──叶えたい願いは自分の力で叶えるもんだろ。
だから凛は流れ星に願い事をしたこともないし、する気も起きなかった。
「なー凛!今夜、星見に行かねぇ?」
「あ? 急になんだよ」
「今日星がよく見えるらしいんだよ! 明日は特に予定もないしたまには良いだろ」
深い青をキラキラと輝かせて凛を見つめる潔。凛としても特に断る理由はなかったが、なんとなくそのまま了承するのも癪だった。だからほんの少しの我儘を乗せて答える。
「……明日、朝飯は茶漬け出せよ」
「んふふ、そう言うと思ってすでに鯛の切り身まで準備してあるんだぜ」
どうだ、と凛の考えなどお見通しと言わんばかりに鼻を高くする潔が余計に憎らしく見えて、その高くした鼻を一発中指で弾いてやった。
「おーっ!! やっぱ今日来て正解だよ! すげぇ綺麗だなー!!」
興奮した様子で空を見上げてはしゃぐ潔をどっちが年上かわかんねぇな、と正反対な様子で凛も空を見上げる。
車を走らせて都会の喧騒から離れ、事前に教えてもらった観測スポットで二人はただ空を見上げていた。
潔の言う通り、今夜は雲一つなく星の輝きがよく見える。
「あっ! 流れ星!」
キラリと一際輝き流れる星を見つけ、潔は嬉しそうに声をあげる。
「流れ星が消える前に願い事三回って、なかなか無茶言うよなぁ」
「お前、星なんかに願掛けするつもりかよ」
「良いだろ別に。こういうのは気分というか雰囲気みたいなもんだろ?」
「くだらねぇ」
「ははっ、お前らしい答えだな。そりゃ、本当に叶えたい願いは自分で叶えるもんだと思うから星に願うのは違うと思うよ」
けど、と潔は少しだけ目を細めて笑う。
「ほんの些細な、小さな願いくらいは、星に願ってもバチは当たらないだろ」
それだけ呟くと同時にまた星がきらりと落ちる。
「……やっぱくだらねぇよ」
「もぉ、風情のない奴」
凛の呟きに苦笑いを浮かべる潔。それでも視線は未だ星が輝く空へ向いている。
「星に願ってる暇があんなら」
そう聞こえた同時に潔は唐突に顎を掴まれ、瞬時に視界が一面の星空から対の翡翠に変わる。
「自分で手繰り寄せたほうが早ぇ」
そう呟いて、引き寄せられるように唇が重なる。
空には再び星が流れ落ちていたが、潔の瞳にはもう目の前の翡翠の輝きしか映っていなかった。