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    shiiiii587

    頭悪いえろばっか。

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    shiiiii587

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    誰かから見た炭魘♀夫婦。

    ##魘

     太陽の様な父と、月の様な母。
     まるでお伽噺の登場人物みたいな二人だった。そんな二人の間に生を受けた自分はよく「星の子」と呼ばれた。少しむず痒い呼び方だけど、お伽噺みたいな父母の事を考えると違和感はなかった。
     記憶にある父は床に臥せっていた。代々続く神楽を舞う時だけ、軽快に動き回るけど、それ以外は殆ど寝てたと思う。母も、決して丈夫な身体ではなかった。『病気』で陽の光を浴びる事が出来ず、右目も無い。うっかり死角から日陰の外に出てしまい火傷をする事もあった。それでも、父や俺に心配をかけさせまいと怪我も、時には病も隠して働いていた。
     お嬢様育ちだったと言う母は何年経っても生活に慣れていない様子だった。きっと慣れるのに百年は必要だと、子供ながらに思った。
     そうだ。母は、強かった。気品も強かさも母は持っていた。そんな母が弱くなったのは、父が死んでから。毎日泣いていたと思う。父が死んだその時から。父の死を知らせたのは母ではなく、昔からうちに居た喋る鴉。目に涙を溜めながら飛んで行った。先に家に来たのは父の妹の禰豆子叔母さん。俺が赤ちゃんの頃に一緒に暮らしていた善逸叔父さんと結婚して、町に移り住んだ。次に来たのは伊之助親分と親分のお嫁さんのアオイさん。二人と一緒にカナヲお姉さんも来てくれた。
     皆、父の亡骸に縋って泣く母に、悲しい顔をしていた。叔母さんは声を押し殺して泣いて、叔父さんと伊之助親分は拳を握りしめていたと思う。アオイさんも俯いていて、カナヲお姉さんは母に寄り添った。後から聞いた話だけど、カナヲお姉さんも父が好きだった様で。だけど、父と母の仲を一番に応援してくれていたらしい。
     母はその後、意識を失った。
     カナヲお姉さんが母の介抱をしているのを、俺は側でずっと見ていた。
     「民尾、お母さんの手を握ってあげて」
     そう言われて、俺はずっとずっと母の手を握ったんだ。冷たくて、荒れた母の手を。



     父は多くの人に慕われていたのだと実感した。葬儀の喪主は叔母が。母はとても出来る状態ではなかった。だから俺は、ずっと母の側にいた。真っ黒なドレスを着た母の手をぎゅっと。黒いベールで隠された母の顔はやっぱり泣いていた。
     宇髄のおじさんが三人のお嫁さんと来て、「馬鹿野郎」と呟いた。煉獄のおじさんと千寿郎お兄さんが深々と母に挨拶をした。村田のおじさんも後藤のおじさんも、「炭治郎」と呟いて泣いていた。
     産屋敷のお兄さんとお姉さん達が母に頭を下げたのを覚えている。白い髪のお姉さん達と黒い髪のお兄さんが、母に謝っていた。
     「痣の出現は我々のせいです」
     「我々が戦わせたばかりに、彼は」
     「誠に申し訳ございません」
     母は何も言わなかった。父の羽織を握り締めながら泣いていたから。でも、母はわかっていた。父が死んだのは誰のせいでもない。誰かを責めたくて母は泣いているのではない。
     嗚咽混じりに泣く母が俺を抱き締めた。「民尾、民尾」と俺の名前を呼んだ。そんな俺達を更に抱き締めてくれたのは、鱗滝のおじいちゃんだった。いつもの天狗のお面を外して、優しい顔を歪めていた。
     「お前も泣いて良いんだ」
     おじいちゃんに言われて、初めて俺は泣いていない事に気が付いた。でも、泣かなかった。俺が泣いたら母を守れない。父との約束が果たせない。そう言ったらおじいちゃんは「そうか」と言った。
     参列者が父との思い出を語り、父の死を悼んでいる間、母はずっと父の棺のある部屋に座り込んでいた。力強く羽織を握る手は白くなっていたかもしれない。
     俺は台所に走り、叔母に言った。
     「おばさん、母様ね、ずっとごはん食べてないの。父様寝ちゃってからごはん食べてない」
     父は母と俺を抱き締めながら亡くなった。母はそれから食事も睡眠も摂っていなかった記憶がある。だから、叔母にそう言った。叔母はおにぎりを作ってくれた。俺はそれを急いで持って行った。子供の足だから全然早くなかったと思うけど。
     棺のある部屋には母と、何人かの町の人達がいた。小さく背中を丸めた母に皆で何か言っていた。
     「魘夢さん、これからどうするの?貴女みたいな若い人が未亡人だなんて」
     「いくら貴女が美人でも、子供がいたら貰い手はもう無いでしょ?目も不自由で、身体も弱いなんて」
     「お嬢様の貴女が子供一人抱えて炭焼きなんて出来る?」
     母は何も言わなかった。言う気力がないだけ。
     「実はね、民尾君を是非養子にしたいってお家があるの。ある会社の会長さんでね、子供に恵まれなくて…民尾君を跡継ぎにって」
     「貴女もその方が良いんじゃない?民尾君、賢くって有名ですもの」
     「貴女じゃ育てられないでしょ」
     その瞬間、母は今までの弱々しさが嘘みたいに目を吊り上げ、言葉通り鬼の形相で好き勝手言っていた人達を睨んだ。
     そんな母に一瞬たじろぎはするものの、自分達の行為は善意から来るものと信じてやまない人達は、反論する。
     「な、なによ…!貴女の為を思って…」
     「私の為を思うなら今すぐお帰り願います。お前らの様な奴に夫の死に顔を見せたくない。あの子は俺と炭治郎の子だ」
     取り繕う口調ではない。母の本来の男勝りの口調。呆気に取られた人達の横を通って、俺は母の前に立ったんだ。
     「母様をいじめないで」
     俺が言うと、水を打った様に静まり返った。母は俺を抱き締めて、尚も睨む。涙で腫れた片方だけの目で。
     居心地が悪くなった人達はこそこそと帰って行った。だけど、母は俺を離さなかった。俺を、誰かに取られると思ったのかもしれない。
     「母様、ごはん」
     「ごめんね。ごめんね民尾。弱い母様でごめんね」
     母は何で謝っていたのか。それはずっとわからないまま。だって、父が死んだのは母のせいじゃない。だから、俺は母の為のおにぎりが乗った盆を、落とさない様に力強く握った。
     「父様、言ってたよ。母様にはかてなかったって」
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