「阿澄」と、呼びかけてくれる声はいつもやわらかく、細やかな気遣いにあふれ、まるごと包み込んでくれた。まだ昨日のことだ。思い出すのはしかたない。
江澄は振り切るようにして視線を外すと机についた。
ひとまず、向家に文をしたためる。向張豪を牽制しておかなければいけない。
――ご息女を蓮花塢で保護いたしました。ご息女は旅の疲れによるものか、ご体調がすぐれず、数日の間はご滞在いただかなくてはならない状況です。ご心配のこととは存じますが、再度ご連絡を差し上げますので、それまでお待ちいただけないでしょうか。
夕刻に遣いを出したというのに、翌日の昼前にはもう返事があった。
――お心遣い、どのように感謝申し上げたらよいかわかりません。ありがとうございます。本来はすぐにでもおうかがいするべきでしょうが、近隣の村で流浪屍が発生したため、夜狩を行わなくてはいけません。お言葉に甘えて、ご連絡をお待ちしたく存じます。
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