海原と坂東光の差し込まない暗い部屋。殺風景で灰色に満ちた床にそれは横たわっていた。
「あ」
砕けたパネル。鮮やかな青はくすみと消え、色のついた木片がそこかしこに散らばっている。
「あ、ああ・・・」
長いこと、忘れていた。家では日常茶飯事だったこの光景。もう、逃げられたと、逃げ出せたのだと思っていたのに。
ただ黙って背中を向けている坂東が見つめているものが何であるかを理解したが否や、海原の体は膝から崩れ落ちた。
その小さなパネルはかつて実習室の隅にちょこんと飾られていた。
きらきらと銀色が煌めく水面と深く淀む海の底。その間を悠々と泳いでいる一頭のイルカの影だけが白く浮いた砂の原にぼんやりと映り込んでいた。
恐らく習作のひとつなのだろう、他にも似たような主題の絵がそこかしこに置いてある。
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