日の高いうちに始まった誕生日パーティは、いつの間にか夜空に星が瞬くまで続いていた。
はしゃぎ疲れて、うとうとと部屋の隅に身を寄せ合う子どもたちに、アラナが優しく毛布をかけてやる。
古い木の椅子に背を預け、片膝を座面に立てて座っていたアーロンが、口元に運んでいたグラスを静かに置いた。黙って部屋中に視線を巡らせるアーロンに、テーブルの片付けを始めたアラナが答えてやる。
「ルークなら、外に行ったよ。風に当たってくるって」
「何も言ってねえだろ」
「どうだか」
黙ったままの今の視線が、誰より雄弁だったことに弟は気づいていないらしい。楽しそうな様子を隠しもしないアラナを睨みつけ、アーロンは椅子から腰を上げた。
静かな夜だった。半分だけ開けた窓から忍び込む夜風はひんやりとしている。ハスマリーの夜は、昼よりもぐっと気温が下がる。
外に出ると、ひとりでふらふらしている姿はすぐに見つかった。家の前の開けた場所で、アーロンに背を向け、きょろきょろと辺りに視線を巡らせている。
砂塵を含んだ夜風が足元を駆け抜け、コートの裾を靡かせている。どこかふわふわとした足取りは、酔っていると言うには不思議なほどに軽く、舗装が間に合っておらず凸凹のある土の地面を楽しそうに渡っている。
「おい」
呼びかければ、軽やかなステップがふっと止まった。満天の星空の下、振り返る。
「あ。ルークだ」
嬉しそうに言った顔に、アーロンの喉に言葉が詰まる。
ゆったりと話す声が少し舌足らずに聞こえるのは、眠りの淵でゆらゆらと佇んでいるからだ。アーロンはため息をついて、日焼けした髪を掻き上げた。
「……ガキは寝る時間だろうが」
「おれの方が、ルークより年上じゃないか」
『ルーク』が、不服そうに唇を尖らせる。それからすぐに何かに思い当たったように、首を傾げた。
「あ、でも。もしかして、今日で同い年……? どうなんだろ?」
「……詐欺師のヤロウか……? またぞろクソダリィ催眠なんざ仕込みやがって」
「もしかして、あのきれいな男の人の話? その人に、大人のおれが頼んだんだよ」
「クソ犬の方だったか畜生」
「いぬ?」
「聞き返すな。何でもねえ」
不思議そうに尋ねる顔に、アーロンは目の前で鬱陶しそうに手を振る。
「ルークにさ。誕生日おめでとう、ってどうしても言いたくて」
「……聞いてるよ」
「うん。大人のおれもきっと、同じように言ってるよな」
素直に頷く。くるりとアーロンに背を向け、思い切り左腕を空に伸ばした。家の灯火と星の光を受け、小さなネームプレートが夜の闇に微かな光を宿している。
「地面も揺れないし、すごく静かで、星がよく見えて……こんな夜、いつぶりだっけ。これだけ静かなら、きっとみんな、よく眠れる。今日はきっと、いい日だったんだな」
星を受け止めようとするように、指先をいっぱいに開いた手を上げたまま振り返る。少し高い位置にあるアーロンの頭に伸ばされた左手で、腕時計に触れた腕輪が小さく鳴った。
「誕生日おめでとう、ルーク。また言えてよかった」
必要もないのに背伸びをした、覚束ない指先がアーロンのこめかみにかかる髪を撫でる。
命のはじまりの日を祝う、同じ言葉。
記憶を失わずに同じように時を過ごせていたら、きっと同じ顔、同じ声になった。
当たり前だ。同じ人間なのだから。
「……同じ……、か」
呟いてしまったのは、確かめたかったからなのか、それとも。
声にしたことを悔やむように、冷たい夜気に長く吐いた息が震えた。