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    ねねねのね

    キメツの二次創作小説を書いてます٩( ᐛ )و

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    ねねねのね

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    一昨年書いていてオチが定まらず放置になっていたさびぎゆ小説。
    現パロ謎時空です。
    サッカー少年です。
    できてるところまでちょくちょく置きます。

    夏の日、残像 01 錆兎俺は、物心ついた頃から、頭痛持ちだった。
    原因ははっきりしないけれど、発作が起きると突然頭を両側からギューッと押さえつけられているようにギリギリと痛み、立っていられなくなる。その辛さたるや、頭を抱えて転げ回りたくなるほど。さても俺は孫悟空の生まれ変わりか、悪さしてお釈迦様にお叱りを受けているのか、とでも、言いたくなる。
    俺があまりに痛がるので、心配した両親がほうぼうの病院を巡って調べたところ、片頭痛、という病気ということだった。子供がなるにしては、症状がひどいですねえと医者は首をひねったそうだ。
    医者が言うには死ぬような病気ではなかったし、俺にしても寝て起きればほぼ治るので、深刻にとらえてはいなかった。まあそうは言っても、やはり頭痛が来るとしゃべるのも億劫になるほど辛いので、早々に布団に潜り込んで寝てしまう。その時は学校を休んでも親は文句を言わない。俺は昼間から堂々と寝る。寝るしかない。

    そういう時は、決まって同じ夢を見た。

    木々が生い茂る山の中だ。俺の家は都会の団地の中なので、こんな山はキャンプに行かない限りはお目にかかれない。
    そして、ヒックヒックとしゃくり上げる声が聞こえて、『彼』が目の前にいることに気づく。
    彼は、俺よりも少し年上に見える。中学生くらいだろうか。あずき色の着物を着て、紺色の袴を履いている。ピンピン跳ねる硬そうな黒髪を頭の後ろで一つに括っているのだけど、長髪であることに何ら違和感はない。何時代の人なのだろうか。チョンマゲではないので、江戸時代のひとではないだろうとは思う。

    彼は、いつも、泣いていた。
    ごめん、ごめん、と言いながら、ぼろぼろと涙を流して俺に謝っている。
    何をそんなに謝ることがあるのだろうか、俺には心当たりがない。
    ただ、少し藍がかかった瞳から、透明な涙の粒がこぼれ落ちるのを見ていると、不謹慎ながら綺麗だと思ってしまう。

    間に合わなくて、ごめん。
    助けられなくて、ごめん。
    守れなくて、ごめん。
    彼が言うことはいつも同じだ。
    俺は、大丈夫だ、謝ることなんて何もない、と言ってあげたいのだけれども、声を出すことができない。
    ただただ、立ち尽くして泣いている彼を見ている。
    ただ、それだけの夢だ。俺が何か彼にいってやるわけでもない。延々と、ひたすらに、知らない男子に目の前で泣かれる、夢。

    彼が泣き止んでいるところを、俺は見たことがない。



    「錆兎、そっちだ!」
    仲間の声が響く。朝イチのサッカー場は透明な空気に満ちていて心地がいい。
    ゴールラインぎりぎりからマイナスのクロスが飛んでくる。俺はゴール前で相手をかわしながら跳び、頭に合わせた。額に当たる、確かな手応え。
    キーパーの逆をついたボールが、バサリとゴールネットを揺らす。
    「やったあ!」
    仲間がはしゃぐ声が聞こえた。俺はチームメイトのところに駆け寄り、ハイタッチを交わした。
    「これで逆転だ!」
    ゴールキーパーがガッツポーズをする。そして、キックオフと同時に終了の笛が鳴った。

    俺が所属する少年サッカーチームは、いわゆる地域のクラブチームで、市内でもそこそこ強い。今日は遠征として隣の市に練習試合に来ていた。
    みんなでワイワイとバスに乗って移動するのは楽しい。朝が早いのがタマに傷だけれども。
    セミがジワンジワンと鳴いている。今日も暑くなりそうだった。熱中症対策として、練習試合は午前中に二試合のみで終わることになっている。

    「次のチームは強豪だぞ」
    監督がみんなを集めて言った。オレンジのユニフォームを着た俺たちはうなずく。
    次に試合をするのは、先月、市の大会で優勝したチームだった。
    すごいフォワードがいる、とサッカー少年達の間で話題になっていた。もちろん、俺たちも、どんな奴だと興味津々だ。

    試合開始のアナウンスが流れて、俺たちは挨拶のためにゾロゾロとグラウンドの中央に向かった。向こうからは青いユニフォームを着た選手たちが同じようにゾロゾロと歩いてくる。
    お互いに向かい合わせになり、挨拶をしようとした時、俺は一人の選手の顔に釘付けになった。
    俺の斜め前、誰ともしゃべらずに厳しい顔をしたままグラウンドを睨んでいるその男を、俺は信じられない気持ちで見つめた。

    そこにいたのは、いつも夢に出てくる少年だった。

    さすがに着物ではなくユニフォームだったし、髪も短く切っているし、泣いてもいなかった。むしろ、世界の全ては俺の敵と言わんばかりに、周りを威圧する雰囲気をビンビンにかもしだしている。
    けれども、ピンと跳ねた硬そうな黒髪も、藍がかかった不思議な色の瞳も、すっと通った鼻筋や整った顎のラインも、何もかもが瓜二つと言って過言ではなかった。

    「どうした、錆兎?」思わずぼうっとしてしまった俺を、チームメイトの村田がつついた。
    「あれ…誰だ?」
    俺が見てる方に目を向け、村田はああ、とうなずいた。
    「あれが噂のフォワードだよ。確かトミオカ」
    「トミオカ…」
    「お手並拝見ってかんじだよな」
    「そうか、アイツが…」
    そのとき、トミオカが顔を上げ、真っ直ぐに俺を見た。俺もトミオカを見ていたので、ちょうど目が合った。トミオカの切れ長の目が、一瞬大きく見開かれ、マジマジと俺を見つめ、何度か瞬いた。
    何だ?
    そう思った途端、トミオカはフイと目を逸らした。それからは下を向き、こちらを見ようともしない。
    何なんだろうかと思っているうちに号令がかかり、俺たちは礼をした。

    試合開始のホイッスルが鳴ると同時に、センターサークルでボールを蹴ったトミオカが消えた。いや、正確には消えたのではない。そのまま、ものすごい速さのドリブルで目の前のミッドフィルダーをかわし、一直線にゴールに向かって駆け出したのだった。止めようとしたディフェンダーが次々にトミオカの華麗なドリブルに翻弄され、かわされる。そのままゴール前フリーの状態でトミオカはゴールポストに向かって鋭いシュートを放った。
    間一髪、ゴールキーパーがボールを弾く。弾かれたボールはフィールド外に飛んでいった。
    それらの出来事は、全て開始一分以内に起きた。
    ボールはずっとトミオカの元から離れなかったし、誰も触れていなかった。

    俺たちは度肝を抜かれた。一瞬の出来事の全てはトミオカの暴力だった。サッカーは殺し合いだろ?と言わんばかりの。
    頬を思いっきり引っ叩かれたような気持ちになり、俺たちはたちまち奮起した。

    それからは三人がトミオカのマークについた。
    相手チームはトミオカだけが頭抜けていて、他の選手は俺たちとどっこいどっこいだったので、試合はそこそこ拮抗した。だが、前半終了間際に、マークから抜け出したトミオカに一点を決められた。

    俺はと言えば、トミオカが気になり、よそ見してミスを連発したので、前半終了と同時にベンチに下げられてしまった。まさに不甲斐無しとはこの事だ。
    だがそのおかげで、後半はじっくりトミオカの動きを見ることができた。

    トミオカの武器はスピードだ。早くて正確なドリブルでフィールドを切り裂いていく。視野も広く、的確なパスを出しては味方のチャンスを作り出した。同じフォワードでも、ゴール前で体を張ってゴールを狙うパワーフォワードの俺とは異なり、どちらかというとミッドフィルダー寄りのスピードスター。トップ下であり司令塔。ものすごく汎用性のあるポジションだ。そのあまりにもの上手さに、すぐにでもプロチームからスカウトが来るのではと俺は思った。
    「あいつ、サッカー始めたの一昨年らしいぞ」
    俺があまりにもトミオカばかり見ていたので、見かねたチームメイトが教えてくれた。
    「天才っているんだな」
    ため息をつくチームメイトに、俺はそうだな、と答えた。まったく、サッカーの神様はイケメンがお好きとみえる。

    結局、トミオカにハットトリックを決められ、俺たちのチームは敗北した。
    ただ一人の選手に翻弄されて俺たちは疲れ果てた。

    試合はこれで終了で、あとは昼食を食べて解散という流れになった。仕出しの弁当を受け取り、木陰の芝生に座って、俺たちはギャアギャア話しながら、ガツガツと唐揚げなどを頬張っていた。
    「あれ」チームメイトが指差した先には、トミオカがいた。周りにはチームメイトはおらず、一人きりで静かに弁当を食べている。
    「あいつボッチなのかな」
    たしかに、と周りで声が上がる。彼のチームメイトは、少し離れたところで固まって弁当を食べていた。チームのエースを仲間に入れようという気はないらしい。
    「めっちゃ怒鳴ってたもんな。嫌われてんのかな」
    「確かにあれだけ言われたら心折れるな」
    チームメイトが口々に言っているのは、試合中のトミオカの態度についてだった。本人は正確なパスを出すのだが、受け手が下手だとミスってしまうことがある。そんな時、容赦なくトミオカは叱責を飛ばした。普通はドンマイで済ますところなのになあ、と誰かが言う。
    そんなことを言われているとも知らず、トミオカは黙々と弁当を食べていた。その姿が夢の中で泣いていた彼と重なり、俺は何だか放っておけなくなった。
    弁当を一旦置き、よっと立ち上がった俺をチームメイトは見上げた。
    「ちょっと誘ってみるわ」
    俺がそう言うと、チームメイトはニカッと笑った。
    「また、錆兎のおせっかいが始まった」

    トミオカに近づくと、彼は口をモギュモギュさせながら黙って俺を見上げた。
    「よお、おつかれさん。俺、錆兎。よかったら、あっちで一緒に食べないか?」
    トミオカは俺を見上げたまま、ゴクンと頬張っていた米を飲み込んだ。
    「行かない」
    一言だけそういうと、今度は卵焼きを箸でつまんで口の中に頬張る。
    これはとりつくしまもない、というやつだな。俺は頭を捻った。
    「まあそんな堅いこと言わずにさ。あ、俺たちガリガリ君持ってきてるんだ。一緒に食おうぜ」
    ガリガリ君、の単語に、トミオカの耳がピクリと反応した。これはいける、と俺は確信した。
    「な、行こうぜ」
    そのまま強引にトミオカの腕をつかんで引っ張ると、意外にもトミオカは素直に立ち上がった。
    黙って俺の顔を見る。ほっぺたに大きく、ガリガリ君、と書いてあるように見えた。
    トミオカがガリガリ君好きで助かった、と思いながら俺は彼を連れて仲間のところに戻る。
    俺のおせっかいが成功すると思ってなかったチームメイトたちは、俺がトミオカを連れてきたのを見て、おお、と、どよめいた。
    俺は若干鼻高々になって、チームメイトに彼を紹介した。
    「みんなあ、今日のMVPのトミオカ…名前、何だっけ?」
    首を傾げて聞く俺に、トミオカはボソリと
    「義勇」
    と答えた。
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