待ち合わせ『明日十時、帰離原にてお前を待つ。鍾離』
魈が降魔を終え望舒旅館へ戻ると、手紙が来ているとオーナーにそれを手渡された。自分に手紙を寄越す者といえば、旅人か、稀にだが凡人の場合もある。どうしたものかと手紙を開けば、差出人は驚くべきことに、鍾離であった。
端的ながらもとても達筆で、流れるような筆の運びから繰り出される文章はとても美しく、その上これが魈に向けられたものであり唯一のものである。これは後生大事にしようと思い、再び手紙を丁寧に畳んだ。
しかし、呼び出される理由が全く思い当たらない。けれども、この書き方には覚えがある。夜叉の間でこのような手紙のやり取りを交わしたことがあった。主に魈は手紙を受け取る側ではあったが、これは……そう、果たし状である。と思い至った。
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