旅人眠れない。
少女は諦めて目を開ける。固く目蓋を閉じていても、結局眠気は訪れなかった。暗い天井を見上げ、どうせ眠れないのなら、と起き上がる。
隣の阿笠を見るけれど、静かに身体が上下しているだけ。聞きなれた寝息は聞こえないから、狸寝入りかもしれない。同居人の気遣いに微笑みつつ、少女はベッドから下りた。上着を羽織り、音を立てないように屋上へのドアを開ける。
夜はいつものように、しんと静まり返っていた。閑静な住宅街の夜。ちらほら見える街灯の明かり。
例の組織にいた頃。夜更けまで研究に没頭して、ふらふらしながら見上げた空のことを思い出す。あのとき、時間の感覚がなくて、夜と明け方の境目なのか夕方と夜の境目なのかわからなかった。それくらいよく似ていて、でもすぐに太陽にかき消されてしまった。
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