陶酔 黒川イザナは目の前でベロンベロンに酔っぱらった青年を冷静に見下ろしていた。
否、外面上、冷静そうにしているだけでその実、全く冷静ではない。古今東西、酒というのは人を開放的な気分にさせる。
それは、初めて飲酒を行った者であれば加減を知らないのであるから猶更だ。
「いざらくんっ!なんでおしゃえとるんれすか!!」
取り上げた缶のサワーを黒川は喉奥へ流し込んで行く。縋りついてむずがる花垣の髪を撫で梳かしながら、しっとりと柔らかい髪に指を通して弄んだ。
余裕さなど皆無。数多の障害をどうにか押しのけて晴れてやっと恋人になった黒川は、存外に四歳年下の花垣を大切にしていた。初めて身体を重ねようとした際も「痛いのには慣れてるんで!」と勇猛さを発揮していた花垣を軽くはたいて、丹念に準備を施している段階で。甘い雰囲気は残念ながら未だ無く。病院で診察をするような気持ちになっている。
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