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    IdentityV_twst

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    IdentityV_twst

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    おそらく完成しない力尽きたもの(未完成進捗)
    4.6年VS天鬼&洗脳三木のバトルものです。notカプだけど生産元は滝三木思考です。
    ⚠️流血、負傷表現有り

    その日ドクタケ領内の竹林に、気配を潜ませ徘徊する十の影があった。
    その内の先頭を走る六人は深緑色の忍び装束を見に纏い、それに続くように前の六人より僅かに背丈の低い紫の忍び装束を纏った四人が忍び足で領内を進んでいく。
    一人が竹に塞がれた空を見上げると、ドクタケ城の方から狼煙が上がったのが見え「止まれ」と後ろを走る者たちを静止する。

    「先生方は無事侵入できたようだ。分かってるだろうなお前たち。今から俺たちの任務は」
    「手分けしてこの領内への出入りを防いで【ふたり】を見つけ次第先生方や先輩方に連絡。ですよねー、わかってますって」
    「…綾部…!俺の」
    「アホハチロー!潮江先輩の言葉に被せるんじゃなぁい!」
    「ははは!滝夜叉丸もバッチリ被せているぞ!」

    小平太の笑い声と共に、ゴスッと喜八郎・滝夜叉丸の頭に文次郎の拳が沈められる。

    「静かにしろお前たち、今回は巫山戯ている場合ではないんだぞ」
    「あぁ、わかっている」
    「…失礼しました。立花先輩、潮江先輩…」

    仙蔵の言葉で小平太はいつもの笑顔から任務の時しか見せない真剣そのものの表情に戻り、その表情といつも自分たちに見せる顔の違いに息を飲みながら、滝夜叉丸も集中しようと気を引き締める。

    今より一週間前のある日、休日だったその日の昼ごろ、四年ろ組田村三木ヱ門と三木ヱ門に火器に関すること相談を受けて共に外出した火薬委員会顧問の土井半助先生がそれ以降一切の音沙汰なく行方不明となってしまった。

    そしてふたりがその日向かった方向はドクタケ領近くの石火矢職人の元で、

    行方不明の土井先生とドクタケ。六年生と教師陣、そして一年は組の中で嫌な思い出が蘇り最悪の緊張が走った。
    石火矢職人に話を聞けば、ふたりは忍術学園の出門表にサインをして来た日に来て、石火矢職人の話を聞いて三木ヱ門が満足した夕方頃には帰っていったそうだ。
    つまりそこからふたりは丸一日行方を眩ませてしまっている。
    風の噂で聞いた話では、例の件以降もドクタケ忍者隊の一部の者は天鬼…ドクタケに洗脳さていた際の土井先生を随分と気に入っており、そのせいでまた誘拐されてしまった…という可能性が無いとも言いきれない。
    それらの以前の軍師の騒ぎの影響を踏まえて、早めにドクタケを探っておいて損は無い。
    学園長先生の指示で、六年生と不在の三木ヱ門省く四年生の計十人も出動することになった。

    前回の土井先生捜索を行った六年生に加えて四年生も任務に出動することになったのは、三木ヱ門の同室である守一郎たっての希望だった。
    学園長先生に直談判しにきた守一郎とそれに着いてきた他の四年生たちの瞳を見て、学園長先生は速攻で同行を許可した。
    三木ヱ門を心配しているのは守一郎だけではないことは、素直では無い四年生たちの態度でも学園長先生にはお見通しなのだろう。

    最初は四年生の参加に文次郎を筆頭に否定的だった六年生だが、今回は危険性が高いため白に乗り込むのは山田先生率いる先生方。自分たち生徒は領内の出入りを防ぐことと理解すれば渋々了解した。
    そして城内にいる先生方から狼煙で作戦開始の合図が出た。

    「こっからは分担して領内の見回りをしよう。」
    「やっぱり僕たち四年生は六年生と一緒に行動しておいた方がいいかなぁ?」
    「そうだね、二人づつで別れるとして基本は同じ委員会の二人で組もう。その方が連携も取れて勝手も効くだろうし。後は僕と長次、文次郎とタカ丸なんかで組んで…」

    と、伊作とタカ丸がこの後の行動を相談していた時

    ぞくり

    僅かに、背筋の冷えるような殺気を感じて六年生は固まる
    いつもなら任務中に殺気を感じれば直ぐに戦闘態勢に入って対応出来た。けれど、六人はこの殺気に感じ覚えがあった。

    「おい、これって…」

    留三郎が声を強ばらせながら鉄双節棍を手に辺りを見回す。
    他の六年生も同じように突然空気をピリつかせ周辺への警戒を始め、四年生四人はわけも分からず、しかし自分たちの尊敬する彼らがここまで緊迫するような危機的状況にあることは悟り、各々得意武器を取り出すが詳しい状況がわからないためイマイチ気持ちが締まらずに構える。
    だが数秒間何かの気配を感じることも無く、守一郎は困惑して辺りを見回し、ふと空を見上げる。
    竹林に囲まれて気づかなかったが、今日はなんだか────

    月が、赤く恐ろしい模様に見えた。


    「守一郎ッ!伏せろ!」


    留三郎の叫ぶ声が耳を貫くように鼓膜に響いて、守一郎がハッとして視線を前にやると、白い山伏装束の男が目の前にいた。
    目の前に突然現れた人物に脳が追いつかない中、ヒュンッと風を切る音が聞こえ…反射的に強く握っていた南蛮鉤を首の前に上げると、ガキンと硬い鋼同士がぶつかる音が響き、守一郎と南蛮鉤はその衝撃に圧されて勢いのまま近くの竹まで押し飛ばされてしまった。

    「守一郎」

    滝夜叉丸が叫ぶより早く、山伏装束の男は守一郎を吹き飛ばした…その手に持つ、月明かりに照らされ刀身の輝く刀で、素早く追撃をして首を押えながら弱々しく起き上がった守一郎目掛けて振りかぶる。

    その瞬間、間に入った留三郎が鉄双節棍で防ぎ、すぐにその男目掛けて長次の縄鏢が飛んできて男は飛び跳ね退いて六年生四年生が固まっている場所から少し離れた地点に着地する。

    長次と留三郎の手は震えていた。
    今しがた受けた攻撃の重さ、回避する俊敏な動き。
    とても忘れられない。
    この場所で【あの日】、感じた事見たことのあるものだった。

    「守一郎、大丈夫?」
    「っだい…じょうぶ、受け止めきれなくてちょっと首掠ったけど…」

    喜八郎が駆け寄れば守一郎は首を押えながら竹に手を付き起き上がり、その抑える手の間からは僅かに赤黒い血が流れてた。

    「伊作先輩、包帯を貸し…」

    「───闘気を消し切れぬ鼠が十匹…」


    男がゆらりと立ち上がりながらそう呟くと、六年生はビクリと身体を震わす。

    「…そんな、なんでまた……」
    「先輩方、あの男は何なのですか。ドクタケの手先ですか?」
    「違う。あの方は……」


    「…土井先生?」


    タカ丸が声を震わせながら読んだ名前に四年生は驚き六年生は目を細める。

    タカ丸にもとても目の前の冷たい目の男があの優しい土井先生と思えなかったが、守一郎に襲いかかった際に一瞬見えた酷く傷んだ髪、僅かに香る煙硝蔵と同じ香りに、思わず土井先生の顔が脳裏に浮かんだのだ。

    「ねぇ、土井先生ですよね?どうしてそんな…」
    「…私は土井先生などではない」
    「違う!あんたは忍術学園一年は組教科担当土井半助先生だ!!」

    タカ丸の問いに冷たい声で返した男に文次郎が大きく縋るような声で返す。
    その声に男は眉を顰め「忍術学園」と繰り返す。

    「そうかお前たち…忍術学園の手の者か」
    「土井先生!何故またドクタケに…!」
    「私はドクタケ忍者隊の軍師天鬼。ドクタケに害を齎す悪しき忍術学園の者には───」

    仙蔵の言葉に答えることは無く、男は…天鬼は腰を低くして刀を胸の前に水平に構える

    その構えに六年生は本格的な恐怖を覚える。
    小平太は右胸の傷跡が痛み、長次は目の前に血の飛び散った光景がフラッシュバックする。


    「四年生、引け!!」

    キィン!
    誰かが叫ぶよりも早く、天鬼は凄まじいスピードでその刀を振るって一番近くにいた滝夜叉丸掛けて切りかかった、のを、小平太がすぐさま前に出て攻撃を防ぐ。
    二本の苦無で受け止められたその斬撃の威力は凄まじく、圧されそうになるがじくりと痛む右胸の傷跡の痛みを感じながら腕に力を込め押し留める。
    押せないと悟った天鬼は刀を引き、すぐさま横振りで切りかかる。
    全力で縦振りの刀を抑えていた小平太は急に抜かれたそれに対応できず『まずい』、と思った小平太の横腹に刀が触れる寸前で縄鏢が飛んできて天鬼はそれを跳ね退いて今度は縄鏢を投げた長次に狙いを定め、退いて着いた地面を踏み締め、強く地面を蹴ると長次目掛けて刀を振るう。

    「土井先生!!」

    縄鏢がまだ戻らず手元に武器の無い長次に刀が振り下ろされるより早く、天鬼目掛けて数個の石が投げられ天鬼は刀でそれを防ぐ。
    そうしてる間に戻ってきた縄鏢が再び長次の手により天鬼目掛けて飛ばされ、天鬼は飛び跳ね引き下がり躱す。

    「土井先生…!」
    「チッ、厄介な…」
    「目を覚ましてください土井先生!きり丸達も先生の帰りを待ってます!」
    「黙れ。私は土井などではない…!」

    今度は文次郎目掛けて飛びかかった天鬼に、留三郎や小平太も加わって応戦する。
    滝夜叉丸は小平太に守られた時からずっと動けていなかった。
    四年生だって実践実習などはしたことが無い訳では無いが、明らかに自分よりも段違いな強さの天鬼───土井先生相手に、連携の効いた六年生たちですら未だに傷を負わせられていない強さに、学園一の線輪の使い手と豪語する滝夜叉丸でも、自分が加わって六年生の連携を崩して足でまといになることなど目に見えていた。

    「っ…!こんな……」
    「──大丈夫か守一郎、首を切ったのか」

    最初に攻撃されてからなるだけ気配を消して潜んでいた守一郎とそれに付き添っていた喜八郎の元に仙蔵と伊作がやってきて声をかける。

    「はいっ…けど、ただ掠っただけですので」
    「それでも応急手当はしておいた方がいいよ。守一郎、これ持って行って」

    伊作はそう言うと懐から包帯を出し守一郎に手渡し、受け取った守一郎が「持って行く…?」とぽかんとしながら問うと、伊作は援護で後方に手裏剣を投げてから答える。

    「さっきも言ったけど、あれは土井先生だ。…何故か分からないけど再びドクタケに洗脳されて今は【天鬼】になってしまっているけれど、あれは実力共に紛れもない土井先生。四年生の君たちが敵う相手ではないし、得意武器が接近向けで殺傷力の無い南蛮鉤の守一郎が前に出ればまずお陀仏だ。」

    伊作の普段より数段低く単調な声に、本当に生死の賭かった状況なのだと改めて理解してどくどくと血の垂れる首を押える守一郎。

    「だから、守一郎とタカ丸。お前たちはドクタケ城内にいる先生方へ状況の報告に行ってくれ。」
    「へ、僕も?」
    「タカ丸は相手が土井先生でも他のドクタケ兵でも単独で行動するのは危険だ。だから手負いの守一郎とふたりで行動した方がいい。」
    「ふたりで確実に情報を先生方に伝えてくれ。いいな?」
    「「は、はいっ!」」

    仙蔵の言葉に声を揃えて返事をすると、タカ丸が守一郎に手を差し出し立ち上がると二人揃ってドクタケ城の見える方角に向かって駆け出した。

    「! 行かせんっ!」

    走り出すふたりに気づいた天鬼が棒手裏剣を投げるも、留三郎が続いて投げた手裏剣が接触して棒手裏剣を撃ち落とす。

    「っ、小賢しい…!」
    「行かせませんよ土井先生!」
    「思い出すまで俺たちと勝負だ!」

    天鬼の行く手を阻む留三郎と文次郎の声はこんな危機的状況やがらも僅かに高ぶっていた。
    そりゃあそうだ、前回は6人がかりで一切歯が立たなかった相手と守る者を守りながらしっかり戦えている。
    忍者のたまごとして、常に忍者としての強さを求める彼らとして、格上を相手として自分の成長を実感できる。これほど嬉しいことは無いだろう。

    だからその気持ちが、彼ららしくもない油断を産んでしまった。


    「……?」

    スン、と鼻を突くような臭いを感じて滝夜叉丸は振り返り仙蔵の姿を見るが仙蔵は懐から手裏剣を出して構えており、滝夜叉丸と目が合うと「どうした?」と聞く。
    その反応から勘違いかと思ったが、今滝夜叉丸の鼻を通ったのは確かに火薬の匂いだった。
    横にいる喜八郎に目をやれば喜八郎も滝夜叉丸と同じ表情をしていて、目を合わせる。

    「なぁ喜八郎、この匂い…」
    「うん、火薬だよね。けどこれ…土井先生のとも立花先輩の調合する火薬とも匂いが違う。これは…」

    そこまで気づきふたりはハッとして顔を上げる。
    視界の先には天鬼を動かせないように足止めし戦う文次郎、留三郎、小平太、長次の姿。
    そのずっと奥の竹林の隙間から、灰色の煙が上がっているのが見えた。
    その下に見えるキラリと光る銀色に、まずいと冷や汗を流しタカ丸と守一郎が向かった先に振り返った時にはもう遅かった。


    「守一郎!タカ丸さん!逃げ───」

    パアン!

    耳を劈く破裂音に、滝夜叉丸の声が掻き消される。

    滝夜叉丸が顔を向ける先にはドクタケ城に向かい走って行った守一郎とタカ丸の2人の姿。
    そのタカ丸の背中が、ガクッと赤色の飛沫を上げて倒れる。


    「「「タカ丸さん!!!」」」


    四年生3人の叫ぶ声が重なり、直ぐに滝夜叉丸と喜八郎は守一郎に受け止められたタカ丸の元に駆け寄る。
    肩からドクドクと血が溢れ、受け止めている守一郎の装束にもその色が移ってゆく。

    「うっ…ぁ、あ”ぁ…!!」
    「タカ丸さん!っ、火縄銃…!ドクタケ兵も潜んでいたのか!?」

    慣れない痛みに絶叫するしかないタカ丸の出血部を抑えながら硝煙の見えた方向に目をやると、火縄銃の銀色の光が移動しているのが見える。
    あんなにも離れた距離から的確にタカ丸の肩を射抜けるなんて、かなりの手練と見て間違いない。
    そんな相手を放置していい訳が無い。火薬篭めが終わってまた火縄を撃たれれば今度は誰かが本当に致命傷を負わされてしまう。

    「タカ丸!っ大変だ、肩を完全に貫いている…」
    「伊作先輩、タカ丸さんをお願いします」
    「待って滝夜叉丸、狙撃手を追いかけるつもり?」
    「当たり前だ。喜八郎お前は伊作先輩の手助けを頼む」
    「あっちょ、滝夜叉丸…!!」
    「喜八郎、今は滝夜叉丸の言う策が一番良い。タカ丸の治療をするから手伝って。」

    伊作の言葉に反論する理由もなく、喜八郎は滝夜叉丸に伸ばそうとした手を引っ込め、「…わかりました」と伊作の指示に従いながらタカ丸の身体を起こす。

    「っ、う…!ねぇ、喜八郎……」
    「タカ丸さん今は喋らないで。傷口が開く。」
    「……喜八郎も、気づいてるでしょ…?──ねぇ、ドクタケにこんな正確な射撃のできる鉄砲隊なんて、いたっけ…?」
    「………」

    タカ丸の言葉の意味に気づいた守一郎は「まさか」と息を飲み、喜八郎と伊作は【最悪】の想像をし、何も言わずに包帯を締めた。





    ─────────────────────────







    竹藪の中を走り、ここらへんかと硝煙が見えた地点で息を整え立ち止まるが、それらしき人物は見当たらない。
    一体どこに行ったと当たりを見回せば、東の方角からドォンと大きな音が聞こえた。

    (この音は…石火矢か)

    やつの…三木ヱ門のものとは種類が違う石火矢かのか音の響き等僅かな違いがあったが、忍術学園で嫌という程聞くものだ。分からないはずがない。
    私は音の聞こえた方向に再び駆け出すとそこには、最新型のものなのか随分と大きな石火矢の隣に立つ、【天鬼】と呼ばれた土井先生と同じ白い山伏装束を纏った男がいた。

    (あいつが、タカ丸さんを……!)

    戦輪を取り出すと直ぐに人差し指で回転させ勢いをつけ、距離を詰めると男目掛けて腕を振り戦輪を放つ。
    ギュルルルと音を立て宙を舞い、その音に男は気づき焦り飛び跳ねるが避けきれずに口当てが戦輪に切られ男の顔が晒される。

    「もらったぁ!」

    戻ってきた戦輪を掴み、ふらつく男目掛けてその手を振り被ろうとした───時、その男の顔が目に入った。

    真っ白な山伏装束から覗かせる明るい茶髪、深紅の大きな瞳。
    僅かに漂う、四年前からよく鼻に着いた火薬の香り。


    「───は、三木…ヱ門……?」

    「なんだお前はっ…う、わぁ!」


    滝夜叉丸は驚き固まってしまい、飛びかかった勢いのまま止まることができずに三木ヱ門の顔をした男に正面からぶつかりそのまま押し倒すよう地面に倒れる。

    「っ、重い!なんだお前は!退け!」
    「お…重いとはなんだ!それに、こんっなところで何をしているんだ三木ヱ門!どれだけ私たちや先輩方がお前のことを心配したと…!」
    「はぁ!?三木ヱ門…?誰の話をしているんだお前は」
    「は…?何を言っているんだ、お前のことに決まっているだろう!忍術学園四年ろ組で私のライバル!田村三木ヱ門!」

    三木ヱ門は私の言葉に驚き目を見開き、一拍置いて何か納得したように目を細め表情を消すと


    「あぁ───なんだ、忍術学園の者か」


    普段の三木ヱ門の女性と間違えられる程の高い声からは考えられない、冷たく低い声で吐き捨てるようにそう言い放ち、懐から出した苦無で私の腹を刺した。

    「……は」

    理解の追いつかない私の腹をそのまま掻っ切り、苦無を抜くと次は首───を狙った腕を掴み、地面に押さえつける。
    その勢いで私の血が滴る苦無は三木ヱ門の手から離れ少し離れた地面に飛ばされる。

    「っ……!」
    「…へぇ、腹を引き裂いてやってもまだそんな力が出せるとは」
    「三木ヱ門、お前…!!」
    「なんだその名前は。私はドクタケ忍者隊石火矢部隊兼軍師補佐───炎鬼だ。」
    「っ、あぁなんだ…お前も、土井先生と同じだったか……!」


    完全に迂闊だった。
    いくら三木ヱ門といえども、私に張り合ってこれる貴重な悪しきライバルの失踪に、私も少なからず動じて、焦っていたのだろう。
    それで土井先生の状態から三木ヱ門も同じ事になっていると、こんな簡単な想像もできずにあっさりとダメージを負わされてしまった。
    四年生にもなって不用心で、情けない。

    血が回って吐血し始めた口を噛み締め、三木ヱ門の腕を逃がさないようより強く掴む。

    「痛っ…!離せ曲者!」
    「離すものか!それに私は曲者などではない!」
    「はぁ…?忍術学園の忍たまだろうお前は、ならば我らドクタケ忍者隊の敵だ!!」

    そう声を上げると勢いよく腹の傷口を蹴りあげられ、あまりの激痛に腰を落とし蹲るが、三木ヱ門の腕を握る手の力は一切弱めない。


    「っ…いいか馬鹿ヱ門!全部忘れたその阿呆な脳に再び刻み込め!私はただの忍タマではない!教科の成績も1番なら実技の成績も1番!忍術学園の期待の星、スーパースターの平滝夜叉丸だ!!!」


    「…何、なんだお前は……!」

    三木ヱ門は私の言葉を聞いた途端苦しそうに表情を歪ませる。
    そんな三木ヱ門にさらにずいっと顔を更に近づけ、問う。

    「──そしてお前は、そんな私が認める唯一のライバル。火器使いの田村三木ヱ門だ。…これでも思い出さないか」
    「ぐ、ぅう…!違う、私は、わたしは…!!!」

    苦しそうに腕を暴れさせ始めた三木ヱ門に(もう少しか)と思い再び声をかけようとした…時、凄まじい速度の『何か』が横から飛んでくる気配がして、身体を反らして避ければ、刀が目の下を掠って右の横髪を斬り落とされた。


    「っ…!」
    「───炎鬼に何を吹き込んだ?」


    反らした勢いのまま転がり、少し間を開けた地点で起き上がれば、天鬼───土井先生が、蹲りながら苦しそうに頭を抱える三木ヱ門を庇うように片手を広げ、刀をこちらに向けていた。

    「う、あ、あぁっ…!!」

    三木ヱ門は声を漏らしながら頭を押え藻掻くように苦しみ、土井先生はそれを一瞥すると再びぎらりとこっちを睨みつける。

    「…何故、土井先生がここに…!?」
    「お前の仲間たちなら炎鬼の石火矢で体勢を崩せば呆気ないものだったぞ。───特に、最も小賢しかった苦無使いは石火矢が命中していたな。全員生かして忍術学園の情報を引き出せればいいのだが、奴は死ぬだろうな。」
    「っ、七松、先輩…!!」

    いつも無茶苦茶で委員会で振り回されてばかりだが、いざと言う時誰よりも頼りになる先輩の顔が脳内に浮かび上がり、『あの人が負けるなんて、そんなこと…』と思いつつも、炎鬼と呼ばれる三木ヱ門が撃った石火矢と、天鬼と呼ばれる土井先生の実力を目の当たりにした今“最悪”の可能性は否定できないものだった。
    ふつふつと湧き上がる怒りを『冷静になれ』と自分に言い聞かせ抑えながら、間合いを測りながら戦輪を構える。
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