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    蝋いし

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    蝋いし

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    ガスマリ、北CD童話パロのナレーション(助手1号)×ヘンゼル

     研究の手伝いを終えて戻ると、廊下にヘンゼルとグレーテルの二人がいた。
     ヘンゼルが、グレーテルを部屋から引っ張り出しているようだ。深夜というほど遅い時間ではないが、子供ならもう寝ているはずの時間だ。案の定、グレーテルは寝惚けているようで、ヘンゼルに肩をガクガク揺すられている。
    「おい寝るな、グレーテル!」
    「どうした、お二人さん。いつもならもう寝てる時間だろ?」
    「あっ、オマエ……手伝え! グレーテルが立ったまま寝てしまうんだ、トイレに行くって言ってるのに!」
     こちらへ説明しながらも、ヘンゼルはグレーテルの肩を揺さぶり続けた。
     されるままいるグレーテルは、ひどい衝撃だろうに瞼が半分以上閉じている。傍へしゃがんで、ヘンゼルの代わりにグレーテルの肩を叩いてやった。
    「おーい、グレーテル。トイレに行くんじゃないのか?」
     声を掛けると、バランスを崩したグレーテルの首がガクンとこちらへ向かって倒れた。行くのか行かないのか、どっちだ。わからなかったが、取りあえずトイレには連れて行くのがよさそうだ。
     ヘンゼルがグレーテルを連れ出そうとしていたのを見るに、ヘンゼルも用を足しに部屋を出るつもりだっただろう。というか、ヘンゼルがトイレに行きたくて、グレーテルを付き合わせようとしていたかもしれない。子供が夜に一人でこの屋敷を歩き回るのは、まだ恐ろしいことに違いないからだ。
     立ったまま舟を漕ぐグレーテルを片腕に抱き上げてやった。
    「連れてってやるよ。トイレだな」
    「うん…う……」
     八割方意識のないグレーテルは、寝言みたいな返事をした。
     行くぞと言って歩き出すと、グレーテルがもう一つ寝言で返事をする。笑ってしまった。しっかりしているようでやはりまだ子供だ。
     ふと笑ったのを咎めるようなタイミングで、何故かヘンゼルがグレーテルを抱いていない方の手を思い切り引っ張った。ヘンゼルはこちらを睨み上げる顔で、腕にしがみついていた。
     やっぱりヘンゼルは、夜の屋敷が怖かったんだろう。放ってしまっていたのを謝って、ヘンゼルの小さな手を握ってやった。
     長い廊下を行って、トイレまで二人に付き合った。行きも帰りもよくしゃべるヘンゼルは、思ったとおり夜の屋敷が怖かったようで、ずっとグレーテルへの文句や強がりを言っていた。可愛い顔で唇を尖らすヘンゼルに、笑いながら相槌を打ってやる。グレーテルは帰り道ですっかり眠ってしまった。
     部屋へ着いたがグレーテルが目を覚まさないので、中のベッドまで連れて横たえた。枕のわきで寝ている猫に、グレーテルをよろしくと言って部屋を出る。
    「じゃあヘンゼルも、おやすみ」
    「……おい」
     ヘンゼルの部屋の前で離そうとした手は、しかし強く握られて離せなかった。
     用は足したしここは部屋の前だし、手を繋いでいる理由はもうないはずだ。何事かと立ち止まろうとしたものの、結局ヘンゼルに引っ張られ部屋の中へ踏み入れてしまった。子供を振り払うわけにはいかない、というよりヘンゼルの力が強くて振りほどけない。
    「ヘンゼル? どうしたんだよ。俺、何か気に食わねぇことしたか?」
    「うるさい。グレーテルのことはベッドまで送っただろ」
     グレーテルは寝てたからそうしただけなんだけど。思ったが、理由がわかったのでヘンゼルに引かれるまま行ってやった。仕方がないなぁと笑いが漏れる。ヘンゼルもグレーテルと同じように、ベッドまで送ってもらいたかったようだった。
     身体に対してだいぶ大きなベッドへ、よじ登るように乗り上げるヘンゼルに横から手を貸した。ヘンゼルが枕に頭を置いて、ふぅと息をつく。
    「いいか? じゃ、今度こそおやすみ」
    「オマエはまだ寝ないのか」
    「俺? 俺はもう少し起きてるかな」
     そうか、と返事したヘンゼルの声はすでに眠そうだった。
     強引に脱出へ協力させられたり、気持ちワルイと言われたり、最初から散々だったが最近のヘンゼルは少しだけ心を開いてくれている気がした。まだ寝ないのか、なんて、こちらのことを気にする言葉をかけてもらえたのだ。
     胸が温かくなって、そうっとヘンゼルの頭を一撫でした。そうして、満足した気分でベッドを離れた、つもりだった。しかし服がつっ張って離れられない。手といいさっきからこんなことばっかりだ。
    「んんっ!?」
    「オマエも、早く寝ろよ。早く寝ないと身体に悪い」
    「お、おぉ、そうしてぇけど、ヘンゼル、どうして俺の服を掴んでるんだ……?」
     ヘンゼルは答えず、代わりに服を掴む手を思い切り引っ張った。
     引かれてベッドに倒れ込み、ヘンゼルの隣に身体が落ち着いてしまった。ヘンゼルに当たりそうになった腕を慌てて避けるが、避けきる前にヘンゼルが捕まえて、腕を細い首の下に引っ張り込んでしまった。ヘンゼルに腕枕してやっている具合だ。
    「お、おーい、ヘンゼルー」
    「早く寝ろ。どこで寝たって同じだろ。……ここじゃ嫌だっていうのか」
    「嫌っつーか、嫌なわけではねぇけど、いや」
     小さな子供とはいえ、女の子が男と同じベッドで寝るのは果たしてよいことか。悩むが、見る間にヘンゼルの瞼が蕩け落ちる。呼吸は規則正しく、小さくて体温の高い身体もくったりと力が抜けていた。手だけが掴んだ服の生地を離さない。
     ヘンゼルは強引なところのある性格だが、この行動には何か理由があるんだろうか。考えてはみるものの、傍らの体温が心地良くて瞼が知らぬ間に閉じていく。
     どうせ服が掴まれたままなのだ。どうしようもない、と開き直って自分も眠りに落ちた。



     子供の朝は早い。隣に寝ていたヘンゼルに、「起きろ!」と揺さぶられて目が覚めた。一瞬だけ混乱したものの、すぐに昨夜のことを思い出す。
     普段ならもう一時間は寝ているところを今日は健康的に早起きしてしまった。顔を洗って、朝食をとって、掃除は午後だ。ヘンゼルとグレーテルが各々遊ぶ室内で、カフェオレのカップを空にし、伸びをする。
     買い出しや研究の手伝いがない日は、こんなにも穏やかだ。
    「おい、オマエ、あの本を」
    「ん?」
     ヘンゼルがやってきて、本棚の上の方を指差した。
     ヘンゼルとグレーテルは二人ともよく本を読むようで、屋敷の本棚の本を片っ端から読んでいた。ヘンゼルの今読みたい本が、届かない位置にあるみたいだ。どれだと訊ねると、ヘンゼルはその赤い本だと言う。
    「赤は数が多いな。ほら、どの本だ」
     自分で選ぶように、とヘンゼルの身体を腕に抱き上げてやった。
     昨日抱き上げたグレーテルよりも、ヘンゼルはほんの少し軽いみたいだ。手の届く位置まで抱くまま本棚に近づく。が、ヘンゼルの顔は本棚でなく、何故かこちらを向いていた。
     急に抱き上げられて驚いたのかと思いきや、妙に嬉しそうな表情をしていた。あぁ抱っこが嬉しいのか、と思い当たれば、続いて昨日こちらの服を離さなかったのも何となく理由がわかった気がした。グレーテルだけ抱き上げられていたのが、羨ましくて気持ちが収まらなかったんだろう。
     見つめられていることに気づいたヘンゼルは、はっとして本棚から目当ての本を抜き取った。本を腕に抱えながら、両手はまたこちらの服を握っている。
    「おい、えっと……あっちの本棚に行け。まだ読む本があるから」
    「読むのは一冊ずつじゃないのか?」
    「い、いいだろ別に、何冊手元に置いたって」
     ヘンゼルは、まだ抱かれるままいるための理由を考えているみたいだ。意地悪言ったのを心の中で謝りながら、ヘンゼルを隣の本棚へ近づけてやった。
     微笑ましいものだ。これまでヘンゼルは性格と体質で苦労があったに違いないが、それでも年相応に中身は子供だ。弟の面倒をみてきたのもあって、大人びてこそいるが。
     部屋を出てキッチンの上の棚のお菓子を取り出し、表へ出て庭の木に生った丸い実をもいだ。庭をひとめぐりした後グレーテルが遊んでいる部屋に戻って、再び本棚を見たいと言うので本棚へ近づいた。
     ヘンゼルは本をもう一冊取り出した。
    「次は? まだどっかに用事があるか?」
    「あっ、まだ……えっと……」
    「ははっ、まぁいいけどさ。こんなに連れ回されて、俺はお礼くらい言われてもいいんじゃないか?」
     言われてヘンゼルは、服の生地をぎゅっと握ってこちらを見つめた。
     本気で礼を言えよと迫ったつもりはなかったが、直前まで楽しそうだったヘンゼルが困ったような顔になってしまった。ヘンゼルはあまり素直な性格ではなさそうなので、お礼の言葉は口にしづらいのかもしれない。
    「たとえば、うん、『助手さん、ありがとう!』ってほっぺにチュー、なんてな」
    「……」
     ヘンゼルが真顔になった。こういう軽口は嫌いだったかもしれない。
     黙ってしまったヘンゼルに苦笑いして、ヘンゼルが手にしていた本をテーブルへ置いてやった。軽口で仲良くなれればと思ったが、上手くいかないものだ。この抱き上げての散歩で少し距離が縮まったと感じて、調子に乗ってしまったみたいだ。
     もう一回外へ連れ出そうか、ラボに連れて行ったら余計に不機嫌になるかもしれない。機嫌を直してほしくて考えていたが、不意にヘンゼルが背筋を伸ばした。おっ?と思う間もなくヘンゼルが身を寄せる。
     ヘンゼルの顔は小さく傾いて、唇を唇へ柔らかく押し当てた。すぐに離れて、「これでいいか?」とヘンゼルが小声で訊ねた。
    「えっ、な……い、いい今のキッ、キス!」
    「っ、そうしろと言ったのはオマエだ!」
    「俺はほっぺって言っただろ!? 女の子はっ、そういうのは大事な相手に取っておくもんであって!!」
    「は?」
     頬を赤らめたヘンゼルが、怪訝そうにこちらを見た。
     だって、普通はそういうものだろう。この可愛らしい女の子は、得体の知れない男にキスしてしまったのだ。親御さんに何と言えば、と混乱したが親はもういないようなものだった。だからといっていいわけない。
     一人慌てていたら、猫を抱いたグレーテルがそっと傍らに立っていた。混乱するまま顔を向けると、グレーテルは「違うぞ」と言った。一体何がだ。
    「ヘンゼルは男だ。女の子じゃない」
    「へっ? 嘘だろ?」
    「本当だ。よく間違われるが」
     グレーテルは言うだけ言って、猫たちとの遊びへ戻って行った。
     向き直ると、ヘンゼルはふん、と息をついて両腕を組んでいた。見る限りまるきり女の子のようだったが、実の弟が言うのだから女の子ではないんだろう。
    「そっそれでも! 簡単に唇を許すのは、いかがなものかと俺は思うぜ!」
    「ボクは、してやってもいいと思ったからしただけだ。……嫌だったのか」
    「嫌とかでは、全然なくて!」
     ならいいだろう、とヘンゼルが今度は頬へキスした。焦る姿をからかわれている、だけにしてはヘンゼルの頬が赤くて、見ていて困惑する。
     同性だからいいだろうか、余計に駄目なのか、いいや、そもそも大人と子供。ヘンゼルが尖らせた唇でこちらを見つめている。開いてはいけない扉が開きかけてはいないか。
     猫と遊ぶグレーテルが、一匹抱き上げて毛でふわふわの頬に口元を寄せている。あれくらい平和ならいいのに、とヘンゼルに見つめられながらそわつく気持ちを持て余した。
     十年後くらいに、改めて考えることにすればいいんだろうか……?

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