Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    Kujaku_kurokai

    @Kujaku_kurokai

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 23

    Kujaku_kurokai

    ☆quiet follow

    こちらピクスクイベント『雷霆万鈞』参加作品です。

    黒獪。甘々系。原作軸。鬼なりたて獪岳を寝かしつける黒死牟のお話。

    底なし沼のように甘やかすここしばらく、体がおかしい。

    瞬きするたび瞼が瞳に張り付くのを感じる。ギシギシと頭の奥が痛む。鬼になったときの痛みに比べれば些細なもの。しかし、苛まれ続ければ気にはなる。振り払うように鍛錬に打ち込んでいた。

    「獪岳」
    「っ!?黒死牟様…!」

    突然背後から声をかけられるのは、永遠に慣れそうにない。跪き頭を下げると、静けさに心臓がドッドッと鳴っている。二の句がなく恐る恐る見上げれば、心なしか険しい表情にも見えるし、いつも通りな気もする。 

    「あの……?俺なにか粗相を……?」
    「刀は……お前にとって気晴らしか……?」
    「え、いえ、そんなことは」

    ないこともない。
    正直、この気怠さを誤魔化したい意図はあった。雑に振るっていたように見えたのだろうか。こんな妖刀の化身みたいな鬼に、刀への不誠実さが露呈するのは死刑宣告に思えた。

    「も、申し訳ございません!」

    あれ?
    勢いよく床に打ちつけたはずの額に痛みがこない。
    遠く揺れる床、着物が上に引っ張られる感覚に、真正面に迫る六目。襟首掴まれ持ち上げられているのだと理解した。意図を探らんと目を見ようとしたが、近過ぎてどれを見ていいものか。

    「これには、わけが、ありまして」
    「いつ眠りについた……?」
    「へ?」
    「最後に眠りについたのは……いつか……」
    「え?鬼になってから寝てませんけど…?睡眠時間が勿体ないですし、眠くもならないから、寝なくてもいいものかと」

    黒死牟様はふっと笑った。
    これが鬼なりの死刑宣告とかでなければ、たぶん。

    「水中でも死なんからと言って……水中で永遠に過ごすようなものだ……」
    「あぁ、これ……寝不足……」

    なんて、くだらない。
    くだらない理由だが、寝てみるかと試したことは既にあった。しかし、眠くもないのに寝れるわけがない。今までは体を限界まで疲れさせて、気絶するように眠るのが常だった。そんな寝方しか知らないのに、鬼は疲れ知らず。どうしたら。

    肩越しにゆらゆらと床が流れる。なぜか縦抱きにされ何処かに運ばれている。歩くと主張したが、背中をトントンと叩く間隔は一定のままだ。

    「あの、これは一体、何を……?」
    「共に寝よう……」

    共に?こんな安眠から一番遠そうな方と?永眠なら一番近そうだが。共にだろ?

    「もしかして……夜伽?」

    耳側近く、長い溜息が聞こえた。これはわかる。呆れているか子供扱いしているか、或いは両方だ。別に期待されたって困るからいいが。顔が熱くなって広い肩に隠した。

    「眠くなったか……?」

    眠くなる要素が何処にあったんだ。こんなこと子供の頃だってされた記憶がないのに。あの人は痩せていたし、あの人は俺の方が大きかったし。何より他の奴のことで忙しかった。この人は、ついこの間まで命の取り合いをする関係だった。だが、これが眠くさせるための行動なら答えは決まっている。

    「そうですね。もう眠いです。自室に戻って……」

    言い終わる前に背後の襖が開けられた。黒死牟様にとっては正面の。匂いで黒死牟様の部屋だとわかった。

    たらふく食べて風呂で芯を温めれば眠れる。そんな裕福な寝方を勧められた。給仕の者が次から次へと食事を運んでくる。食事と言っても工夫を凝らした料理などではなく、人間だが。産地や飼育環境を講釈するのは豚や牛と変わらない。給仕の鬼達は、対価として庇護下にあるらしい。耳を傾けつつも、目の前の皿を片付けることに専念した。

    腹を満たし一休みしていると服を剥かれた。やっぱり夜伽かと覚悟したが、脇に抱えられ運ばれると浴室だった。とは言っても風呂釜がない。もくもくと蒸気が充満している。褌一丁で木の長椅子に腰かける黒死牟様に誘われて、少し離れて隣に座った。

    給仕の者が積まれた石に湯をかけると、じゅうじゅうと音がして熱気に変わる。なにやら良い匂いもする。熱気と体温との差に、体が冷えていたことを自覚する。その差がじわじわと溶けてなくなる。心地よい。
    しばらくすると頭から滴る汗が首筋をくすぐり、少しクラクラする。黒死牟様を盗み見れば、まだまだ余裕そうだ。

    「出るか……?」
    「あ、いえ、まだいけます」
    「鍛錬ではない……無理をするな」
    「そんな無理ということは、いえ、はい……出ても?」

    恐る恐る聞けば、くつくつと笑われた。もう少し我慢すれば良かったかもしれない。汗を流し、肌触りの良い襦袢に着替えて火照りを冷ましながら戻ると、先程まで食事を取っていた部屋は薄暗く、気配もない。目を凝らすと大きな布団が一組敷かれていた。一組?やっぱり夜伽では?

    そこに黒死牟様が横になった。
    普段の着物と違い襦袢一枚の黒死牟様は、なんか、こう、色っぽい。持ち上げられた掛け布団の意味は、「ここに入れ」だろう。抵抗しても運ばれると学習したので、大人しく一つの掛け布団に包まれる。先程と同じ間隔で、硬直した肩を手が叩く。意味のわからない状況に体がぶるりと震えた。

    「寒いか……」
    「え、いえ」

    半身を起こした黒死牟様は、布団の中に手を這わす。足首を掴まれ足袋をするりと脱がされた。温かく大きな手が土踏まずを親指で押すように包む。どこぞ安眠のツボでもあるのか、しばらく続けられた。こそばゆい。耐えかねてまた震えれば、黒死牟様はやおら立ち上がり襖の向こうに消えてしまった。

    「……」

    薄暗い静寂に、奥からカタカタと音が響く。寝た方がいいのだろうが、やはり視界は煌々と冴えている。そも鬼は夜目がきく。暗闇でもおよそ全てを識別してしまう目は、寝るには刺激が強い。
    いっそ狸寝入りで許してもらおうか。瞼で蓋をする。しばしすると、畳を踏む音。もそもそと足下に何か入ってきた。指先で押してみると、ちゃぷんと音が鳴る。湯たんぽか。じんわりと温かさが伝わる。再び横に入った死牟様から伝わる熱も温かい。力が抜けて、布団がふわふわであることを初めて感じた。これは眠れそうな気がする。

    ---

    気のせいだった。酷く長い時間が過ぎたように感じる。全然寝られない。寝たふりもしてみたが、黒死牟様は相変わらずトントンを続けてくれているので、寝ていないことは恐らくバレている。もういい加減、寝ないと怒られるのではないか。チラリと顔を見ると、六目のうち中段二つのみ薄く開けられている。

    眠そうだ。俺のために悪いなという申し訳なさもあるが、正直言ってもの珍しく面白い。ちょっと間抜けだ。そんなことを考えて、声に出さず笑うと中段二つと目があった。

    「わっ」
    「眠れぬか……」
    「はい……あ、でも頭痛がしていません」

    気付けば瞬きの不快感もない。これは実質、寝たのでは?
    黒死牟様は俺の頬を包むように撫でた。温かくて大きな手だ。この手に守られたいような、この手に褒められたいような気持ちになる。

    「うむ……では……もうしばし、こうしていよう……夜が明けたら……朝市に行こう……」

    六目の鬼はそんな人間みたいなことを口にした。
    寝ぼけているんだ。
    ああ、今、この人は、俺を撫でてはいないんだな。
    こうやって撫でていた相手がいたんだな。子供かなぁ。

    頬を撫でる手は、再び肩をゆっくり叩き始めた。
    鬱陶しい。このトントンは、なんの意味があるんだ。どうせ寝られやしないのに。俺は子供じゃないから、トントンされたって眠くならない。自分の子供を偲びたいがために、俺の肩を使っているんじゃないのか。これは俺のためのものじゃない。あれも、これも、全部。鬱陶しい。
    掛け布団を引っ張らないように押し上げて、寝返りを打って背を向けた。届かなくなった手が布団を彷徨う音がする。

    「…………間違えた」

    ぽつりと、しかしはっきり、黒死牟様はそう言った。ずりずりと這う衣擦れの音が近寄る。

    「すまない……淡く夢を見ていた……」

    黒死牟様の体温を背中に感じる。返事をしないでいると、ずしりと体重がのしかかって来る。
    重い。こいつ、俺の上で寝てないか?みじろぎ揺らすと、ハッとして軽くなったから絶対寝ていた。

    「獪岳……?怒っているのか……?」
    「怒るって何をですか」
    「……五つの子と間違えたことを……」
    「五つ!?えぇえ……!?流石に……えぇ……」

    流石にそんなに小さくないだろ!? 黒死牟様の子なら普通より背が高いかもしれないが、五つと間違えるかよ。呆れを隠さず睨むと、バツの悪そうな顔をしている。

    「悪かった……日が落ちたら……鍛錬の相手をしよう……」
    「それは俺とですか?」
    「む……そうだ……お前とだ……」

    黒死牟様は俺の短い前髪をかき上げるように撫でて、額に口付けた。パチクリ見上げる。これは、どういう意味があるんだろう。
    わからない。わからないが、悪い気はしない。
    俺は怒ってたのか?わからない。たださっきまであった嫌な気持ちは薄らいだ。
    謝罪もあったし、訂正もしてくれた。なにより元々俺のために眠気と戦ってくれてたわけだ。今回ばかりは許してやるか。

    「別に気にしてないですよ」
    「そうか……鍛錬は……?」
    「黒死牟様がお望みなら」

    俺の機嫌を直すためってんなら、いらない。そんなのは、まやかしだ。俺を見込んでのことなら、答えは決まっているが。

    「私はお前を強くしたい……だが、お前が望むならだ。生半可な気持ちで耐え得るほど……私の稽古は優しくない……どうだ?」
    「俺だって生半可な気持ちじゃないですよ。人喰い鬼にまでなったんだ。とことん強くならなけりゃ」
    「決まりだな……」
    「はい」

    いたずらの計画をするように、むふふと笑い合った。黒死牟様が仰向けに寝転ぶ。飛び乗るようにその腕を枕にしてやった。さっき俺の上で寝た仕返しだ。
    黒死牟様は軽い軽いとでも言いたげに俺をぎゅーっと抱きしめて、胴の上に体半分くらい乗せられた。トクトクと心音が胸から響く。呼吸に合わせ、ゆらゆらと船の上のように揺れる。トクトク……ゆらゆら……あたたかい……

    夜がふけきった頃、黒死牟様の胸に涎を垂らしているという事実に飛び上がった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖☺💕💕💕💕🙏💖💖💖💖💖💖☺☺☺☺☺😍😍😍❤💕💕❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤👏👏👏👏👏👏👏👏😭🌙🍑💯💴❤❤❤❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works