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    ねねねのね

    キメツの二次創作小説を書いてます٩( ᐛ )و

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    ねねねのね

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    サッカー少年5話目です。面白いと言っていただいて嬉しいです。手元には8話まであるので毎日夕方に上げますね。おだてられると続き描こうかしらと思うゲンキンな人間です☺️

    夏の日、残像 05 錆兎真夏の日射しがジリジリと俺の背中を灼いていた。灼熱の空気が陽炎となってゆらりと揺れ、景色を歪めた。今日は思ったより暑いね、と誰かが言う。

    同じように、俺の心もジリジリと音を立てて焦げていた。

    コートに立ってボールを追いかけるたびに、居るはずのない影がチラリと俺の視界をかすめる。彼は易々と味方のパスを奪い、足にぴたりと吸い付くようなドリブルで素早く向こう側に駆けていく。
    あんな風に、速く。
    あんな風に、巧く。
    思うたびに、そうは出来ない自分に苛々した。何故あんな風にできない?同い年の、あいつのように。

    「錆兎はトミオカを意識しすぎなんだよ」
    ボールを片付けながら、呆れ顔で村田がそう言った。
    「そうかな」
    「そうだよ。なんか最近、ドリブル突破しようとしてること多いし」
    錆兎とトミオカはタイプが違うんだからさあ、とカラカラと笑いながら、村田はボールをカゴに放り込んだ。
    俺は複雑な気持ちでボールを拾い、同じように放り込む。
    意識していないと言えば嘘になる。この間の練習試合で見た義勇の印象が鮮烈で、あんな風にサッカーができたら、とずっと思っていた。
    義勇は一体どんな練習をして、どんなことを考えて、サッカーをやっているんだろう。
    俺はその秘密が、知りたかった。

    あれから何度か、あの駅には行ってみたけれども、義勇に会うことはなかった。一時間くらい行き交う人を眺めて、諦めて帰ることを繰り返した。
    やっぱり連絡先を聞いておくべきだったな、と思ったけれども、それを言っても後の祭りだ。
    そもそも俺は、トミオカギユウという彼のフルネームと所属チームくらいしか知らない。どこに住んで、家族は何人で、学校はどこで、とか、そんなことは何も分からない。
    もちろん、夢に出てくる彼との関係も謎だ。
    顔と名前が同じだけの、赤の他人かもしれない。
    あれから夢は見ない。義勇にも会っていない。
    なのに俺の頭の中は義勇のことでいっぱいだった。
    たった二回会っただけの男だ。
    頭がおかしいとしか思えない。

    日曜日、俺たちは市営のグラウンドに集合していた。
    市のナントカ杯のリーグ戦に参加するためだった。これは俺が住んでいる市の大会なので、当然義勇が所属するチームは参加しない。
    なんだかつまらないなと頭の片隅でいう声が聞こえたが、俺は無視した。男ならば、目の前の試合に集中するべきだ。
    今日はリーグ二試合、午前に一試合と、午後に一試合だった。午後の分は日差しが強い時間帯を避けるため、少し遅い時間に開始だ。
    午前の試合はなんとか勝ったので、俺たちは上機嫌だった。だが、油断してはいけない。午後に当たるのは、因縁があるチームだった。以前、練習試合で小競り合いを起こして、乱闘騒ぎ寸前までいったことがある。その時のメンバーと、今回も全く同じだった。俺たちは、相手が何か仕掛けてくるのではないかと警戒していた。

    あ、と誰かが声を上げた。
    次の瞬間には、相手の肘が俺の顔面に入っていた。
    コーナーキックからの、ゴール前での競り合い中の出来事だった。俺は仲間が中空に蹴り上げたボールをヘディングするべく、足にバネをためて跳び上がった。それを阻もうと、相手の大柄なディフェンダーも一緒に跳んだ。空中で俺たちは主導権争いをしたが、俺の方が脚力が強く、頭ひとつ抜け出しそうになった。その際に相手は焦って手を振り回した。
    勢い余った肘が俺の顔面にヒット。
    目の前に星が散り、すぐに暗くなった。落下する際になんとか受け身を取ったのは、奇跡としか言いようがない。
    「錆兎!」仲間が呼びかける声が聞こえて、すぐに遠くなった。ああ、チクショウめ。



    ざ、ざ、ざ、と、草をかき分ける音が夜のしじまに響く。
    俺たちは追われていた。追われているとわかったのは、俺を背負っている大人がひどく焦って、時々後ろを振り返っては、後ろに誰もいないことを確認をしてたからだ。
    俺は小さい子供で、口の横に怪我をしていた。さっきからその傷がひどく痛かった。
    「錆兎、もう少し辛抱してくれ」俺を背負った大人が声をかける。
    俺は小さい声で、「わかった、父ちゃん」と答える。
    俺たちが逃げているのはろくに道もない山の中だ。明かりは上空の月明かりだけ。それさえも木々に遮られて、とても暗い。
    背中にちりちりとした気配を感じる。
    何かがくる。夜陰に紛れて、俺たちに手を伸ばそうとしている。
    逃げなければ、逃げなければ、と気持ちは逸るが、足元が悪くなかなか前には進めない。背中ごしに、俺は父ちゃんの鼓動を感じていた。ドクドクと早鐘を打つ。背中は冷や汗でびっしょりと濡れていた。
    あ、と小さな声がした。
    その途端、体勢がぐらりと崩れた。とっさに父ちゃんは体を丸めて、背中にいた俺を胸元に抱き寄せた。その体勢のまま、斜面をゴロゴロと転がり落ちる。バキバキと枝の折れる音。しばらく転がりつづけ、最後に小さく跳ねてようやく止まった。
    「錆兎、大丈夫か」
    身を起こし、抱いていた俺を見下ろし父ちゃんは言った。俺は息を呑んだ。髭面の父ちゃんの顔面は血まみれになっていた。多分転げた時に頭をぶつけたのだ。
    「足をやっちまった」
    父ちゃんは顔をしかめて俺を地面に置いた。恐る恐る見ると、父ちゃんの左足は変な方向を向いている。俺は震えた。
    「お前は一人で逃げろ」父ちゃんは俺の肩を持ち、目を真っ直ぐに見つめてそう言った。俺はブンブンと首を横に振る。そんなのは無理だ、と心底そう思う。
    だって、このまま置いていくと父ちゃんが喰われるじゃないか。
    気配が迫ってくる。斜面の上から、グルルルと獣が唸るような声が聞こえる。
    「錆兎、お前は逃げろ」父ちゃんは繰り返した。「お前はこんなところで死ぬんじゃない」
    俺は必死で首を横に振る。
    「錆兎、言うことを聞いてくれ」
    父ちゃんの声。獣の唸り声。
    来る。鬼が来る。俺たちを喰らうために。
    「錆兎」



    「錆兎」
    目を開けると、心配そうに俺を見つめる義勇の顔があった。俺は一瞬、まぼろしを見ているのかと思い、目をパチパチと瞬かせた。
    「義勇…?」
    義勇はユニフォームではなく私服だった。黒のポロシャツに青いジーンズ。いやそんなことはどうでもいいのか。なぜ彼がここにいるのか、それが謎だった。
    「大丈夫か?顔のほかに痛むところはないか?」
    義勇は心配げに俺の顔を覗き込んだ。幸い、肘は右頬あたりに入ったらしく、アザになっているような鈍い痛みがあったけれど、目も鼻も無事だった。湿布を既に貼ってもらっていて、ひんやりとした感触がある。
    「平気だ…」
    俺は義勇の目を見返した。
    「なんでここに」
    「練習が午前で終わったから、見に来た」
    俺の言葉を遮り、口早に義勇は言った。
    「保健師呼んでくる」
    そう言ってバタバタと出て行き、しばらくして大人を連れて戻ってきた。
    「目が覚めたのね、良かった」
    白衣を着たおばさんが、ホッとした顔で俺を見る。そして手にしたファイルに何か書き込んだ。
    「吐き気はない?」
    そう聞かれたので、ないです、と答えると、ウンウンと頷いてまた何か書き込んだ。
    「軽い脳しんとうだと思うんだけどね、念のため病院に行って検査してもらうから」
    そう言って、申し訳なさそうに俺を見る。
    「実はもう一人怪我人が出ちゃってね、あなたのチームのコーチはその子と病院に行ってるの。あなた親御さんも来てないみたいだし、一人で行けるかしら」
    「俺が一緒に行きます」
    俺が返事をしようとしたところに、義勇が割り込んだ。
    「あら、そういえばあなたは?」
    「こいつの友達です」



    俺が気を失っていたのは短い間だったようで、チームはまだ試合中だった。ワアワアと声援が遠くから聞こえてくる。
    俺は一旦グラウンドに出て監督に事情を説明した後、ロッカーに戻ってユニフォームを着替えた。
    保健師のおばさんはタクシーを手配してくれ、いくつかの書類とお金を俺に渡した。病院にはすでに連絡しているという。その間、義勇は憮然とした顔で俺についてきた。
    なんだか怒っているようだったので、「なんか怒ってるのか?」と聞いたら、頬を膨らませて
    「あのディフェンダー、許せん」と小声で言った。
    「フェアプレーに反する」
    それからひとしきり相手のディフェンダーに対する悪態をついて、不意に俺を見た。
    藍色の瞳に見つめられて、俺は一瞬息が止まる。
    「とりあえず、錆兎が無事で良かった」
    そう言って、義勇はくしゃりと笑う。
    「う…うん、ありがと」
    俺は義勇の顔をまともに見れなくて、思わず目を逸らした。なんだこの展開は。さっきから俺は混乱していた。
    非現実な夢から覚めたら、目の前には義勇。こっちだって充分、非現実的だ。
    「見に来たって、わざわざ?」
    俺はさっきからずっと気になっていたことを聞いてみた。すると、義勇は俺をチラリとみて、口を尖らせた。
    「俺が来るしかないだろう。いつも待ってたのに、錆兎はこないし」
    「え?」
    「お前はいったい、俺に何杯シェイクを飲ませる気なんだ?」
    そこで俺はやっと気がついた。
    義勇はマックで待ってくれていたんだ。だが、俺はいつも改札を見張っていた。どうやら俺たちは行き違っていたらしい。
    待っていた、と本人の口から聞いて、俺は素直に嬉しくなった。
    「そうか、ごめん」
    つい、ヘラヘラと笑ってしまい、義勇に変な顔で見られた。
    「何笑ってんだ?」
    「いや…なんか、行き違いしてたみたいだな…」
    義勇がさらに不審そうな顔をしたところで、タクシーが目の前にやってきた。俺は義勇をタクシーに押し込んで、自分も乗り込んだ。



    病院では、一応頭を打ったので、ということで一通りの検査を受けた。先に怪我をしたチームメイトもこの病院に来ていて、受付の椅子にコーチが座っていたので、簡単に事情を話す。そうすると、一通りの事務手続きを全部やってくれた。
    病院は混んでいて、検査はそこそこ時間がかかった。
    家には電話を入れて、少し遅くなると言っておいた。母親は迎えに来ると言っていたけれど、小さな子供がうちにはいるので、家から出るとなるとなかなか大変だ。俺は大丈夫だからと断った。父親は夜勤でいないことも承知のうえだ。
    全部の検査が終わり、結果を聞いて受付に戻ると、19時を回っていた。
    もうとっくに帰っただろうと思っていたら、義勇は受付の隅の長椅子に寝っ転がって、眠っていた。
    待ち疲れさせてしまったな、と俺は義勇の肩に手をかけた。
    「義勇」
    少しゆすると、義勇はムニャムニャと寝言を呟いた。何を言っているんだろうかと、俺は思わず耳を寄せる。
    「いたい」
    その内容に、俺はどきりとした。
    義勇は、眉根を寄せて「このままでは死ぬ。どうする、どうすれば」と苦しそうに言っている。その様子は明らかに尋常ではない。
    これは良くない夢を見ているのでは、と俺は慌てて義勇を強く揺すった。
    「義勇、起きろ」
    「お前ならどうする、錆兎」
    突然名を呼ばれ、え?と思ったところで、唐突にパチッと義勇が目を開けた。
    そのままゆっくりと起き上がり、寝ぼけまなこで俺を見、「なんで錆兎がいるんだっけ?」と言いたげに首を傾げる。
    「待たせてごめん」
    俺がそう言うと、ああそうか、と目を擦って大きく伸びをした。
    「どうだった?」
    検査のことを言っているのだろうと思い、「問題ないって。念のため二、三日は経過を見ろって言われた」と返すと、それは良かったな、と眠そうな目でフニャリと笑う。
    夢でうなされていたことを言おうかと一瞬迷ったけれど、義勇の様子を見ると、どうもすっとぼけている気がした。どうしようかと考えあぐね、もう一度口を開きかけたところで、ふいに義勇の腹の虫がグゥと鳴った。
    「錆兎、腹減った」
    義勇は一瞬自分のお腹を見、それから俺の顔を見上げ、なんとも無邪気にそう言った。その顔を見ると、俺はなんかもうどうでもいいや、と思ってしまう。
    「出よう。なんか食おう」
    義勇の手を引くと、彼は少し嬉しそうな顔をして立ち上がった。なんだかこの間とえらく態度が違う。あの無表情男はどこに行ったんだ?俺は何か裏があるんじゃないかと、思わず疑ってしまった。

    外に出ると、ムッとした空気が俺たちを包んだ。日は落ちていたけれど、昼間の熱気がそこかしこに残っている。
    まばらに人が行き交う歩道を二人で並んで歩く。駅に向かう途中にマックの看板が見えた途端、義勇はオレの腕を引いた。
    「マック行こう」
    そのままグイグイと俺の腕を引っ張って、そのままマックの自動ドアをくぐろうとする。
    「分かった。分かったから引っ張るな」
    どんだけマック好きなんだよ、と思わなくもなかったが、値段的には妥当なので俺も異論はない。
    マックの混み具合はそこそこ、宵の口だからか、勉強をしている学生が多くいた。
    「錆兎、こっち」
    義勇はさっさと席を取って俺を呼んでいた。近くまで行くと、グイと手を引き俺を強引に座らせる。
    「買ってきてやる。何にする?」
    「いいよ、買いに行くよ」
    「病人は大人しく従え」
    「いや病人じゃないし」
    おれが引き下がらないでいると、義勇はムウと口をへの字に曲げる。
    「人の好意は素直に受けとるもんだ」
    胸の前で腕を組み、大真面目な顔でそう言うものだから、俺は思わず吹いてしまった。
    なんだそれ。とても小学生が言うことに思えない。こいつは意外とおっさんだな、と俺は思った。
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