ピクニック前日ズキュタナ「それじゃあ田中さん、プリルンとメロロンのことお願いします!」
「プリルンまたねーっ!」
「プリ!またねプリ〜……で、あの子誰だっけプリ?」
すっかりピンク色に変えられた家から三人が出て行くと、はぁ、とため息をつき田中も家の外に出る。
プリルンはいつもの顔でうたと手を振りあっていて、メロロンは心配そうにその光景を見守っている。
田中はというと家の低い位置に貼られた『プリルン♡メロロンのいえ』という看板を細い目でじーっと見て、ため息をついて外そうと手をかけると、それに気づいたメロロンが田中の腰に「メロ」と勢いよく頭突きを決めてきた。
「ぐはっ!!」
「ちょっと!ねえたまとメロロンの愛の巣である証明の札を外そうなんてどういうつもりメロ!?」
「い、いやここ私の家なので……」
「ここはもうメロロンとねえたまの家メロ〜〜〜!!タナカーンはキラキランドの頃みたいに庭にでも住めばいいメロ!」
「さすがにこの姿では無理ですよ…」
「じゃあ出ていくメロ〜〜〜!」
メロメロメロメロ!!と田中を家の近くから押し出そうとするメロロンに突き飛ばされ、尻もちを着くと同時にぽふん!と妖精の姿に戻るタナカーン。
「メロロン、その人はタナカーンプリ。追い出すのは可哀想だし、このお家はすーっごく広いから、3人で一緒に住むプリ!」
「メロ…ねえたまがそう言うなら……」
いや、ここ元から私の家なのですが
出かかったその言葉を飲み込んでプリルンに呆気なく絆されるメロロンを見守る。
「そうだ!タナカーン聞いてプリ!プリルンたち実は…」
ぽふん!とキラキラした煙を発し、煙が散るとそこには先ほどまでいた小さくかわいいプリルンではなく、女子大生ほどの身長で美しく整った顔立ちをした、白髪ショートヘアの美少女がそこにいた。
訂正。プリルンとは180°違った雰囲気を醸し出すその美少女も、他ならないプリルンの別の姿だった。
「私たち、伝説の戦士アイドルプリキュアになれたの。」
「タナっ?」
「ねえたま!」
プリルンは妖精姿のタナカーンを抱え上げると、メロロンと共に驚きの声を上げるタナカーンに構わず、成長した自分の手に収まる小さなタナカーンの大きさと重さ、感触に口角を上げる。
「あははっ!すっごーい!あんなにかっこいいって思ってたタナカーンがこんなに小さいなんて!不思議な感じだし、かわいい~!」
「タ、タナ…プリルン、あんまりその姿でくっつくのはやめるタナ…」
「どうして?私たちずーっとこうして仲良しだったじゃない?」
「プリルンがその姿だと絵面が少しまずいというかタナ…」
「?よくわかんない。そうだタナカーン!タナカーンも一緒にご飯食べよ、メロロンが作ってくれたオムライスがあるの。タナカーンのは私がケチャップでお絵描きしてあげる!」
「タナッ!?」
プリルンはタナカーンの小さな体を胸元で大事そうに抱きしめて、その位置は流石にまずい、とジタバタ暴れだし抵抗の意志を見せるタナカーン。
「わっ、ちょっとタナカーン!なんで逃げようとするのー?」
「だから絵面がマズイんタナ!ちょ…強く締めないでタナ…!」
「えーよくわかんない!ねぇ、メロロンもタナカーンになんか言ってあげてよ」
「…ねぇたまから離れるメローーー!!!」
タナカーンの抵抗を気に入らなそうに頬をふくらませてより強く抱きしめるプリルンに、その人間の体になりたて故の加減を知らない強さにタナカーンが今度は窒息から逃れるために暴れる。
それをプリルンの意思を尊重して見守っていたメロロンだが、等々堪忍袋の緒が切れて叫ぶと、プリルン同様ぽふんと煙を上げて人間の姿に変わり、黒髪の映える整った美人な顔を鬼の形相に変えて、ズンズンと進みプリルンの腕の中からタナカーンを強い力でひっぺがすと、「メロッ!!」とまるで野球選手の投球の如く本気の力でタナカーンの小さな体をぶん投げた。
「タナ~~~~~」
「お姉さま!タナカーンは雄で私たちよりずっと年上です!そんな相手と…しかも人間という下品な繁殖行為を行う生物の体で一緒に住むなんて危険よ!」
「下品な繁殖行為…?よくわかんないけど、タナカーンなら大丈夫よ。私たち、キラキランドではずっと一緒に過ごしてきたじゃない。」
「それでも今は良くないの!だからお姉さま、ここは私とふたりきりで…!」
メロロンがプリルンの手を握り、うるうるとその美貌を最大限生かした表情で訴える。
プリルンは妖精の姿なら「プリ?」と首をかしげていそうなきょとんとした表情でそれを聞いていると、不意に小さな声が遠くから聞こえた。
「なんだこれーぬいぐるみか?」
「変ないろー」
幼い声が聞こえた方向にプリルンたちがゆっくりと振り返ると、そこには小学校低学年程の生意気そうな男児ふたりがおり、その一人の手にはタナカーンが耳をつかまれ握られていた。
「落とし物かなー?」
「こんなとこに?変なのー、くらえ!ぬいぐるみアターック!」
「タ、タナ~」
男児に乱暴に振り回されたタナカーンが思わず痛みに声を上げてしまい、ハッと口を抑えるも時すでに遅く、男児ふたりの視線は喋って動いたぬいぐるみに一直線に向けられていた。
「なにこいつ喋った!妖怪かも!」
「やべー!みんなに自慢しようぜ!」
好奇心からさらにタナカーンを振り回す子供たちに、タナカーンはどうすることもできずに目を回す。
「や、やめるタナ…」
「ちょっとコラきみたち!タナカーンをそんな乱暴に振り回さないで。」
「あっちょっとお姉さま!まだ話の途中です!」
ザッ、とまるでヒロインを助けに来たヒーローのように勇ましく登場したプリルンに、子供たちの注目が移る。
「お姉さんだれー?」
「私?私はプリル…」
「おおお姉さま!!その名前では私たちがキラキランドの住人だとバレてしまいます!もっと人間らしい名前で…!」
「え?あぁそうね……うーん、人間らしい名前…」
「何言ってんのお姉さんー」
タナカーンの耳を掴んだままじーっとプリルンを凝視する子供たち。
そうだ!と思いついたプリルンがにっこりと笑顔を作り名乗る。
「田中!田中プリルンだよ!」
「お姉様〜〜〜〜!!!!」
「ぷりるん?変な名前―」
「