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    もッちょニゃヌくわェ

    @14Arkraft

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    ザナラーンにあったらいいな 勘定にまつわるすっとこ話
    頭割り4開催中にコリ……コリ……していたものです どこかできちんとなんやかやしたいね

    #捏造よもやま
    fabricatedStory

    おひいさんのスープ、或いは量り自慢のスープ売り はてさて、世にあるものはみな失われる定めにございます。そこに形の有無など関係なく、道理なんてのはその最たる物だ。無法者の存在は洋の東西を問いませんし、ましてや勘定を誤魔化そうなんて程度の不逞の輩、それこそ何処にだっておりましょう。いやあだってね、それが聞いて下さいよ。このザナラーンとひんがしっていやあ、どちらもおんなじ商人の街ってのはご存じでしょう? それだけでも仲良くするに不足はないのに、ずいぶんとまあ似たような事を考えるもんだってんですよ!
     ご存じかもしれませんがね、まず、ひんがしのはこうです。飯屋に入った客がお勘定をするでしょう? 店主の前に財布を出して、そら、硬貨を一枚、二枚、三枚、四枚……おっと大将、今何時で? おやもう五つを数えるのかい! おおっと六枚、七枚、八枚……といった具合でしてね。いやはやこれが人情話だったり、それを聞いた間抜けの話だったり……ともあれ、そういう勘定の誤魔化しにまつわる話がありまして。ああ、詳しく聞いてみたいってんなら、そら、周りにひんがし人くらいいるでしょう。どうぞここから人のご縁を広げてみるとよろしい。
     ともあれ今回致しますのは、このザナラーンにもそういう話があるって話です。ただし、まるきり同じ話じゃあありませんよ。こいつはとあるお姫さんと、それはもうドケチなスープ売りの一騎打ち……或いは馬鹿な頑固者どもの、何とも間抜けな意地の張り合いのお話にございます。

     さてさて。むかしむかしのザナラーンに、とあるスープ売りがおりました。
     このスープ売りってのがまあ間抜けな奴でしてね、折角良いとこで料理人をしてたってのに、材料をとにかくケチってケチって、浮かせた金を懐に入れていたんです。当然バレて首になったものの、料理の他に出来る事もない。今度はわずかに残った金を元手に、貧乏鉱夫相手にスープを売って暮らすことになった。
     だがしかし、そんな程度でこいつのケチり癖が直る訳もない。例えばね、『おお、大将! スープを一杯くんな!』と客が来る。するとスープ売りは鍋に向かって、『はいはい、ちょいと待ってくんな。仕上げのスパイスを入れてやるからね』なんていうんだ。
    『大将、出来りゃあ急いでくれよ! もうとにかく腹が空いていてねえ、なんせそら、今日もまた鉱山で一番掘ってやったのは俺なんだ!』
    『はいはい、そんならさぞかし汗もかいただろうさ。たっぷり塩を効かせたスープは、大層具合が良かろうね』
     すると鉱夫は大喜びで席に着くわけだが、問題はこのスープ、具ばかり多くて塩なんてろくすっぽ入っちゃないんですよ。安い屑肉だの何だので作った餡をね、キュッと生地で包んで一緒に煮込む。あとはその辺のサボテンダーだのなんだの、とにかく手に入った食えそうなもんを全部ブチ込んだごった煮ダンプリングスープなのさ。どっこい、そこからがこのスープ売りの腕の見せ所。鍋から器にスープを注ぐと、サアサ美味しく、美味しくなあれ、なあんてシャッシャッシャッ……と塩を振る。こうすると塩が先に口へと飛び込むせいで、本来よりもずっと塩ッ辛く感じるって話らしいんだが……そんなんで良いのか? と思いや、このスープ売り、相手に合わせて塩の量を見極めるのが、それはもうとにかく上手かった! 一目お客を見ただけで、『こいつは大して働いてねえ、塩にもだいぶ鈍感だろう』『おっとこいつはずいぶん働いてきたな、あんまり誤魔化す余地はねえや』……なんてね。そして何より、相手が体力仕事の鉱夫達ってのが良かった。だいたいの奴は何にも気にせず、ほんの数口でカッ食らっちまいますから。連中はそれで舌に触れた塩に満足しきって、次の仕事に向かうんだ。どうあれ、ケチな鉱山の水みたいなスープよりは、よっぽどマシなもんだったって事かもしれませんがね……。

     さてこのスープ売りがそんな風に、塩を浮かせて稼ぎを出し、ちょっとずつ蓄えも作りながら暮らしていた頃の事です。
     如何に体力自慢の鉱夫達といえども、夜も眠らずとは行きません。お月さんが頭の真上に来る頃には、当然このスープ売りの仕事もお開きになります。しめしめ、今日もだいぶ浮かせたぞ……なんて暖簾を下げて、あとはロウソクを消していざ閉店、という所で、ふっとお客がやってきた。
    『ねェ、お兄さん。まだスープは残っているかしら……?』
     ああん、こんな時間に女だって? どうせろくなこっちゃねえ、とっとと追い返して俺の飯を食おう……そう思って顔を上げると、そこに居たのはなんとびっくり、それこそ何処のお姫さんとも見まごう美女だった!
    『へえ?! ああ、それはもちろん、お嬢さんの腹を満たせるぶんはございます!』これにはスープ売りも飛び上がって、慌てて鍋を火に掛けた。塩もケチるような奴です、自分のまかない程度だったらそりゃあぬるくっても構いません。が、まさかこんな時間にぬるいスープを出すわけにはいきませんからね。『冷えたでしょう、ほんの少しだけお待ち下せえ。ええ、すぐ温まりますんで』
     すると美女は真珠のような涙さえ浮かべて、『ああ、ありがとう! 温かい一杯なんて、どれほどの救いかしら!』とスープ売りを拝み倒すときた。『こらこら、いけない、いけない! お嬢さんのような美しい方、月の薄絹に包まれたお人がそんな真似をしちゃあいけません! さあ、座って、座って……』スープ売りが出しっぱなしの椅子を指し示すと、美女は再び礼を述べて、しずしずと席につく。
    『ああ、おとっつぁん。この夜ばかり続くような砂漠にも、こんな暖かい人がいたんだねえ……』食べる音の最中に、時折美女のすすり泣きが交じった。『私の明け時のスープ売りさん、素晴らしい一杯をありがとう。こんなにきちんとお塩の入ったスープを食べたのは、本当に久しぶりのことよ』
     ああ、その砂漠の薔薇も恥じらい崩れる、大輪の美しい笑みと言ったら! ずきりと痛んだ胸を抑えて、スープ売りは考えた。
     ――ああ、きっとこいつは厄介のタネなんだろうなァ。こんな真夜中に女ひとりで、いったいどうやってここまで来たんだか。最悪どこぞの金持ちに売られちまって、命からがら逃げてきたって線もあるだろうよ。
     ――俺にとっちゃァ、何より大事なのは自分の命だ。いざとなったら知らぬ存ぜぬで通してやる気もある。だがここまでずいぶんな稼ぎ方をしてきたんだ。哀れな女の一人くらい、多少甘く見るのも悪かない……。
     美女がスープのお代を差し出してきたのを、スープ売りは『おいおい、こいつは多すぎまさァ』と押し返した。すると当然美女は驚き、そして意外なことに愛らしい怒り顔さえ見せてくる。
    『まあ、いけません! 正当な対価の授受というのは、渡す側だけでなく、受け取る側の義務でもあります。それともまさか、私がか弱い女に見えましたか? なおのこといけません! これでも私、腕も稼ぎもあるんですから!』
     言って己の腕を叩く美女の姿に、ああ、スープ売りはまさしく|太陽≪アーゼマ≫を見た! いやいや、そう言ってしまうにはあまりにも愛らしかったが、しかしその眩しさは確かにスープ売りの目をくらませるのに十分だったという話です。
    『ああ、ああ、違う違う! 扇持つお嬢さん、あなたのお話は尤もです。ですが単純に、出されたギル硬貨が多すぎるなら話は別だ。余分があるのに気づかないフリをしちまったら、それこそナルザルにどう裁かれるか!』
     スープ売りは自分の精一杯で、気取った伊達男を演じます。美女に良い格好をするっていうんだから、それはもうピンと胸を張りました。ところがそれが余計に気に食わなかったのでしょう、美女はますます怒ってこう答えます。
    『そんな馬鹿な! ねえ、わたくしはきちんと数えましたよ――』美女が指差したのは、スープ売りの看板です。『――スープ一杯8ギルに、いっぱいの塩代に2ギルで10ギル。硬貨もぴったり10枚でしょう?』
    『ああ、とんでもねえ! お嬢さん、それこそ俺を馬鹿にしないでくんな。そんなことでギルを取ってたら、お嬢さん、普段のスープにゃろくに塩を盛ってないってことだ。もしそんな風評が鉱夫たちに聞かれてみろ、俺ァ奴らに殺されっちまうよ!』
    『あら、まさか! それにわたくし見てましたのよ、あなたがスープを椀に入れる時、お塩を足してくださってたの! そんなお心遣い、応えなくてどうしますか!』
    『エッ!? いっ、いやいやいや、いやいやいやとんでもねえよ、とんでもねえ! ありゃあ、そう、中の具、中の具だ! すっかりふやけちまってたろう? そうすると肉汁がすっかり出ちまって、塩気がとんで食えたもんじゃねえんだ。美味いもんを食わせるのが仕事なんだから、そりゃあ帳尻合わせだってするもんさ!』
    『まあ、まあ、まあ! だったらわたくし、なおのこと、きちんと対価をお支払いしなくちゃなりません。だって末永くお仕事をしてほしいもの、知り合いにもお話しなくちゃあ!』
    『ああーッ、聞いてくれねえお嬢さんだなァ! わかった、わかった! だったらそいつも受け取ってやるから、今度は俺が、口止め料を払わせてくんな! もしも塩のサービスがあるなんて噂されちゃあ、俺の汗すら絞り取られちまうよ!』
    『それは大変! なら、よろしいでしょう。私の言葉を、2ギルを受け取る権利でお渡しいたします。どうぞ大事に使って下さいまし』
     これを惚れた弱みと言って良いのか、悪いのか。ああ、その勝ち誇った笑みはサボテンに咲く高嶺の花。愚かにもトゲに刺されたスープ売りは、とろける男心はその半分。残り半分のちっぽけなプライドはすっかり歯ぎしりしどおしでございました。ええ、気前の良い事は実に良いことですが、だからといって無理に施しを押し付けられるなんて、男がすたるってもんじゃあありません。
    『なら、ええ、こんな大事な取引に、数え間違いがあったらいけません――』スープ売りは決断しました。かくなる上は、ドケチの意地を見せてやろうじゃないの!『さっ、お嬢さんもよくよく数えて下さいな。そら、一枚、二枚……』
    『ええ良いわ。三枚、四枚……』
    『五枚、六枚……ああっと手が!』
     もちろんそんなの大嘘だ、スープ売りはサッと同じ硬貨を二回数えてみせた。『七枚、八枚……おおっとお嬢さん、一枚多いよ! いくらチップを渡したくたってね、そういう施しは却ってナルザルを怒らせるよ!』
    『だからってそんな見え見えの手業、怒らせるのはむしろあなたの方でしょう! だったら私がもう一度数えましょう、一枚、二枚……』そういって真剣に一枚一枚数える美女に、ああ、こりゃ本当に一枚足してやらなきゃ収まらないな……と思ったときだ。『まあひどい、むしろ一枚足りないじゃないの!』
    『エーッ?!』
     わざわざ分かりやすく並べた硬貨は、確かに九枚きりしか残っていない! いや確かに、さっき数えたときには十枚あった。ってことはつまりだ、このじゃじゃ馬鳥め、ボケッとしてる間に一枚隠しやがったってのか!
    『なァにしてんだこのスットコドッコイ! お前ね、そういう勘定のごまかしはきっちり牢屋にブチ込んでもらうよ! 俺がもういっぺん数えてやらァ! ほら、一枚、二枚、三枚……やっぱり多いじゃねえか!』
    『馬鹿言ってんじゃないわよ! わたしはむしろ、キチッと払ってやろうってんで数え直してんのよ? 感謝されこそすれ、お巡りを呼ばれるような事なんかしてないわよッ! 一枚、二枚、三枚……どう見ても少ないわ!』
     かといってこの状況、いくらお巡りを呼んだってどうしようもありますまい。そんな事をなんどもやれば、どちらも『ああ、こいつ絶対引かないな……』とは確信致しました。このまま堂々巡りを続けるのも、明日一日の善き働きを妨げるだけに終わるでしょう。
     スープ売りはうんと唸って、それからパァンと膝を叩いた。『おーし、そんならお嬢さん、こいつはもう仕方ねえ』そして並べられた硬貨を半分に分けて首を振りました。『半分ずつだ、これをお互いに一枚ずつ、手に取らず、同時に指で動かすだけで数えてやれば文句はあるまい。それ以上はなし、これをナルザルの勘定にしてしまいだ!』
    『ええ、良いわ! それなら炎天の天秤も同然でしょうし、わたしだって明日が早いの!』
     ああ全く、どうしてこんな事になったのやら! お互い最初の一枚に指を乗せ、『せぇーの!』と声を合わせます。『いィーち!』『にィーい!』『さァーん!』怪しい動きは見えません。もちろん美女もよくよく見張っていますから、スープ売りも下手な事はできません。『しィーいッ!』そうして慎重に、お互い見張り合って最後の一枚……『ごォーおッ!』――するとその時です。フゥッ! と強い風が吹き、店のろうそくが掻き消えました。
     辺りをワッと覆い尽くした闇に、スープ売りが声を上げます。『おいおい、なんだってこんな時に消すもんかね!』もちろんそれを見逃す手はありません。『ちょいとお待ちよ、今マッチを出すからね!』そうわざと大声を上げながら、何枚か硬貨を足してしまいました。
     いやあ、満足、満足! ところがそうしてマッチをつけようとした途端、どこからともなく真っ直ぐに、卓の上へと光が注ぎました――真っ白な月光が照らし出したのは、なんともまあ、かたや二枚、かたや八枚の硬貨の山。結局、ぴったり十枚並んでいるじゃあありませんか。
    『ああ、見てらっしゃる……』そういったのはどちらだったでしょうか。そりゃあそうです、こんな愚かな意地の張り合い、相手が同じことをしないとは誰が言えますか? とはいえ、お互い神様を引き合いに出して数えたんですからね。これで手打ちにするほかありません。
     いやしかし、なんならもっと酷いかもしれませんよ。ええ、なんせ神様を引き合いに出したんです、今ろうそくが吹き消された風だって、神様の試しだったのかもしれませんから。そうすると今頃ナルかザルか、もしかするとどちらもが呆れかえってるに違いありません……。
     流石に二人とも閉口し、美女は黙って財布をしまいました。スープ売りももちろん、並んだ硬貨をそっと金庫にしまいました。
    『じゃ、そういうことで……』
    『ああ……、お嬢さんもまだ暫くは、ちゃんとナルとアーゼマの道を選ぶようにね。なんならお巡りさんに連れてってもらうかい? もちろん、街まで安全にだよ』
    『ご心配なく。言ったでしょう、これでも腕も稼ぎも良いのよ。貴方のその気遣いぶん、財布が際限なく膨らむよう祈っています』
     そうして美女が立ち去っていく後ろ姿を眺めたあと、スープ売りはそっと、自分の財布から硬貨を一枚分けました。もちろん、ナルザルに備える為のものです。
    『おお、貴石の大地と星の夜と讃えます、暗く暖かきナルザルよ。我らに知恵と幸運をお恵み下さい。願わくば我らが犯した斯様な愚行を、みな相手を想う慈悲だったのだとしてお許し下さい……いや本当に、馬鹿なことしちまったなァ。お嬢さんもなァにが腕はいいだ、これから出会うのがナルでもザルでも、せめて笑って迎えてくれるよう祈ってやろうじゃないの……』
     はあ、と大きくため息を付いて、スープ売りは今度こそ店を閉めました。まあ、長く商売をやっていれば、こんな事もあるだろう。暫くは天秤に背かないよう、まっとうに塩を入れて商売をしていこうじゃあないか……。

     それから七日を数える頃です。スープ売りの生活は一変しました。
     というのも、本来貧乏鉱夫ばかりが来る小さな店に、どういう訳だか大勢の人間が押しかけてきたんです。しかも来る客来る客、みんな口を揃えて『おい大将! おひいさんのスープはあるかい!』なんて言うんですからたまりません。
    『おひいさんのスープだあ?! 知らねえ知らねえ、うちではこのごった煮しか出してねえよ!』
    『ああ、じゃあそれだ! 大将、そいつを一杯俺にもくんな!』
     こんなのがもう、昼を過ぎて八つ時、夕暮れ、夜中の一杯なんて時間まで続くんです! ああもう、一体どういう事やら。まっとうに商売をしよう、だなんて心がけた途端にこれですから、もはやナルザルの威光が直接届いたことに疑いようはありません。幸い、スープ売りは今ギリギリまで塩をケチるなんて事はせず、きちんと塩入りのスープを拵えていました。それでも足りなそうな連中にだけ、少しだけ塩をかけてやっていたんです。おかげで売上が増したというよりも、以前のようなアコギな微調整なんてやっていたら、それこそこんな大勢の客なんて捌き切れなかったでしょう。
    『ああ、全く、神様ももう少し手心を加えてくれりゃあいいだろうに! まあいい、たまには酒でも飲みに行くかね』
     今日も早く売り切れたスープの鍋を片付けて、スープ売りはいそいそと余所の酒場の方へと出かけていきました。その道すがらでも『ああ、おひいさんのスープってのは、そんなに美味いもんなのかなあ』だの聞こえて来るんですから、なんだかもう却って恐ろしくってたまりません。
     いつもよりちょっとだけ良い酒とツマミのナッツにありついたところで、スープ売りはそのへんの客に尋ねてみました。『なあ、あんた。おひいさんのスープ、なんてもんの噂を聞いたんだが、ありゃあなんだい? 美味いもんなら、俺も味わってみてえもんなんだが』
     すると客はスープ売りのツマミのナッツを一粒取って、しきりに頷きこう答えます。『おうあんた、ありゃァもっと早くに行かなきゃ食えねえよ。小さい店のごった煮だから、どうしても早くに売り切れちまう』
    『へえ。そりゃあきっと、よっぽど美味いんだねえ』なんだかんだスープ売りも料理人ですから、好評を聞けば頬も緩みます。お客もそれを見て、夢見るように涎を垂らしながら続けました。『ああそうさ、なにせ俺たちのおひいさんを救ってくれたほどのスープだからね! 験も担げて腹にもたまる、これ以上ないさ!』
    『なるほどなるほど。ところで、そのおひいさんってのは誰の事だい? まさか本物のお姫様って事はないだろ?』
     すると客は、ちょいとキョトンと目を見開いてから、それからガハハと大きく笑いました。『なんだい、なんだい! アンタまさか、あのおひいさんを知らないでスープの噂だけ聞いて来たってのかい!』
     そういって客が指差したのは、酒場に貼られたポスターでした――見るからに専門のマメットに描かせたそれは、なんともはや、コロシアムの告知です。そして幾人も描かれた雄姿の中に、ひときわ目立つ艶姿。そう、あの晩やってきた美女です!
     驚くスープ売りにも気づかず、客はニコニコと続けました。『このおひいさんがすごい人でねえ。強く美しい剣の舞には、街の誰もが魅了され……そこのトーナメントの前に言い寄ってきた金持ちを蹴ったら、よりにもよって飯の出る所を全部絶たれちまったんだ。なんとか荒野で食えそうなもんを採って過ごしていたある日、夕暮れの影が導く先に店を見つけた! ナルザルの加護厚きその店は、対価には誰より何より公平でな。そこで出てきたのが、砂漠の恵みは盛り沢山、塩も遠慮なく効かせた滋養のスープだった、という訳で……』
     あンのアマ、どんだけ話を盛りやがった――――ッ!!
     そのまま嬉々として美女の活躍を語り続ける酔客を余所に、スープ売りはダラダラと汗を流し続けた。おいおい、するってえとなんだい、まさかあいつ、本当に腕がべらぼうに立っただと? 元は大変どケチなスープ売りです、今まではコロシアムの賭け事なんて、馬鹿のやることとしか思ってなかった。ですがが世の中、そんな馬鹿は思うよりもずっと大勢おりました。加えてその大勢相手に、見目麗しい闘士がありったけの美談を添えて宣伝を打ってしまったようで……ああ、なんてこった! 馬鹿は俺だ!
     スープ売りは酔客に自分の酒とツマミを押し付けて、慌てて酒場を転がり出ました。ええもちろん、あの美女に礼を言うためではありません。この商機を逃さず掴み切る為です! 人気は水物、あの美女が尽きぬ泉であるとも限りません。あちらが勝手に宣伝したんです、おおかた言うことを効かなかった意趣返しでしょうから、勝手にのし上がってしまえばいい!

     きっと、本当にナルザルの加護もあったのでしょう。スープ売りは更にたくさんのスープを作り、人を雇っては更に稼ぎ、最後はコロシアムの近くに自身の店を持つまでに至りました。
     しかし闘士の寿命というのは、さほど長くありません。その人の命が尽きずとも、それに先駆けてやってくるものです。やがて戦いぶりが風化してゆき、名だけが優勝者の碑に残り……そして、幾度も勘定に揉めた二人がいなくなった今、そんな不可思議なご縁と、商売っ気もなにもない意地の話が残るばかりです。由来も何も忘れ去られた、『おひいさんのスープ』と一緒にね。
     さあさ、ウルダハ隠れ名物の美味しいスープ、貴方のお加減に合わせた塩のスープ! おひいさんの美貌も支えた、アーゼマも笑う美容のスープ! お話の記念にいかがでしょう! 一杯十ギル、そちらの窓口でご注文ください!

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    もッちょニゃヌくわェ

    DONEザナラーンにあったらいいな 勘定にまつわるすっとこ話
    頭割り4開催中にコリ……コリ……していたものです どこかできちんとなんやかやしたいね
    おひいさんのスープ、或いは量り自慢のスープ売り はてさて、世にあるものはみな失われる定めにございます。そこに形の有無など関係なく、道理なんてのはその最たる物だ。無法者の存在は洋の東西を問いませんし、ましてや勘定を誤魔化そうなんて程度の不逞の輩、それこそ何処にだっておりましょう。いやあだってね、それが聞いて下さいよ。このザナラーンとひんがしっていやあ、どちらもおんなじ商人の街ってのはご存じでしょう? それだけでも仲良くするに不足はないのに、ずいぶんとまあ似たような事を考えるもんだってんですよ!
     ご存じかもしれませんがね、まず、ひんがしのはこうです。飯屋に入った客がお勘定をするでしょう? 店主の前に財布を出して、そら、硬貨を一枚、二枚、三枚、四枚……おっと大将、今何時で? おやもう五つを数えるのかい! おおっと六枚、七枚、八枚……といった具合でしてね。いやはやこれが人情話だったり、それを聞いた間抜けの話だったり……ともあれ、そういう勘定の誤魔化しにまつわる話がありまして。ああ、詳しく聞いてみたいってんなら、そら、周りにひんがし人くらいいるでしょう。どうぞここから人のご縁を広げてみるとよろしい。
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