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    蝋いし

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    蝋いし

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    ガスマリ、ウエディングフォト(🌹女装)

     女性向け雑誌のブライダル特集に、ガストたちの記事が載ることになった。
     インタビューが少しと、正装姿の写真が複数掲載される。女性向け雑誌なら男のガストたちよりもドレスがメインの写真の方が喜ばれそうだが、そういうのは専門の結婚情報誌に敵わないからやらないそうだ。
     ドクターは白のタキシード姿で一人、難なく撮影を終えて帰った。ドクターがガストたちの撮影を見守る姿は想像できなかったが、あいさつ一言で先に出ていくなんてドクターは相変わらずドライだ。
     マリオンはブラウン系、レンはブラックのタキシードで、女性モデルと一緒に撮影だった。腕を組んだり手を取ったり、ドレス姿のモデルの身体が一部だけ写り込むように撮っていた。マリオンはそつなくこなし、レンは少し表情の硬さを指摘されていたか。
     そうしてガストの順番になって、今ガストは女性モデルを前に困り果てていた。
     ガストもドクターのように、一人きりで写してほしかった。スタッフからガストの受けた指示は、女性モデルの横抱きだ。ガストは意を決して構えたものの、身体が強張ってどうにも上手く力が入らない。
     女の子はやっぱり、どうしたって苦手だ。腰が引ける。
    「おいガスト、ふざけてるのか? オマエは前にレンを軽々運んでただろ」
    「いや。緊張してたら、普段は入る力が入らないことだってある……かもしれない」
     マリオンの叱責に、レンが珍しくフォローを入れてくれた。ガストが異性を苦手に思っていることをレンは知っている。
     周りのスタッフもレンに同意したので、取りあえずマリオンがそれ以上ガストを叱ることはなかった。が、どうしても雑誌側としては、ガストに花嫁を抱かせたいみたいだった。
     ページの絵面を考えて、他の三人とのバランスなり何なりがあるんだろう、と思いきや、ガストの体格についてやら、「イケメンにはお姫様抱っこさせたい」やら言うスタッフらの話し声が聞こえる。
    「えぇ……」
    「オマエって、案外おかしなことで緊張するんだな」
    「うぐ、やっぱりおかしいか? ははっ、マリオン相手だったら平気なのにな」
     ガストの言葉に、マリオンが「何を言ってる」の表情でガストを見上げた。通じなくてガストは助かったのかもしれない。マリオンはこんなに可愛い顔をしているのに、ガストは平気だという意味で出た言葉だったからだ。
     傍に来ていたレンは、ガストが持ち上げてやれなかったモデルに話し掛けられていた。「別に、あんたが重かったせいじゃない」などガストが出したNGについてモデルを励ますようなことを言っている。
     会話の流れがあったんだろうが、レンの言葉がガストには何だか意外だった。いや、意外と表したらレンに悪い。レンもドクターに劣らずドライに見えるが、決して人に冷たいわけじゃない。
     レンを横目に、ガストもガストでマリオンとのんびり雑談していた。話し合いはスタッフらで行われるので、ガストたちが口出しすることはないからだ。
     しばらくで、話し合いを終えたスタッフの一人がガストのことを呼んだ。もし撮影の相手が同じチームのメンバーなら、緊張することはないのでは、とスタッフは言う。当たり前だ。マリオンにもレンにも、帰ってしまったドクターにも今さら緊張することなんてない。
     と、ガストの答えたのは正解だったのかどうなのか。こんなことになるなんて、とは後の祭りだ、何がどうなってのことか結果、何故かマリオンがドレスを着ることになってしまった。
     いいや、説明はあったのだ。スタッフはどうしても、ガストにドレス姿の相手を横抱きさせたかった。相手がマリオンならガストは緊張せずに済むし、マリオンはガストが抱き上げ損ねたモデルよりもかなり華奢で背が低かった。重量も軽かろうという判断だ。ガストはマリオンが怒り狂うかと思って、最初血の気が引いた。
     しかし意外なことに、ガストの予想に反してマリオンは激昂しなかった。自分の着られるドレスはあるのか、とマリオンは冷静にスタッフへ訊ね返した。あると答えたスタッフが、マリオンを案内しようとする。
    「待っ、マリオン! 待ってくれ、いいのか? 大丈夫なのか!?」
    「誰にものを言ってる。大丈夫に決まってるだろ、ボクにできないことなんてない」
    「いやっ! その、ドレスだけど!?」
     それがどうした、とマリオンはスタッフに連れられて行ってしまった。
     取り残されたガストは呆気に取られるばかりだ。初対面でマリオンを女の子に間違えて、鞭でひっぱたかれたのはガストの記憶に鮮明だ。間違われるのが嫌だというだけで、仕事であれば割り切ってドレスも着られるんだろうか。
     おろおろし始めたガストへレンが「落ち着け」と言う間に、マリオンは純白のドレスでスタジオに戻った。
     マリオンはたっぷりした生地のスカート部分を鷲掴みに、裾を踏んでしまわないよう引き上げてずんずんやってきた。歩き方こそ合理の極みだが、肩周りを隠して筋肉が目立たないドレスデザインに、被るタイプのベールをしていて丸きり着飾った花嫁だった。
    「まったく、こんな格好をすることになるなんて……オマエのせいだぞ、これでしくじったら承知しない。聞いてるのか!?」
    「聞いてる! 聞いてます!」
     顔を半分隠すベール越しに、マリオンはガストをキツく睨みつけた。怒られた、とガストは身が縮む反面、この花嫁がマリオンなのだと納得してホッとする。
     華奢な首はネックレスが掛かっていて、小さな耳にも華やかなイヤリングが揺れていた。細い腕も白のグローブが覆って骨の凹凸はほとんどわからない。そうして当然、顔は可愛らしいマリオンだ。ガストが戸惑うほど"かわいい花嫁"の外見そのものだった。
     このトラブルで時間をくったせいか、マリオンが戻ってからのスタッフらはずいぶんと慌ただしかった。花嫁のモデルが変わったせいで、機材にも調整がいるんだろう。ガストはマリオンと二人、スタッフに急かされて撮影用の背景の前に立った。さっきと同じく横抱きの指示を受ける。
    「えーっと、マリオン、いいんだよな? いやっ、すげぇ似合ってる! すげぇ似合ってるけど」
    「何度も言わせるな、オマエのせいだぞ。嫌だけど、ボクのいるチームの仕事を失敗になんてさせるわけにはいかない」
    「あ、あぁ、そういう」
     早くしろ、とマリオンがガストの肩へ手を掛けるので、ガストはマリオンの身体をそっと抱き上げた。
     マリオンの腿の下と腰辺りへ腕を回して、自分の身体にマリオンの重心を引き寄せる。スタッフの視線が一気にこちらへ集まって、撮影のためとはいえガストはちょっと驚いた。
     同時にそれとは別に、ガストはもう一つ戸惑いが湧いた。
    「いいか、集中しろ。言っておくが、もしふざけてボクのことを落としたら鞭で打つ」
    「あぁうん、うん……? マリオン、両足浮いてるよな」
     不機嫌だったマリオンが、ガストの言葉に「は?」と変な顔をした。
     マリオンの着てきたドレスがずいぶんと豪華だったので、ガストはさぞ重いだろうと気合を入れたのだ。それが呆気ないほど軽く持ちあがってしまい、マリオンが台か何かに足を残しているのかと思った。
     見ると、揃ったマリオンの両膝は、ガストの腕の向こうでスカート部分を押し上げている。今抱えている分でマリオンの全体重のようだ。華奢なのは知っていたがあまりの軽さに戸惑った。
    「両方とも浮いてる。オマエが持ち上げてるだろうが」
    「あぁ、そうみたいだな。ははっ、軽くて驚いちまった、って鞭! なんで!?」
     鞭が振るわれる前に、スタッフの指示が入ってガストは危機一髪助かった。
     指示によるとマリオンの上半身側を高く持ち上げて、ガストは見上げるようにとのことだった。高さを上げるのにガストは軽く勢いをつけてしまったが、体幹のしっかりしているマリオンはちょっとした揺れなど平気な顔だ。
     マリオンの顔以外の部分、肩や腕、ベールが写るアングルで、ガストへ大きなレンズが向いた。指示を受けて笑顔を作れば、すぐに何度もストロボが瞬いた。
    「あれ、マリオン? どうしたんだ、笑って」
    「オマエを見下ろせるのは悪くない」
     ガストが苦笑いになったところで、最後のシャッター音がした。あともう1ポーズ撮って終わりだ。
     横抱きから床へ下ろしてやると、マリオンは腕を組んで次の指示を待った。マリオンは高さの調節のためか、踵の高い靴を履いていたが履きこなしてすでにものともしていなかった。ガストはマリオンに手を貸そうか迷ったのだ。ドレスの下にはきっとハイヒールで堂々と立つマリオンの脚が伸びている。
     どんな格好をしていても、マリオンはマリオンだなぁとガストはしみじみした。背筋を伸ばして指示を待っている。ベール越しに凛々しい視線が真っ直ぐだ。
     一息つく間もなく、ガストたちは次のポーズの指定を受けた。ガストのせいで撮影が押しているので急ぎ足は仕方がない。今度は二人向き合って、ガストの横顔をメインに撮るそうだ。
     指示通りさっそくガストはマリオンと向き合った。マリオンは年下ながら慣れた貫禄を見せて、短い指示へ完璧に従っている。ガストよりもずっと、今までたくさんヒーローとしてこういう撮影に臨んできただろう。
     マリオンは小さな顎を引き、ベール越しにガストの顔を見上げた。マリオンの顔がはっきり写るわけではないので、マリオンは表情の指定を受けていない。マリオンが「自分の顔が写らないのなら」と今回ドレス姿を了承したのだから当たり前だが。
     スタッフによると何パターンかガストの雰囲気を試したいそうで、嬉しそうなのとか真剣なのとか、いろいろ種類を撮るという。最初は自由に、と言われてしまってガストは大いに戸惑った。
    「おい、間抜け面をさらすな」
    「え、えぇ、んなこと言われたって……マリオン、何かアドバイスしてくれないか?」
    「そんなものない。ボクは始めからできたからな」
     得意げなマリオンの表情に弱って、ガストは思わず笑ってしまった。ストロボが瞬く。今みたいなのも撮られるのか。
     ガストがどんなに弱っても、マリオンは変わらずいつも通りだ。しゃんとしてガストの顔を見上げる。いつも通り言葉は厳しく、いつも通り可愛らしい顔だ。
     初めに女の子かと間違ってしまったのを引きずっているつもりはないが、改めて見つめてもマリオンの顔は性別がわかりづらかった。普段はつけていないアクセサリーに、ドレス姿の胸元で判断への迷いが増す。そのうえ可愛らしい作りの顔は、じっとガストを見上げているのだ。マリオンはマリオンなのだとわかっていながらもやっぱり可愛い。
     不意に、顔の前に掛かる薄布が邪魔だなとガストは思った。どうせなら直に見つめたい、思う間に指が伸び、ガストはマリオンのベールを捲り上げていた。可愛い顔はきょとんとして、一呼吸後に怒りで真っ赤になった。
    「あっ、悪りィ!」
    「どうして捲ったんだ! 指示を聞いてたか!? オマエのせいで撮影が押してるのに!」
    「悪かったって!! ちょっと、なんか、直に見たくなっちまって!」
     ベールを捲ったマリオンの姿に見惚れて、ガストは余計な言い訳してしまった。
     そのあいだにもカメラからはシャッター音がしていた。こんなとこ撮ってどうすんだ!?と焦るガストに、指示に従わないガストへ真っ赤な顔で怒るマリオンだ。ベールがなければ顔が目立つので、それを含めてマリオンがさらにガストを叱る。ストロボの光まで混ざっててんやわんやだ。
     マリオンがガストを叱り尽くして、ようやく落ち着いたころにカメラマンがオーケーを出した。何がオーケーなんだ?とガストは疑問だったが、これ以上何を口にしてもマリオンが怒りそうで、そっともう一度謝るにとどめた。
    「ボクだとわからないならと、ドレス姿を引き受けたのに」
    「そ、それは、大丈夫なんじゃねぇかな。雑誌側が計らってくれるだろうし……。同じページにマリオンのタキシード姿も載るんだろ? 同一人物だなんて、読者は気づかねぇと思う。たぶん、だけど」
     そうだろうか、とマリオンがガストを見やる。
     結局マリオンだって好きで女の子と間違われているわけじゃないのだ。たしかに綺麗で可愛らしい顔をしているが、立ち姿といいガストにとっては"かわいい花嫁"でなくはっきりとマリオンだ。
     姿勢がいいからタキシードも似合っていたし、女性モデルのエスコートもガストなんかよりずっとスマートだった。ガストは自分の番に怯えていたせいで、さっき伝え損ねた賛辞を改めて言った。
    「…………信じるからな」
    「ん?」
    「なんでもない。いいか、オマエが指示に従わないからこうなったんだぞ。今度おかしな真似をしたら、それこそ鞭で打つ」
     鞭のグリップをちらつかせるマリオンは、ドレス姿のまま何故かすっかり本調子のようだ。切り替えが早い。よかった、と思うものの、鞭の気配に今度はガストが落ち着かなかった。



     撮影からひと月ほどたったころ、ガストたちの記事が載った雑誌が発売された。
     本屋で見つけたガストが真っ先に確認したのは、自身がメインで写った写真だった。マリオンが不安に思うような写り方はしていないだろうか。
     結論からいうと、マリオンだ、と明らかにわかるような写真はひとつも載っていなかった。横抱きの写真に花嫁の顔はまったく入っていなかったし、向き合って撮った方もガストの手でマリオンの横顔が隠れていた。
     ただ、手で隠れていたということは、ガストがベールを捲った辺りの写真ということだ。
     一枚一枚は扱いが小さかったが、写真は妙に真剣な表情のガストがベールを捲る動きの一連を追っていた。ガストはベールの下へあからさまに見惚れる表情をして、見惚れたあとマリオンの激昂に焦って笑いが出てしまったところまで写っている。
     ガストはなんとも表し難い感覚に片手で口元を覆った。
     雑誌を買って本屋を出て、スマホを手に取ったらちょうどジュニアから連絡が入った。A班の三人で雑誌の電子版を読んだという。ジュニアの送るメッセージなのでマリオンの内容が大半だったが、ガストのことも一応褒めてくれていた。
     マリオンへメッセージを送ってから、ジュニアにも返信する。マリオンへは、「このガストの写真で花嫁がマリオンだとわかるヤツなんていない」と安心させたくて急いで送った。ジュニアも気づいていないようだ、とも。身近な相手にさえわからないと言えば、マリオンも安心するだろう。
     この"花嫁"について、噂が流れていることをガストが知るのは数分後だ。写真に写るガストの表情や仕種から、「このモデルとガストは恋仲なのでは」「ガスト一人だけ恋人と撮ったのか」と広まりつつあった。
     のんびりとジュニアへの返信を考えて、ガストが笑顔でいられる時間はもうあまり長くない。

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