昔から宝物はしまっておきたいタイプだった。
兄ちゃんと初めてお小遣いで買ったアイスの当たり棒。こっそり持ち帰って綺麗にした後、凛だけの宝箱にそっとしまっておいた。
自分だけが独り占めできるぴかぴかの宝物。
欲しいと思うものは少なかったけど、その分見つけた宝物は、一等大事にする。
だから誰にも見せずひっそりと隠して、しまっておく。
凛だけの、宝物。
「ん……」
ふと目が覚めると、辺りはまだ暗闇に包まれていた。まだ深夜であると分かり、凛は再びベッドの中に深く潜り込み、腕の中に収まる存在を強く抱き締めた。お互い一糸纏わぬ状態で、触れ合う肌から感じる体温が心地良い。
「んん……、りん……?」
強く抱き締め過ぎたのか、腕の中にいた潔の意識が浮上する。まだ意識が微睡んでいるのか、んぅ、と唸るような声をあげて凛の胸元に擦り寄る。
「いまなんじ……?」
「三時だ。まだ寝とけ」
「んー……」
うにゃうにゃと凛の言葉を理解しているのかいないのか、ぐりぐりと頭を押し付けてくる潔。その時にふわりと香る凛と同じシャンプーの香りに、凛はずくりと再び腰が疼くのを感じた。
昨夜あれほど互いの欲をぶつけ合うように、獣の如く腰を穿ち、曝け出された肌を貪ったというのに、まだ足りないのだと凛の体は正直な反応を見せる。
「起きたらさぁ〜……」
そんな凛の様子など露知らず、潔はぼんやりとした口調で言葉を紡ぎ出す。
「買い物、行きたい。そろそろ冷蔵庫の中空っぽになっちまうから……」
今はオフシーズン真っ只中。
凛と潔はシーズン中触れ合えなかった分を取り戻すかのように家に閉じ籠もり、時にはリビングでくっついたまま映画鑑賞、時には一日中ベッドの中で肌を重ねるなど、ひたすら凛は潔を、潔は凛を求めた。ある程度はそれを見越して事前に買い溜めしておいたのだが、それももうじき尽きそうなのだという。
そう言われた凛は、少しの間じっと潔を見つめる。そしてふぅ、と息を一つ吐いて潔の頭に顔を埋める。
「なら俺が行ってくる。テメェはここで待っとけ」
「えぇー……、お前だけに行かせるの悪いよ。また大量に買いたいし……、んむっ」
凛の言葉に反論しようとする潔の唇を、言葉ごと飲み込むように塞ぐ。
「うるせぇ。テメェは一歩も外出んな」
「流石にちょっとは出ないと体なまっちまうって……」
「家でも十分トレーニングできるだろ」
それに、と付け加えて凛は体を起こし潔に覆いかぶさるような形になる。
「テメェは明日ここから動けねぇよ」
そう言って無数の跡が残る潔の首筋にがぶりと噛み付き、新たな跡を付ける。
「はぁ!? ちょ、まて……っ、なんでもうやる気になってんだよ……!?」
今の会話の流れでそんな要素無かっただろ!? と、すでに臨戦態勢になりつつある凛を見てジタバタする潔を抑え込む凛。こうなってしまえば、悲しいかなフィジカルの差で潔にはどうすることも出来ない。
「最後まで付き合えよ」
するりと伸ばされた手は腰から太ももへ。そして、ちゅ、ちゅ、とわざとリップ音をたてて頬に首に胸元にと唇を落としていく。その度にぴくん、と震える潔の反応に気分がどんどん向上していくのを凛は感じていた。
「あ……っ、もぉ……、しょうがないな……」
降ってくる愛撫に体を震わせながら、潔はくしゃり、と凛の髪を掻き上げ頬に手を滑らせる。
「今は、お前に囲われてやるよ。凛」
「はっ……、潔にしてはいい心掛けじゃねぇか」
凛の思惑など、潔には筒抜けのようで。それも含めて潔はいつも凛を受け入れるのだ。
口にするつもりはないが、こういう時に潔には敵わないと思ってしまうのと同時に絶対に手放してやらねぇ、と凛は心の中で固く誓う。
本当なら他の誰も目に触れないところにしまっておきたいが、それは世界も、潔も、そして凛自身も今は望むところではない。今は、まだ。
ならばせめて、二人だけの時間が許されるこの一時の間だけでも。世界から潔を隠して、凛だけの潔にしてしまいたい。
(いつか引退して、表舞台から降りたその時には──)
その時こそ、凛は潔を世界から隠してしまうのだ。二人だけの家を宝箱にして。
(今から良さげな土地、探しておくか)
そんなところまで凛が考えているとは流石の潔も知ることはないまま、凛の熱は再び潔の中へと沈んでいくのだった。
──今日も宝箱の中にあるそれは、一際美しく輝いている。