昼時を過ぎた現在、座る人はまばらになっていたが、僕たちは日陰の席に移動するのも億劫でなんとなくこの場に居続けた。
    すっかり汗をかいたグラスの中の氷で薄まった麦茶を飲んでいたら、「お待たせしました」と店員が小さなお皿を二つ置いていった。お皿に乗っているのは、黄色いクレープ生地と生クリームが何層にも重なっているケーキ。確かミルクレープというんだったか。つやつやとしていて美味しそうだ。しかし、僕にはデザートを注文をした記憶はない。「間違えているよ」と伝えようとしたら、向かいの席に座る藍良が僕の脛に爪先を当ててきた。
    「これ、藍良が頼んだのかい?」
    店員の背中が遠くなってから聞いたら、藍良は「そうだよォ」と言って、銀色のフォークでひとくち分のケーキを切り取り、小さなかけらを口に運ぶ。相変わらず口が小さい。
    「ん〜〜美味しいなァ。やっぱり甘いものは最高だよォ」
    「どうして二人分頼んだんだい?」
    「え、ヒロくん要らないの?せ 2164

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    MOURNINGひいあいワンライ お題 『桜』『卒業』
    桜の方をお借りしています。当時読んでくださった方ありがとうございました。
    うららかな陽気の三月。授業なし、宿題なし、仕事なし、レッスンなし。穏やかな春休みの一日を、ライブ配信や推しアイドルの出演作を見る時間に充てようと思っていた藍良だったが
    「出かけるよ、藍良。準備して」
    突然現れた赤い悪魔によって、藍良の平和な春休みは終わりを告げられた。


    「ねェ、これどこ向かってんの?逃げないから目的地くらい教えてくれてもよくなァい?」
    一彩に引っ張られるように寮を出発して、知らない路線の下り電車に乗り三十分ほど揺られて辿り着いた終点駅。そこからさらに歩くこと数分。一彩と藍良は道と呼んでいいのか分からないような山道を歩いていた。枯葉が敷き詰められた地面は歩きにくく、藍良は何度か木の根に脚を引っ掛けて転びかけた。
    「それは着いてからのお楽しみだよ」
    すっかり息が弾んでしまった藍良の手を握りながら、上機嫌で歩く一彩は全く疲れている様子がない。鼻歌まで歌っている。山を覆う森は太陽の光が届かず薄暗くて、地面は湿っており、とても不気味であった。藍良は一彩の強引さにうんざりしながらも、置いていかれないようにと繋いでいる手をぎゅっと握り返す。
    「おれついに殺されるの?調子乗りすぎた 1608

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