タワーに帰り着くと、最低限の照明だけが灯りフロアはどこも静まり返っていた。
夜間パトロール中に運悪く新種のサブスタンスに遭遇し、難なく回収できたものの周囲への影響を調査するという研究部の作業に付き合わされていた。早くソファに身体を投げ出してビールを飲みたいと急く気持ちとは裏腹に足は重い。三十歳を過ぎると疲れが出やすいという嘆きは諸先輩方から幾度となく聞いて来たが、自分もその域に達してしまったのだろうか。
いやいや歩がゆっくりなのはオトナの余裕ってやつだ、と目を背けたい事実を頭から振り払いながら談話室の前を通りかかるとそこからだけ明々と光が漏れていた。ちらと中を覗くとブラッドが椅子に掛けて本を読んでいる。他に人は居らず、ページを捲る指先だけが微かに音を立てる。声を掛けそうになったが言葉を発する直前で思い直す。今のところ思い当たる節は無いがどんな小言を言われるかわからない。ただでさえ残業で疲れているのだ。無視して通り過ぎるのが良いだろう。
3333