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    ねねねのね

    キメツの二次創作小説を書いてます٩( ᐛ )و

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    ねねねのね

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    サッカー少年7話目、今日は日曜なので早めにあげます。これコソコソなんですが、この話のタイトルは、鯵缶の同名曲からお借りしてます。あの曲の持つ青春の焦燥感、みたいなものを書ければなあと思って……

    夏の日、残像 07 錆兎俺はハッとして、義勇に向き直った。
    「何で…!」
    義勇は俺を横目でチラリと見て、すぐに目を伏せる。
    「さっき、倒れていたときに。寝言で、鬼に喰われる、と」
    それを言われると同時に、俺の頭の中にさっきの夢の情景がありありと蘇った。暗い山の中で追いかけ回されていた。俺はそのものの姿は見ていないが、確かに鬼だと認識していた。もちろん、俺を背負っていた父ちゃんも。捕まれば、喰われると、分かっていた。
    俺の背中に冷たい汗が流れる。
    「追いかけられていた」
    俺は、絞り出すように答えた。
    「見てないけど、鬼だと分かっていた」
    多分俺は、ただ事ではない顔をしていたのだろう。義勇は顔を上げ、手を握っていない方の手で俺の頬を撫でた。
    「大丈夫だ、錆兎」
    そして、微妙な微笑みを浮かべる。
    「ただの、夢だ」
    「なんで、ただの夢だと分かるんだ」
    背中がぞくぞくしていた。何かが背後からやってくるような気がして、知らず俺は震えていた。
    「夢なんだ」
    義勇は震える俺の肩に手をやり、落ち着かせるように何回も撫でる。
    「なぜなら」
    ドンドンドン、と連続して花火の音が響いた。空から、流星のように筋を描いてたくさんの火の粉が落ちる。
    「俺も見てるからだ」
    俺は驚いて義勇の目を見つめた。義勇の目にはうろたえた俺が映っている。
    「見てるんだ、俺も。鬼の夢を」
    義勇は繰り返した。

    「義勇も…?」
    俺がそう言うと、義勇は、あんまり人に言うようなことじゃないけどな、と首を振った。
    そういえば、先程病院の待合室で、義勇も不思議な寝言を言っていた。とても苦しそうだったので、何を見ていたのか気になっていたけれど、まさか。
    「寝言なら義勇も。さっき…」
    俺が言いかけると、義勇は眉根を寄せて俺を見返した。
    「何て?」
    「このままだと死ぬ、と」
    その言葉に、義勇は見られてはいけないものを晒してしまったと言わんばかりに、いまいましげな顔をした。
    「忘れてくれ」
    「なんでだよ」
    「錆兎は知らなくていいことだ」
    「なんだよそれ!」
    俺は思わず怒鳴りつけていた。人の心にはズカズカ入ってくるくせに、いざ矛先が自分に向いたら、なかったことにしようとする。それはずるい、と心底思った。
    「教えてくれよ!」
    俺は義勇の手を振り払い、肩を掴んで揺さぶった。
    「お前の夢にも、もしかして俺が出ているのか!?」
    俺の言葉に、義勇はハッと目を見張り俺を見る。
    「お前の夢に俺が出てるのか?」
    「出てるよ、お前よりずいぶん可愛いけどな!」
    「可愛い?」
    いぶかしげに言葉を返されて俺は我に帰った。ああ俺は何を言ってんだ?
    道端で言い争ってる俺たちを、通りすがりの女子高生たちがヒソヒソ話しながら見ているのが、視界の端に見えた。その途端、俺の頭はすっかり現実に戻ってしまった。
    「なあ錆兎、夢の俺ってどんなやつだ?」
    なおも聞いてくる義勇の手を俺は引っ張る。
    「行こう」
    他人の視線が痛かった。こっちを見てるのは女子高生たちだけではなかった。小さい子を連れた親子連れや、孫を連れたジイちゃんなんかもこっちを見ていた。
    「なあ錆兎」
    「いいから、行こう」
    ドン、とひときわ大きな音が響いた。今日イチの大きな花火が空いっぱいに広がる。みんなの関心がそっちに逸れて、さっと一斉に空を見上げた。
    その隙に、俺は義勇の手を引っ張って走り出した。

    花火を背にして元来た道を走る。義勇は黙ってついてきた。しばらく駆けて、ゆっくり速度を落とし、歩きに戻した。
    駅に行こう。帰らないと。
    俺は気を逸らすのに精一杯だった。
    思わず怒鳴ってしまったことが、今になって恥ずかしくて仕方ない。
    「錆兎」
    俺の横について、義勇が顔を覗き込んできた。
    「怒ってるか?」
    俺は首を横に振った。
    「怒ってない」
    「じゃあ、なんでこっち見ないんだ?」
    義勇の声は深刻だった。まるで俺に否定されると全世界に否定されているような、とでも言わんばかりだ。
    俺はゆるゆると顔を上げる。義勇が、真面目な顔をしてこっちを見ていた。
    「悪かった」
    ひとこと、ポツリと言う。
    「いや……俺も」
    悪かった、と言おうとして、でも言えなくて、俺は足元の石を蹴った。
    「なにが」
    そして、俺は義勇を横目でチラリと見た。
    「悪かった?」
    「錆兎を怒らせたこと」
    「俺は、怒ってない」
    「じゃあ何で」
    と言いながら、義勇は眉間にシワを寄せる。
    「こんな顔してるんだ?」
    「それは」
    恥ずかしいから、という言葉を俺は飲み込む。油断すると顔に血が上ってきそうで、俺はまた下を向いた。
    「錆兎が怒るならもう夢の話はしない」
    眉間を元に戻して、義勇はふうと息を吐いた。
    俺は何も言えなかった。実際のところ、俺も義勇の夢の話を聞きたかったが、もう完全に時機を逸した気がしていた。鬼ってなんだろう。そうは思ったけれども、これ以上は、何も。
    「帰ろう」
    俺がポツリとそう言うと、義勇はうなずいて、ひとりで、てちてちと駅の方向に向かって歩き出した。
    俺は三歩ほど後ろをついていく。駅に着くまで、俺たちは無言だった。
    さっきまであんなにも笑い合っていたのに。何でこうなっちゃったんだろうか。俺はぼんやりそう思いながら、下を向いて歩いた。
    沈黙が痛かった。
    全部俺のせいだとわかっていたけれども、いきなり全部なかったことのように明るい顔をして、馴れ馴れしく話しかける気には、とてもなれなかったし、そのことが悲しかった。

    駅はごった返していて、人混みで熱いくらいだった。俺と義勇は切符を買って、ホームに向かう。
    義勇は下り、俺は上り。一つ違いのホームは背中合わせだった。階段を降りると、電車はまだ来てなかった。
    どこからか、音楽が聴こえる。誰かの携帯プレイヤーのイヤホンが外れて音が漏れているようだった。
    切羽詰まったような、早いギターの音。切実に叫ぶボーカルの声。

    消えないで
    消えないで

    早口で歌う声が聞こえる。
    「錆兎」
    義勇の声に俺は顔を上げる。義勇はうっすらと微笑んでいた。その姿はまるで、花火のようで、儚くて、なんだか消えてしまいそうに見えた。
    下りのホームに電車が入ってくる。電車はキイキイと音を立てながら減速して止まった。ドアが開いて、中からどっと人が湧き出してくる。
    義勇は電車を見ずに、俺をじっと見つめていた。
    その目の奥には、何か俺が知らない哀しみが宿っている。遠い世界で、迷子のようにさまよっている、彼ではない、彼。俺に泣きながら謝る彼と、目の前にいる義勇は、まるで同じ顔をしていた。

    「なあ、このまま何処かに行ってしまわないか」

    そう言って義勇は俺に手を差し伸べた。
    電車の発車アナウンスが響く。

    後になって色んな人に、どうしてそんなことをしたんだ?と聞かれることになるのだけど。

    けれども、その時の俺は、どうしてもその手を取らずにはいられなかったんだ。



    「水の呼吸で心得るべき一番大事なことは何だ」
    今日初めて真剣を渡されて、ドキドキしている俺たちを前に、天狗の面を被った師匠は口を開いた。
    「はい!水面のように静かな心を、持つことです!」
    俺は精一杯大きな声で答えた。先生は、うむ、とうなずき、背後に準備してある的を指差した。的は、地面に突き刺した棒に、人に見立てた藁を巻いているものだ。的はいくつも準備されていた。
    「今日から真剣を使う。今まで木刀で練習していた型を、いよいよ実戦で使えるようにしていく」
    「はい!」
    俺と義勇は声を揃えて返事をする。
    手にした真剣は、今まで使ってきた木刀とは重みが違う。ずしりと手にのしかかってくるこの鉄の塊を、これからは使いこなせるようにならなければいけない。
    「まずは錆兎!」
    「はい!」
    先生に呼ばれ、俺は一歩前に出た。的が目に入る。木刀で果てしなく練習した型だ。形は体がもう覚えていた。
    「全集中!」
    「全集中!」
    先生の声を、俺は復唱する。息を深く吸う。身体の隅々まで空気が行き渡る。行き渡った空気に次々に小さな炎がともり、手足にみるみる力がみなぎってくる。
    「水の呼吸!」
    「水の呼吸!」
    俺は腰を低くし、構えを取る。
    「壱の型、はじめぇい!」
    「ヤァァァァ!」
    手足に溜めた力を爆発させるように、息を吐きながら俺は藁を巻いた棒に向かって飛び出した。腕を交差させ、一気に真横に振り抜く。刀の光跡が青く光り、棒を一閃する。一瞬のうちに棒は真っ二つに斬れ、上半分がガランと音を立てて落ちた。
    「よし!」
    先生の声が響く。俺自身もびっくりして、棒と先生を交互に見ると、先生は満足げにうなずいた。
    「ありがとうございました!」
    俺は先生に一礼し、そのまま下がる。
    「すごい!錆兎!」
    後ろで義勇がはしゃいでいる声が聞こえた。
    何言ってんだよ、恥ずかしいだろ。次はお前だ。
    俺はそう思いながら振り返る。



    目を開けると、義勇はぼうっと前を向いたまま、流れる景色を見ていた。景色と言っても、外は真っ暗で、電車はもはやどこを走っているのかも、定かではない。
    「俺、寝てた…?」
    俺の声に、義勇はゆるりとこちらに首を向けた。
    「ぐっすりだ。よくまあこの状況で寝れるな」
    嫌味ではなく、苦笑まじりにそう言う。

    あの時、義勇の手を取ってしまった俺は、一緒に下りの電車に乗り込んだ。電車は最初のほうはそこそこ混んでいたが、ひと駅ごとにどんどんと人が減っていき、すぐに座れるようになった。俺たちは腰掛けて、ぼうっと忙しく行き交う人たちを見ていた。
    そのうち義勇が降りる駅は過ぎてしまって、それでも俺たちは動かなかった。
    それから、あまりにも義勇が静かにしているので、うっかり俺は眠ってしまっていたらしい。たしかに、よくこの状況で寝れるな、と俺は少し恥ずかしくなった。
    それしても、どこまで行くんだろうか。
    すっかり住宅密集地を抜けて、時々まばらに明かりが灯る田舎道の脇を、ガタンガタンと電車は走る。時折樹々のシルエットの間を抜ける。どう考えても田舎の方に向かっていた。まあ下りなのでそうなんだろうけど。
    「どこまで行くんだ?」
    さすがに義勇に聞いてみると、義勇は悪戯っ子のように笑った。
    「世界の果てまで」
    「まさか。電車では行けないだろ」
    「現実的なこと言うなよ」
    ムウ、と頬を膨らませ、義勇は俺を睨む。
    「まあそのうち。降りてまた上りで折り返そう」
    そう口では言いながら、一向に動こうとはしない。

    「なんで」
    俺は義勇の涼しげな横顔を見ながら、手持ち無沙汰に手のひらをグーパーさせる。
    「遠くに行きたいんだ?」
    すると義勇は俺を横目で見て、グーパーしている手を次に見た。おれがパーにしている隙に、するりと自分の手を滑り込ませる。自然、俺はグーにするので義勇の手を握り込んでしまった。
    俺がギュウと握ってしまったので、義勇は少し顔をしかめて俺を見た。
    「力、強いな」
    「なんだよ」
    俺は慌てて手のひらを広げた。義勇はその手の上に、今度は自分の手のひらを合わせてくる。
    「錆兎なら一緒に来てくれると思ってた」
    答えになっているような、なっていないようなことをボソリと言う。
    一緒に、ってどこまでだ。世界の果てまでか。俺は義勇の考えていることがよくわからなかった。ただ、遠くに行ってしまいたい理由が、俺に関わるものだということだけは、なんとなく分かった。
    「夢のことで悩んでるのか?」
    俺がそう言うと、義勇はパチリと目を瞬かせた。
    「お見通しだな」
    お見通しも何も。俺はその理由以外思いつかない。
    「俺は今まで、義勇が出てくる夢を二パターンしか見たことないんだ。あ、さっきもう一つ見たか」
    俺がそう言うと、義勇は首を傾げた。
    「いま?」
    「そう。天狗のお面をかぶった人がいて、俺たちはその人を先生と呼んでいた」
    「天狗?お神楽でかぶってるようなやつか」
    天狗の先生に、義勇は覚えがないようだった。
    「知らないのか」
    「うん。その辺りは」
    その辺りは。俺は少し引っかかるものを感じたけど、先を続けた。
    「俺と義勇は、一緒に剣の修行をしてるみたいだった。なんだっけ?水の呼吸、とか」
    「水の呼吸」
    義勇は繰り返した。
    「それは、知ってる」
    「全集中」
    「知ってる」
    そうか、と俺はうなずいた。とりあえず、共通点はある。
    「他の夢は?」
    義勇がそう言いさした時、車内アナウンスで、次の停車駅の名前が告げられた。続いて、その駅の次は終点です、と。
    義勇は、あ、と顔を上げて俺を見た。
    「降りよう」
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