賢者様の世界からやってきたかわいらしい人気者たちは、帰ってしまった後もしばらく魔法舎の話題の中心だった。確かにみんな魅力的で友好的だったから、子どもたちや動物に目がない者が魅了されてしまうのは無理もないだろう。だが、賢者様までいつになく興奮して、思い出すだけで目を輝かせるのはいただけなかった。
そりゃあ、久々に目にした元の世界の住人、しかもいつも遠目にしか見ることのできなかったスターに、そもそも猫に目がないような人間が出くわしたら衝撃は大きいだろう。だからといってもう帰ってしまった相手を思っていつまでもうっとりされるのは面白くない。他の魔法使いとその話題で盛り上がるだけならまだしも、俺と二人きりで「仕事」をしているときでさえ上の空なのだから。
俺の方がかわいいなんて言うつもりもないが、少なくとも今目の前にいるのは自分だということくらいは示してもいい気がして、俺は片耳だけを器用に動かしてみせた。さすがに気づいた賢者様が、確かに俺を見る。
「……えっと」
「あれ、反応薄いな。かわいくなかった?」
「フィガロはそれがかわいいと思ってるんですか?」
「あの犬がかわいいってはしゃいでたのは賢者様でしょ」
本当にかわいいと思われるつもりでもなかったけれど、まるで意味が分からないというように問い返されるのも心外だった。きみが一番分かってるでしょう、目の前の俺そっちのけで浮かれてたんだから。とは言ってやらずに見つめると、賢者様は何故だかふふっと笑った。
「フィガロがそんなことしてもかわいくないですよ」
微笑ましいと言いたげな声色で告げられたあんまりなセリフに、さすがの俺も言葉を継げずにいると、賢者様はさらに続けた。
「いつものフィガロが一番かわいいです」
ふわり、という表現が似合いそうな笑みから、俺は一度目を閉じてため息をついてみせることで逃れた。
「そういう口説き文句、どこで覚えてくるの……」
「本心ですから」
見た目よりも手強い賢者様は、まだにこにこと笑っていた。