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    蝋いし

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    蝋いし

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    ガスマリ日常、罰ゲーム

     リビングのソファに座るまま、マリオンに睨みつけられて数分経った。ガストは視線の鋭さへ身を強張らせるばかりだ。
     ノースのチームは午前がオフだったので、ガストは朝食を終えてリビングでくつろいでいた。レンはまだ寝ているしドクターはおそらくラボ、マリオンは外へ出ていたらしかった。
     そのマリオンが部屋に戻るなり、ソファのガストへ詰め寄った。何事かと立ち上がりかけたガストに、マリオンは一言「座っていろ」と言いつける。
     それから数分、座るガストのわきでマリオンは仁王立ちだった。
     何かしてしまったろうかとガストは記憶を手繰るが、思い当たるような出来事がない。無自覚に何かやらかしたのか。以前に「そういうところだ」と言われたときも、ガストは何にも思い当たらなかった。
     ガストが冷や汗かいていると、今度はドクターが部屋へ戻った。
    「おや、マリオン。難しいようなら、実行せずともよいのですよ」
    「うるさい。オマエは黙ってろ、ヴィクター」
     ガストは助けを求めてドクターを見上げた。
     ドクターはマリオンの態度にか、それともガストの視線にか肩を竦めてキッチンへ行ってしまった。
     ガストたちを気にすることなく、エスプレッソカップを棚から取り出している。
    「お、おーい、ドクター、説明してくれよ」
    「気になりますか、ガスト」
     気になるに決まっている。エスプレッソを淹れる準備しながら、ドクターが言うにはこうだった。
     ラボでノヴァ博士が失くしものをしたらしい。ドクターとマリオンは、失くしものがどこにあるか予想を立てる勝負をして、マリオンが負けた。
    「負けたマリオンの、罰ゲームのようなものです。私たちのあいだで金銭を賭けても仕方がありませんし」
    「えっ、それが、なんでこれ? 内容は?」
    「『ガストの膝に腰掛ける』」
     たとえ「俺の意思は」と訴え訊ねても、このメジャーヒーローはきっとマイペースにきょとんとするだけだろう。
     詳細をガストにバラされたマリオンは、いっそう視線を鋭くした。
     ちなみにドクターが負けた場合の罰ゲームは何だったのか。訊ねたガストにマリオンが答える。
    「……『今日一日、ボクの椅子になれ』」
     マリオンがドクターをあまり好いていないのは知っていたが、ガストの認識は甘かったようだった。
     たぶんマリオンが先にドクターへの罰ゲームを決めて、応じたドクターがガストを巻き込んだんだろう。マリオンの言う内容の単純に逆では、さすがのマリオンも体格差で辛い。
     さらに戸惑ってガストはドクターを見つめたが、ドクターは自身の手元に掛かりきりだった。
     いつもなら、大体三番目の引き出しに入っているはずなのに、と忌々しげにマリオンが言うのは、おそらくノヴァ博士の失くしもののことだ。マリオンの苛立つ気配は強く、ガストの肌に痛いほどだった。
     ガストは意を決して脚を揃え、自分の膝をポンポンと叩いたのだった。
    「えーっと、マリオン、そういうことなんだったら、俺の膝は好きにしてくれ」
    「昼まででいいですよ。午後はパトロールですし」
    「お、おぉ、そっか」
     ドクターの助け船なんだかどうなのか、よくわからないフォローにガストは苦笑いした。
     ついに動いたマリオンはずんずんやってきて、むっとした表情をそのままにガストの膝へ腰掛けた。正面ではなく直角の向きで腰掛けたので、ガストからのマリオンは横顔だ。
    「こんなの、なんてことない」
    「そ、そうだな。マリオン軽いし」
    「オマエのことなんか言ってない!」
     うっすらと頬の赤らんだマリオンはガストを見やって叱りつけた。
     マリオンとしては、「こんな屈辱などどうということもない」と言いたかったんだろう。腰掛けられたガストの立場がないのはいつものことだった。まぁ実際のところ、立場こそないにしても腰掛けられるくらいではガストの方も屈辱というほどはない。
     ドクターを椅子にする予定だったというのは、マリオンの中では四つん這いにさせる、あの絵面が酷いやつだったろう。ガストが膝にちょんとマリオンを乗せる程度、それこそ「なんてことない」。
     ドクターはちら、とガストたちに目をやってから、「では」とだけ言ってメンター部屋へ行ってしまった。知っていた。ドクターはそういうことをする。
     マリオンはドクターが行ってしまっても律儀に罰ゲームを続けるようで、ガストに座るままテーブルからタブレットを取り上げた。不機嫌そうではあるがこの位置でいいらしい。まいったな、とガストは思ったが、しかし別に困ることもないだろうか。
     決して重いわけではないし、小柄だから邪魔とも感じない。
    「おっ、マリオンもそのカフェ行くのか? そういえばパンケーキもやってたっけ」
    「オマエには関係な……行ったことあるのか」
    「あぁ。A班のやつらと、このあいだ」
     先日に四人で食事へ出たのだ。
     ルーキーズキャンプの班分けで、ガストたちA班はキャンプ後もそれなりの頻度で集まっていた。B班もときどき顔を合わせて遊んだり何なりしていると聞く。先日のA班はノースで食事したいという話になって、ガストが最近見つけたこのカフェへ入った。
    「グレイがカップケーキをテイクアウトしたんだけど、うまかったって言ってたぜ。ならパンケーキもいけるんじゃねぇかな」
    「別に、パンケーキを注文するって決まってるわけじゃないけど」
    「そうなのか? 俺が食べたのは、これと、これと」
     マリオンがタブレットをこっちへやってくれるはずもないので、マリオンの身体ごと抱き寄せて画面を操作する。
    「どれもなかなかだったな」
    「……ジャックの料理と比べたら、どっちだ」
    「いやいや、それは、ジャックと比べちまったらそこらの店じゃ敵わねぇって」
    「なら大したことないな」
     と言いつつ、マリオンはメニューのパンケーキを見つめている。
     ガストがあんまり店の味を褒めるから、少しマリオンをむっとさせてしまったようだった。そりゃあ身内を差し置いて余所を持ち上げられては気分も悪くなる。あからさまな様子にガストは笑ってしまった。
     目上を年下扱いするな、とはガストは前にもマリオンから叱られている。あのときのなわとびは鞭と同じくらい痛かった。しかしこうやって張り合おうとしたり、機嫌が顔に出たり、些細でもガストからするとだいぶ幼い。
     体重だって軽くて、本当に膝に乗っているのだかいないのだか。足が床についていないので、間違いなくこれでマリオンの全体重のはずだ。腰もこんなに細い――と意識をした途端にガストは気がついたのだった。
     自身の手がマリオンの腰に掛かっていた。タブレットを見たくてマリオンの身体を支え、こっちへ向かって引き寄せた。マリオンがされるままいたので考えがなかったが、気づいてガストは胸が変にドキッとしてしまった。
     マリオンはさほど興味のないふうを装っているものの、パンケーキのラインナップをしっかりと目で追っている。
    「まぁ悪くはなさそうだけど」
    「あっ、そ、そっか、ならこのあと行くか? 俺も他のメニューが気になってたんだ」
     ふんっ、と息をついて思案するマリオンの顔は、だいぶ「このあと行く」方へ気持ちが傾いていて見える。
     あと一言二言ガストが誘えば、マリオンは行くと言うだろう。マリオンともっと親睦を深められればとガストは思うので、きちんと誘いたいところだ。が、どうにも意識が手の方へ向く。
     さっきは無意識に割合と力を込めたようで、ガストの手に結構な重さマリオンの重心が掛かっている。ガストの無意識は仲間内で肩でも組むような感覚だったんだろう。こんな華奢なマリオンに自分はなんてことしたのだ。マリオン本人は気にしていないみたいだが。
     マリオンはカフェへのアクセスを確認している。ガストが急に手から力を抜いたら、たぶんガクンとしてマリオンを驚かせるだろう。相手がアキラ辺りだったらこんなこと気にしないのに、マリオンが相手だと妙に緊張する。
     腰は細くて、身体自体に厚みがない。マリオンは初対面のときのガスト以外からも性別を間違われたと聞くが、これではしかたがないのじゃないか。いや、マリオンを女扱いしているつもりはない。
     でも顔も可愛いんだよなぁ。
    「そろそろオープンの時間か。ガスト、オマエが気になってるなら付き合ってやっても……レン。今起きたのか、遅いぞ」
    「遅くない。午前中はオフだから時間は関係ないだろ。二人して、それは何をやってるんだ」
     体勢に言及されて途端にマリオンが不機嫌になったので、ガストが「罰ゲームなんだ!」と声をあげた。思わず腕に力が入り、余計にマリオンの身体がずれてこっちへ寄る。
     昼食を食べに出るなら、実質もうドクターの言う昼じゃないだろうか、とガストは二重に慌ててマリオンに提案した。マリオンの機嫌を損ねたくないのが一つ、マリオンを抱き寄せてしまったのがもう一つだ。慌てた甲斐があったのか何なのか、レンは興味なさそうに顔を洗いに行ってしまった。
     マリオンは体勢解消の理由を得たのとパンケーキへの興味で、すぐにすまし顔でガストの膝を下りた。膝からは体温が離れ、手からも支えていた重みが消えた。ガストはほっとしたが同時に変に少し寂しさも湧く。
    「今から店に行って、そのままパトロールに出るから準備しろ。は? おい、何おかしな顔してる」
    「えっ、あ、いや!? 元からこんな顔ですけど!!?」
    「変なヤツだな」
     もうお腹がすいているのか、とマリオンが言うのでガストは肯定しておいた。昼食へ気持ちが逸って変だったのだと思われたらしい。
     マリオンは早く支度しろとガストを急かした。パンケーキをずいぶん楽しみにしているみたいだ。年相応よりも少し幼くさえ見える。ガストが妙なことに焦っていたなどマリオンが知る由もない。
     マリオンが離れて、変に湧いた寂しさについては今度向き合うことにする。マリオンが頼んだのと別のフレーバーを注文したら、シェアできてマリオンも喜ぶだろうか。考えていたらマリオンにまた急かされたので、ガストは笑って返事をして身支度し始めた。

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