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    shiopoccochan

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    shiopoccochan

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    ガリライ。恋人になれたは良いけれど、ナーとの考え方の違いに悩むポの話です。
    ジャスミンの花言葉は「あなたと一緒に」。

    #ガリライ
    gully

    二人なりの正解を「はー…………」
    ため息混じりの声がポルコの口から漏れる。テーブルに突っ伏し、横に置かれたコーヒーにも手をつけないままだ。
    「十二回目〜。もうポッコ、さっきからずっとそんなじゃん」
    ピークが紙に線を引きながら呆れたように笑った。どうやらポルコのため息の数を数えているらしい。
    「だってお前、アレ聞いて平然としてられるか?」
    遡る事三十分前。ポルコはピークに、ライナーと恋人になった事を報告しに来ていた。良かったねぇと祝われていたところに、ちょうどライナーもやって来たのだ。
    「あ、ライナー、ポルコと付き合う事になったんでしょ?ライナーが誰かと付き合うだなんてちょっと意外だけど、おめでとう〜」
    「ああ。まあ恋人になればガリアードも、何の口実もなく俺とセックスできて都合が良いだろうと思ってな」
    「…………あ?」
    ポルコは耳を疑った。どういう事だ?しばらく固まった後、ピークがおずおずと口を開いた。
    「……えっと、聞いても良い?ライナーにとっての恋人って、何?」
    「そうだな……いつでもセックスする事ができる権利を持つ相手、だな」
    当たり前のようにライナーはそう答えた。ショックのあまりポルコがわなわなと震えだした時、ジークがライナーを会議のため呼び出し去って行き、現在に至る。
    「アイツにとって恋人がそういう意味合いだったなんて思ってもなかったんだよ。てっきり俺と同じ気持ちなんじゃねえかって……。はあ……」
    「はい十三回目」
    シャッと線を引く音が部屋に響く。数えるなよと咎める気にもなれない。先程の出来事を思い出す度に気持ちが沈み、更なるため息が出そうになった。
    恋人になる前から、ポルコとライナーは関係を持っていた。酒に酔った勢いで始まってしまった妙な距離感を変えようと、勇気を出してポルコから告白したのだ。俺の恋人になって欲しいと言った時、ライナーはゆっくり瞬きした後、俺で良ければと頷いた。あの時確かに気持ちが通じ合ったと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。おまけに、恋人になる前から関係を持っていたために順序まで間違えてしまっている。恋人としての正しい段階の踏み方が分からなかった。
    「どうしたら恋人になれるんだ?なあ、ピークの思う恋人って何だ?」
    突っ伏したまま、顔だけをピークの方に向けて問う。パンツァー隊やエルディア人部隊から憧れの眼差しを向けられる事の多いピークなら、きっと何か分かるのではないかと思ったのだ。
    「いや知らないよ」
    ところがピークはそう答えた。あまりにもバッサリと切り捨てられ、拍子抜けしてしまう。
    「ポルコはどう思う?っていうか、ライナーとどうなりたいの?」
    質問で返され考え込む。何を思って、自分はライナーに告白したのだろうか。
    「どうって……。そりゃ、俺はアイツに、……笑って欲しくて、ただそれだけだ」
    浮かんだのは、子どもの頃の笑顔。あの頃は喧嘩ばかりでお世辞にも仲が良いとは言えなかったが、それでも時折ライナーがポルコに笑顔を向けてくれると、その度に胸が熱くなったのを覚えている。すっかり笑わなくなったライナーの笑顔が見たかった。そしてできるなら、自分の手で笑わせたかった。
    「じゃあどうしたら笑ってくれるか、考えてみたら良いんじゃないの。きっとポルコのそういう努力は、ライナーにも伝わるよ」
    テーブルの上のクッキーを摘み、ポルコに差し出しながらピークが笑う。口にすると、甘い風味が広がった。
    喜んでもらいたい。笑って欲しい。そのためにはどうしたら。
    「……ちょっと出かけてくる。聞いてくれて助かった」
    立ち上がり、急ぎ足で外に出る。どうしたら良いのか分からないなら、探しに行けば良い。ちゃんと「恋人」になる方法も、ライナーに喜んでもらう方法も。



    夜になり、それまで共有スペースで歓談していた戦士達もそろそろ寝るかと各々の部屋へ戻った。その間ポルコはずっと緊張していて、話の内容は何も入ってこなかった。
    今日、今日こそ決めてみせる。その思いでいっぱいだった。
    部屋に入ると、すぐにライナーがベッドに座る。
    「今日もするだろ?」
    そう言ってシャツを脱ぎ始めるその手を、ポルコは慌てて掴んだ。
    「待て待て待て!……きょ、今日はしねえよ。それとも何だ、したかったか?」
    「そういう訳ではないが、ガリアードがしたいなら従う。恋人なんだ、当然だろう」
    「……この、馬鹿……」
    ポルコは呆気に取られた。ライナーは本気だ。ポルコがそういうつもりで恋人になりたいと言ったと、本気でそう思っている。自分の気持ちなど何も伝わっていない。ショックでおかしくなりそうだったが、何とか持ち直す。むしろ改めて言えるチャンスではないかと前向きに捉える事にした。
    「今日はしない。いや、お互いの合意がある時にしかヤらねえ。……お前に渡したいものがある」
    シャツのボタンを閉めてやり、戸棚の奥に隠していたものを取り出す。
    「…………俺の、き、気持ちだ」
    それは、白いジャスミンの花束だった。ピークと話した後市場に出かけ、どうしたら喜んでもらえるかを考え、まずは花に乗せて想いを伝えようと思ったのだ。ライナーの隣に座り、緊張で震える足を必死に手で押さえる。目を丸くするライナーに花を差し出し、ポルコは頭の中で何度も繰り返し練習していた言葉を伝えるべく口を開いた。
    「良いか、お前は恋人の事をいつでもセッ……クスできる関係だと思っているようだが、俺は違う。最初はそれから始まっちまったが、俺はお前とそういう事をしなくたって良いんだ。……そりゃしたくないと言ったら嘘になるが、それより、ただ一緒に話したり飯食ったり、時々こうやって贈り物を渡したり、そういうのが良い。俺はお前に、俺の隣で笑って欲しいと思ってるし、大事にしたいと思ってる。俺にとっての恋人はそれだ」
    ライナーはポカンと口を開けている。まだ分かっていないのか、ポルコの言葉を飲み込めていないだけなのか。あとひと押し、確実に分からせてやるとポルコは勇気を振り絞った。
    「……俺はお前が好きだ、ライナー。だから……大事にさせて欲しい」
    初めに告白した時、ポルコは「恋人になって欲しい」とだけ言っていた。これではきっと、鈍感なライナーには何も伝わらない。改めてきちんと想いを告げると、ライナーの頬に朱が差した。
    「ガリアードは俺が好きなのか?セックスだけできれば良いと思っている訳じゃなく、本当に?」
    「…………じゃなきゃこんな恥ずかしい事なんてしねえし、言わねえ。今のお前の認識で合ってる」
    ようやくポルコが告白した意味を理解したらしい。しかしまだ信じられないといったようなライナーの目を、ポルコは真っ赤になりながらもまっすぐ見つめた。
    「ああでも、お前の考え方を否定したい訳でも、俺の考えを押し付けたい訳でもなくて……。だから、たくさん話したい。お互い納得のいくまで、俺達だけの『恋人』を作っていけば良いし、もし思っていたのと違うなら、俺の事を振ってくれたって構わねえ」
    正直なところ別れたくはなかったが、もしライナーが「恋人」を「気軽にセックスできる相手」だと思っていて、ポルコの事をそれ以上に見ていないのだとしたら、それ以上に見るつもりもなく告白を受け入れたのだとしたら、今以上のものをライナーに求めるつもりはなかった。花束を受け取らないならそれで良い。そう思っていたが、ライナーはポルコの差し出した花をそっと受け取り、優しく抱きしめた。
    「……綺麗な花だな。良い香りもする。ガリアードが選んでくれたのか?」
    「あ?ああ、そうだ」
    「ありがとう、嬉しい……」
    ライナーが花を、想いを受け取ってくれた。その事実だけで嬉しかったが、更に昔のような笑顔を向けてくれている。あたたかい、春の陽射しのような笑顔だ。ポルコは泣きそうになった。
    「優しいんだな、ガリアードは。お前の気持ち、すごく嬉しい。それなのに俺は無神経な事ばかり言ってしまったと思う。すまなかった」
    「別に気にしてねえよ。認識が違ってただけの話だろ」
    「そうだな……。俺は、お前に大事にされて良いのか」
    「当たり前だろ。大事にする。何か望みがあれば言って欲しい。できる限り叶える」
    ライナーがポルコに向ける目は、それまでとはまるで違っているように見えた。友人、ライバル、仲間、そう名付けられた関係の時とは違う、もっと別の色のついたそれだった。応えようとしてくれている。嬉しくて、ポルコは何でも与えたくなってしまった。ライナーは少し考え込んだ後、腕の中の花を見て再び顔を綻ばせた。
    「じゃあ、明日市場に行きたい。この花に合う花瓶を探しに行きたいんだ。付き合ってくれるか?」
    「ああ、勿論良いぜ。デートだな」
    デートと聞いたライナーの顔が赤くなった。意識した途端これだなんて、あまりにも可愛い。もっとその表情を見たい。ポルコはライナーを引き寄せ、耳元で囁いた。
    「…………キスだけしても良いか」
    「あ……」
    熱っぽいアンバーの宝石がポルコを見つめる。ライナーが小さく頷いたのを確認すると、ポルコは花を持つライナーの手に自身の手を重ねた。二人の顔を隠すように花をかざし、触れるだけの軽いキスをする。ジャスミンの香りがふわりと漂った。
    「……ポルコ」
    ライナーにファーストネームで呼ばれたのはいつぶりだろうか。それだけで、ポルコの胸は高鳴った。
    「俺もお前を大事にしたい。今、心からそう思ってる」
    「…………なら良かった」
    今すぐ分かろうとしてくれなくても良い。完全に同じ気持ちにならなくたって構わない。一緒に、二人なりの正解を探し出せれば。しかし今この瞬間、ライナーも同じ気持ちで想ってくれている事が嬉しくなり、ポルコは堪らずライナーを抱き寄せた。
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