トミオカギユウをホゴしました。◆トリセツ◆
・冨岡義勇が現代日本にトリップしてきたら、というもしも話です。
・ここ重要なんですが、今回はまだ冨岡義勇がかっこよくないです。怒らないでね。
・主人公は萌え系アニメが好きなアホの子です。いちおう声優志望。
・主人公は男なのでラブは芽生えません。
・作者は田舎の民なので、都会というものに対してハリウッド・ザ・誇張があります。
・主人公は平成の若者ですが作者は昭和の人間です。(お察し…)
・実在しそうなアニメの話が出てきますが、全く関係はありません。
・タイトル通りのアホ話です。真面目に読んではいけません。
以上、オッケーな心の広い方、どうぞお進みくださいませ。
うたうたいがきてうたうたえというがうたうたいくらいうたうまければうたうたうがうたうたいくらいうたうまくないのでうたうたわぬ。
もう一回。
うたうたいが…
『次はぁ〜秋葉原ぁ〜秋葉原で、ゴザイマース』
面倒くさそうな車掌のアナウンスが聞こえて俺は顔を上げた。イヤホンを耳に挿して金魚のように口をパクパクさせてる俺は、さそかし奇行種に見えるであろう。しかし顔を上げても誰も俺を見てなかった。そりゃそうだ。ここでは誰もがお互いに無関心。アア東京砂漠よ。
まあそんなことはどうでもよかった。問題は俺イチオシのアニメ『Re:マイナスから始める異世界生活☆』のヒロイン・レルたんのフィギュアが買えるかどうかだ。俺はそのためにアキバまで来た。今日の学内オーディションに落ちた可哀想な俺を慰めるために!我が家に降臨せよ、レルたんよ!
と、意気込んで黄色い電車を降りた後、俺はたたらを踏んだ。どっちだっけ?相変わらず秋葉原駅は迷宮、ここはラビリンス、ラララ〜電気街出口はどっち?即興の歌を歌いながらホームを横切り、エスカレーターを下り、指差し確認、右!電気街口!ヨシ!
世の中はコロナ・ウィズ・ユー ではあるものの、相変わらずアキバには人が溢れていた。右見ても左見ても人人人。天気の子ならぬ田舎の子である俺は、都会に出てきた当初は人を避ける術を知らず、ずいぶんと苦労した。しかしまあ、一年もいればなんとか慣れるもので、今では、なんつうか、光の道が見える?みたいな。こう行けば良いよーってルートが自動的に見えるようになった。俺は日々進化している。我ながらスゴイ。
改札を潜る。マスクをちょこっと上げる。
日は既に落ち、ギラギラと光るネオン街。いやちょっと意味違うけど。光ってるのは間違いないよな。田舎だったらクリスマス時期だけだけど、都会はさすがに違う。オールデイ・イルミネーション。いっつワンダホー。
そんなギラギラ光る街の中、駅の電気街口から出たところの広場に、ちょっとした人だかりができていた。
主に女子。キャアキャア言いながらスマホを手にパシャパシャやっている。なんか有名人でもきてるのかな?
東京の人って有名人が町中にいてもスルーしがちだよね。クールなんだろうなあ。けどアキバは事情が違うみたいだ。首を伸ばして見ると、女子の隙間から派手な着物が見えた。
背高めのお兄さん、長髪を後ろでくくってて、半分赤、半分柄物の派手な着物。腰には刀のような棒を挿している。
ああ、ありゃコスプレイヤーだな、と俺は納得した。さすが天下の秋葉原、オタクの街、アニメの聖地よ。何のコスプレかはわかんないけど。
俺はあんまり興味がなかったので、首を元に戻して、さあレルたんをゲットだと足早に人だかりの横を通り過ぎようとした。
その時だった。
「見つけたぞ」
すぐ、真横で声がした。
は?
首を巡らせると、すぐ真横にコスプレイヤーがいた。えっえっいつの間に。めちゃ怖い。
彼はは鋭い目でジッと俺をみていた。つり目がちの涼しげな目は、少し青味がかかっている。えっなにこれ。圧がすごい。しかもかなりの美形だよ、派手柄の着物が全く違和感なし。えっえっ、俺そんな趣味ない。
「な、何でしょう…」
うろたえる俺を尻目に、女子たちがわらわらと寄ってきた。
「なになにー?」
「知り合いーッ?」
「なんかあやしぃー」
口々に勝手なこと言ってるけど、まじ俺困惑。知り合いでも何でもないんですけど。
彼がスッと目を細めた。剣呑な光がその目に宿る。
「お前は、鬼だ」
口にした言葉が俺の耳に届くまで、しばらくかかった。
「はぁ?」
なにこれ。なんかのドッキリなのかな。
俺はキョロキョロと辺りを見回してみたけれども、テレビカメラやリポーターっぽい人は見当たらない。
目の前には大真面目な顔をした美形。後ろには女子たち。キャアキャア。なんなのさ、俺がキャアキャア言われてるわけではないし。
俺は瞬間的に目の前の男に対してヤバい人認定をした。まあ普通に考えればそうでしょ。関わったらダメなやつ。ウッカリ関わったら最後、田舎から出て来た哀れなおのぼりさんは、身ぐるみ剥がされて裏路地にポイ。おおコワ。コワッ。
そうなると、もう俺の取るべき行動は一つだった。
加速装置、オン!
気取られないように男からそっと目を逸らすと、一気に足に力を溜める。
俺は脱兎のごとく走り出した。
「待て!」
後ろから男の声が聞こえた。トーゼンのように追っかけてくる。ヒィィィ、俺が何をした?!
俺は光の道に従って、シュルシュルと人ごみを縫ってとにかく走った。
男は光の道を見る技を身につけていなかったらしい。ヤツがガンガンぶつかってこようとする人を避けてるうちに、俺はどんどん男を引き離した。やったぜ!男の声が遠ざかっていく。
ハアハア。
電気街の狭い裏路地をめくらめっぽうに走って、俺はようやく一息ついた。
ここどこだ?
目の前にはメイドカフェ入り口の看板。その先にビルがあって、暗い入り口の中にうっそりとエレベーターがあるのが見えたけど、今日は休みらしくて誰もいない。
なんとか男を撒くのに成功したようだ。なんだったんだアレ。
俺はキョロキョロと辺りを見回してみた。ヨシ、誰もいない。これからどうしよう。レルたんのフィギュアを買うには人通りの多い道に戻らないといけなかった。そもそもどのみち駅に戻らないと帰れない。
えーえー、どうしよう。今戻ったらまた会ったりしないかな。
迷いながら路地の出口に向かって足を踏み出した。その時だった。
「水の呼吸、捌の型」
頭上から、声が降ってきた。
エッ!と思って上を見ると、青い刀を上段に構えたコスプレイヤーが、いた。
かっ、カタナ!
マジか!
「滝壺!」
とっさに避ける。
ドンドンと上から何発か衝撃波が飛んできた。
なにこれアニメ?当たったら死ぬヤツじゃんよ!
路地裏のゴミ袋が吹っ飛んでバラバラとゴミが降ってくる。辺りにモウモウと立ち込めるホコリ。なになになに!?何事!?
俺はあやうく腰を抜かしそうになって、這うようにホコリの中から抜け出した。
ホコリが晴れると共に、路地の奥に赤と柄物の派手な着物が見えた。手にはギラリと光る青い刀。模造刀かな、すっげよくできてるけど、銃刀法違反じゃないかな。
男は刀の切っ先を俺に向けた。チャキンと音が鳴る。なにこれマジ時代劇。
「悪鬼滅殺」
男は地の底から響くような低い声でそう告げた。
えっ、悪鬼って俺のこと?
「いやいやいやいや、待って待って!」
俺は慌てて両手を上げて降参のポーズを取った。
「俺、鬼じゃないし!れっきとした人間だし!」
自慢じゃないが俺の声はよく通る。毎日カツゼツよくするためのトレーニングも欠かさないし、おかげで声だけはいいとよく褒められるし!
「問答無用」
しかし俺の美声も男には効果がなかったみたいだ。ビュッと音を立てて男が俺の目の前に移動してきた。そして、尻餅をついてる俺目がけて刀を振りかぶる。
俺は全く動けなかった。なにもかもがスローモーションに見えた。そしてのんきにも、ああこんな狭い路地でそんな長いもの振り回したら危ないよ、なんて考えてた。
永遠に近い一瞬が過ぎて、男の刀によりバーンと俺の首が宙に飛ぶ、と思われた。が。
バチン!
と、ものすごい音がして、すぐに焦げたような匂いが辺りに充満した。
刀が俺の体に届く手前で、男の体がビクッとケイレンする。そしてそのまま前のめりにバタリと倒れた。
俺はなにが起きたのか一瞬分からず、目をしぱしぱと瞬かせた。
その目が吸い寄せられるように、路地の電柱に備え付けられたものに移動した。
それは、ブスプスと小さく煙を上げる配電盤だった。
派手に、ぶっ壊している。
あちゃ、刀が当たってしまったのか。
ということは、この人感電しちゃったのか。
俺は目の前に倒れている男を見下ろした。彼は、ものの見事に白目を剥いて、気絶していた。
ええー、大丈夫なの?
俺はぶっ壊れた配電盤と男を交互に見て思いっきりうろたえた。
これは俺が弁償なのだろうか。
それよりこの人病院に連れてかないと。
けどこの人の名前も素性も知らないし、なんでこんなことになったのか説明つかないし。
アワワワワ。
「き、救急車、呼ぶっ」
とりあえず人命優先だ。俺は決意した。とりあえず救急車を呼んで、俺は逃げよう。
慌てて鞄からスマホを取り出して、11…と押したところで、突然腕をガツっと掴まれた。
「ヒッ」
男だった。苦しそうに眉根を寄せてるけど、もう白目ではなかった。
「呼ぶな…人を、呼ぶな」
「えっ、でも感電したでしょ」
「俺は平気だ…」
そうは言うけど、全然平気そうには見えない。
男は辛そうな顔をしたまま、俺の顔をじっと見つめる。
「牙がない…瞳孔も正常…お前は、違うのか。すまない…」
そう言いながらガクリとうなだれる。
ん?なんか誤解が解けたのかな。今頃?ずっと勘違いしてたってこと?なんて慌てん坊さんなんだ。
「分かってくれたんだ。よかったよ。けどこうなっちゃったら人呼ばないわけにはいかないよ」
俺がそう言うと、男はフルフルとかぶりを振った。
「やめてくれ…」
とても、切実な顔をしている。そうだよな、こんなイカれた格好で救急車乗りたくないよな。アキバならともかく、恥ずかしすぎる。俺はそう思ったので、次の譲歩案を繰り出した。
「じゃあとりあえず家まで送るよ。家はどこ?」
「戻る場所はない…」
えっ、まさかの家なき子。衣装にお金かけ過ぎてホームレスとかそんなんなのだろうか。この美形がネットカフェに寝泊まりしているところは想像つかないけど、人生なにがあるか分からないかって言うし。
「え〜」
困った。これは困った。俺は配電盤をチラリとみた。この配電盤どこのビルのだろう。幸い無人なのか電気切れてるの気づかれてないみたいだけど、バレたら騒ぎになりそう。早く逃げたい。
「ああもう!」
俺はたまらずキレた。このわけわからん状況が、なんなのか分かんないけどさ、もう家帰って寝たい!
「じゃあとりあえずウチ来なよ。立てる?」
男にそう言うと、一瞬申し訳なさそうな顔をして、コクリと頷いた。その顔を見て俺は美形ってトクだよな、ズルイよな、と思ったけれども、すっかり頭が混乱していて、それ以上のことは考えられなかった。
「うっわ、イタっ」
アキバから俺の根城、西葛西までのタクシー代、しめて四千円。この時点で完全にレルたんのフィギュアを買う野望は潰えた。毎日昼飯代をケチってコツコツ貯めたお金が。タクシーなんでこんなに高いんだ、万死に値する!
俺はタクシーの運ちゃんに虎の子の四千円を渡して、男の肩を支えながらタクシーを降りた。さすがに、この派手な人を連れて地下鉄に乗る根性はなかった。ついでに言うと感電したせいか、この人俺が肩を貸して歩くのがやっとで、しかも肩貸した俺が言うのはなんだけど、体格の割にめちゃくちゃ重かった。
この重い人を連れて地下鉄日比谷線から東西線の乗り換え、あのクッソ長い茅場町の乗り換えするとかほんと無理。しかも東西線混むしなあ。だけどそのルートだと二百円だぜ?タクシー乗ると二十倍の金がかかるってコレ如何に?
それも今となっては、だけど。
おかしな状況に完全に判断力が落ちてた俺は、大通りに出るなり速攻タクシーを捕まえて乗り込んだのだった。もう完全にアタマやられてたと思う。
しかもこの人、タクシーに乗り込むなり目を閉じて眠り、ヒュルルルーと変な音のイビキを立て始めたものだから、タクシーの運ちゃんに「脳梗塞起こしてませんか?」と本気で心配された。
「大丈夫?」
タクシーはさっさと去り、俺は肩を貸した男に声をかけた。彼は無言で頷く。
ワンルーム四万円、四畳のクッソ狭い部屋に申し訳程度にロフト。親が地元から遊びにきたときに『事件の容疑者が住んでそう』と評されたボロアパート1階ど真ん中の部屋が俺の根城だった。こんな体格のいい野郎が入ってきたらもう速攻あふれそう。でも連れてきちゃったものは仕方ない。
俺は鍵を開けて、男を連れ込んだ。彼はなぜか靴ではなくて草履に足袋を履いていた。本当に本格的だな。
正直立っているのも辛そうだったので、万年床の布団の上に放り投げる。男はヨタヨタと布団に倒れ込んだ。
「そこ、寝ちゃっていいからさ。服、ぬいで」
俺は押し入れからジャージを取り出して男に渡す。男は首を傾げた。
「洋装か」
うん?いっている意味がわからないよ?
「着替えだよ。そのまんま寝ちゃったらせっかくの衣装がシワシワになるだろ」
「衣装?」
男はまたもや首を傾げたが、ノロノロと起き上がり、着物を脱ぎ始めた。よく見たら、着物じゃなくて羽織だった。そして、下には学ランみたいな真っ黒い服を着ていた。男は羽織を丁寧に畳み、その上に腰に挿していた刀を丁寧に置いて、学ランを脱いでスネに巻いてるゲートルみたいなやつを外し、ニッカポッカみたいなズボンを脱いだ。学ランの下には白いシャツを着ていた。見た目アレだけど、学生さんなのかな?
そして、驚いたことに、男はパンツを履いていなかった。
ん?
俺は見間違えたかと思って、いちど目を逸らして、もう一回見た。
パンツ履いてないっていっても、ブリーフやトランクスを履いていなかった、と言う意味で、別にフルチンだったわけではない。
ただ、特殊なものを身につけていたのだ。
うん?コレは、噂に聞くところの、フンドシというやつでは…。えぇ、いくら本格的なコスプレと言っても、凝りすぎではない?
「何か?」
俺があまりにも凝視するものだから、男は頬を赤くして俺を見た。あっ、いやいや、誤解しないで!
「ぱ、パンツの替えも」
俺は慌てて押し入れから新品のTシャツとトランクスを引っ張り出した。男は渡されたそれらをしげしげと見て、またもや首を傾げた。
「コレを、いったいどうするのだ?」
ハイ?
真面目に言ってるのか?なんなのこの人。
「トランクス派じゃないの?でも悪いけど、それしかないから」
「とらんくす?」
俺と男は、同時に首を傾げた。ええ、もうワケわからん。
つうか、俺なんでこんなに世話焼いちゃってんの?意味不明に追っかけられただけの人に?
俺は急に自分がやっていることがバカバカしくなった。
もう放ってていいかなァ、そう思ったとき、男が急にふらりと布団の上に倒れ込んだ。よく見たら、顔色が真っ青になっている。
「ああ、大丈夫じゃないじゃん」
俺は慌てた。ここで死なれても困る。とりあえずフンドシはそのままにしておいて、シャツのボタンを緩めて布団に寝かせ、上布団をかけた。
「すまない」
目を閉じたまま眉間にシワを寄せて男がそう呟いた。こんな人を放っておくほど、俺は修羅ではない。
「具合よくなるまで休んでいいからさ。俺のことは気にしないで」
男は俺の言葉に小さく頷き、すぐに寝てしまった。また、ヒュルルルーと謎のいびきをかき始めたけれども、起きる気配はない。
ハア、疲れた…。
俺はガックリを肩を落とす。いったい、何なんだ?
時計を見ると二十二時だった。晩飯、食べてないなァ。急にお腹が空いてしまって、俺は地元から母ちゃんが送ってくれた段ボールの中をあさった。するとカップ焼きそばが出てきた。おお、お宝。早速お湯を沸かして、お湯切り!必殺!マヨビーム!
満を持して、はふはふと焼きそばを頬張り始めたそのとき、ピコンピコンとスマホが鳴った。
お、ラインだ。
ラインを送ってきたのは、学校の友達のユイちゃんだった。
『今日は乙!惜しかったね!』
俺はカチカチと打ち返す。
『惜しいもなにも。全然ダメだったよ』
すぐにピコンと返信。
『いやあ、私の目から見ると接戦だったって!
…ところでフィギュアは買えましたかな?』
そういえば帰りにユイちゃんにはフィギュアのこと言ってたな。よし早速グチろう。
『それが、買えなかった…。変なコスプレの人に追っかけられて散々だったよ』
『コスプレの人www なにそれwww kwsk』
そう返信が来て俺はふと思いついた。彼女ならこの人がなんのコスプレしてたのか分かるかも。
『俺なんのコスプレか分からなくてさ。知ってたら教えて。長髪の後ろひとつ結びで、赤と柄物の半々の羽織で、下に黒い学ランで、青い刀の人』
返信はすぐに来た。
『ちょwww それって冨岡義勇。ハル知らないの?』
『とみおかぎゆう?』
『鬼滅の刃だよ。めちゃ流行ってるじゃん』
ああ、と俺は金色の派手髪の男が「この俺の赤きえんとうが!」と言ってるCMを思い出した。そういや、映画めちゃ流行ってるな。血まみれっぽいのが怖くて見てないけど。
『ゴメ、見てない』
『マヂか!』
同時にピコンと、ユイちゃんから、心外!と男が言ってるスタンプが送られてきた。
『義勇サマ知らないなんて!今すぐアマプラでキメツ見て!一話でソッコー出てくるから!』
『ええー、血が怖い…』
『怖くないから!男なら!つべこべ言わずに見る!』
『りょ』
俺がそう返すと、今度はイノシシが「猪突猛進!猪突猛進!」と言ってるスタンプがきた。なんだこのアニメ…。
そのままユイちゃんからは返事が来なくなったから、俺はとりあえずスマホでアマプラを開いた。
き、きめつの、やいば…あ、あったあった。
竹くわえてる女子がなんか可愛いと思ったけど、額がピキピキしてるからやっぱり怖い。
恐怖におののきながら、俺は焼きそばを口に入れつつ一話を見始めた…。
お。おっふ。やっぱり血の海。グロっ。
一話でコレとは、相当だなァ。俺は半分行ったところですでにくじけそうだった。なんと言っても、萌えがない。萌えがなければ俺は動けないんだぜ。萌えカモーンヌ。
そう思ってるうちに、妹がガウガウ言いはじめて、危うく主人公が食われそうになり…
あ
『生殺与奪の権を、他人に握らせるな!』
でた。
黒髪の派手羽織のお兄さんだ。いきなり主人公に怒鳴りつけてる。やっぱり怖え。
俺は一旦画面を止めて、布団で寝てる男を見た。
似てるな…。
そして、畳んである衣装を見た。
衣装も、完璧ィ…。
これはきっと、有名なコスプレイヤーに違いない。
ピコンと猪之助のスタンプを送信して、仮屋崎ユイはスマホを置いた。ひとつ、ため息をつく。
ラインをしていた相手は、同じ学校の草壁ハルカ。いつも通りのやり取りだし、アレは本人に間違いない。
間違いないよ、ね。
「本人確認は終わったのかァ?」
ベッドに腰掛けた男が、声を上げる。風が吹き込んで、カーテンが揺れる。窓を閉めなきゃと思ったけど、窓はベッドの向こうだ。男を越えないと閉められないけど、あまり近づきたくなかった。
「うん。少なくとも、あんたがハルカじゃないことは、分かったよ」
ユイがそう返すと、男はヘッと笑った。
「そうかい。マア安心しろよォ。お前には恩があるし、食ったりしねえよ」
窓の外には満月。いつもより大きくみえる。今日は、ウルフムーンだとニュースで言ってた。満月を背に、男が笑う。口の端からは鋭い牙が見えた。
最初は、友達がコスプレしてるのかと思って声をかけたのだ。
けれど、違った。顔はそっくりだけど、中身は似ても似つかなかった。
「あんた、誰よ…」
ユイの問いかけに、男は口の端を曲げて笑った。
「さあなァ。修羅の国から来た、とでも?」
何を格好つけて。
そうは思うけれども、ユイは男を凝視したまま、その場から動くことが出来なかった。