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    コウヤツ

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    きがくるいもうした

    賢者♀と魔法使い女体化パーティー導入 賢者の意識は朦朧としている!
     癖のある青灰の髪は腰のあたりまで伸びていた。彼女が晶に身を寄せればその豊満な膨らみが晶の腕にふにゃりとあたる。髪も胸もふわふわ。どこもかしこも、この人、ふわふわだ。と痺れるような脳みそを働かせて晶は思う。嫌味のない程度に香るのは香水だろうか。甘すぎないその匂いが逆に晶の胸の中を乱した。
     平静を装うように晶は己に出されたグラスを両手で包み、その口元にグラスの縁を押し当てようとした。しかしその動作はやんわりと止められてしまう。隣から伸びる、細くしなやかな手によって。危うげな魅力を持つ大人の女性、といった風体をしている。であるからその爪にも強めの……例えば彼女の唇に塗ってあるようなルージュベリー色の紅が乗っていそうなものだったが、その指先は特に何が塗られているでもなく桜貝のような色をしていた。
    「ね、こっち向いて、賢者様?」
     心底あざとい。長年油を差し忘れたブリキのおもちゃみたいに晶は首を動かす。とても恵まれた肢体のお姉さん。と、視線が結構な近距離でかち合った。嵐の灰色、実りの榛。瞳孔は普段のものより小さく見えた。体のサイズが変われば、瞳孔のサイズも変わるのかな。現実逃避に思いを馳せる。しかし遠く遠くへ意識をやっても決して逃れられるものではないのだ。
    「……フィ、フィガロ」
    「なぁに?」
     まさに鈴を転がすよう。細部への気合の入りようが尋常ではない。これが北出身魔法使いの本気。
    「せ、せめて、服を着てください!」
     賢者の悲痛な悲鳴に、女の姿のフィガロは耐えきれないと言わんばかりにあはは!と笑い声を弾けさせた。
    「この上なく着てるって!」
     そんなフィガロに、カウンターの隅で事の成り行きを横目で見守っていたファウストが「服じゃなくて布だろう、それは」と頭痛の痛みに耐えるような顔で呟く。面白い展開に水を差すまいと空気に擬態していたシャイロックがグラスを拭きながらくすくすと笑った。

     事の発端はなんてことのない雑談だった。時々男女比に調子が狂うんです。ちょっぴり困ったような呟きは酒精が引き出したものだ。基本的には酒を嗜まない賢者であったが、今日は相当腹にすえかねるものがあったらしい。出かけ先の会合で嫌味、悪口、嫌味、悪口のオンパレード!エチルアルコールは賢者が普段溢さないような愚痴らしきものを喉からぽろぽろと溢れさせた。腹が立ったので脳内の北の魔法使いに窓ガラスを割ってもらったんです。そんな愉快(?)な言葉に双子はキャッキャと笑い、賢者はつまみに出してもらったサービスのナッツを頬に詰めながらえへんと胸を逸らした。
     率先して晶の話を聞いていたのはその場で一二を争うほど口の上手いフィガロだ。医者という職業柄もあってか患者(この場合晶のことである)の悩みを引き出すのが上手かった。
     うんうん、大変だったねえ。え? 俺にも窓ガラス割りに参加してほしい? いやだなぁ、俺は優しい南の魔法使いだからそんな野蛮なことはしないってば。あはは。今日大変だったのは、うん、分かったよ。賢者様も忙しいもんね。こうして悩みっていうか、愚痴をこぼしてもらえて嬉しいよ。信頼されてるみたいでさ。えっ、信頼してる? それって俺だけ? あはは! 分かってる分かってる。俺以外にもここには頼りになる魔法使いがたくさんいるもんね。いつだって頼っていいよ。他に悩みはあったりしないの? この際だから聞いたげる。
     そしてフィガロのカウンセリングにより出てきたのが「時々魔法舎の男女比に調子が狂うんです」という言葉だった。流石に予想外だった。きょとんと目を瞬かせたのはフィガロだけでない。賢者や双子、フィガロのいるソファー席ではなくカウンターで酒を舐めていたオズでさえ口につけたグラスの角度を一定に保ったまま少しの間動かなくなった。
    「「男女比?」」
     双子の、疑問符を乗っけた言葉は綺麗にハモる。ふわふわとした思考回路で晶は双子先生のハモり、昔テレビで見た讃美歌のコーラスみたいだなぁとかなんとか思いながら「男女比です」と首を傾げた。否、首が傾いだ。
    「いえ、前までいたところは男女比が半々くらいで……結構女友達と一緒にいることが多かったので。なんといいますか、ほら、同性同士でいると気が休まることってあるじゃないですか。その、皆さんが悪いとかそういうわけじゃなくて……説明が難しいんですけど、皆さんと一緒にいるときとカナリアさんと一緒にいるときだとなんかこう摂取できる癒しの種類が違う……みたいな……猫も犬も可愛いけど触れ合ったとき得られる幸福感は猫と犬で全く違う、みたいな……あれ、よく分かんないですね」
    「なるほどつまり女の子の友達に会えないっていう寂しさを慰めるために悩殺美女になれば良いんだね?」
     それまで穏やかにうんうんと頷いていたフィガロがそんなことを言い出してバー内にいた二名ほどが眉間に皺を寄せた。一人は微かに、一人は大袈裟なくらいに。そんなわけないだろう、と言わんばかりに。
    「うーん」
     悩むみたいな賢者の唸り声に呪い屋は脳内で「悩むところじゃないだろう」と突っ込みをいれる。口には出さない。巻き込まれるのは御免だったので。はやく否定の言葉を。しかしファウストの思いとは裏腹に晶はゆるりと頬を緩ませ言ったのだ。
    「そうかもしれません!」
     ファウストがネロも晩酌に誘えば良かったと心底思った瞬間だった。この場にいる魔法使いはファウスト含め六人だ。その内双子は悪ノリ派でシャイロックは事の成り行きを面白がる傍観派、そして残ったオズは比較的ファウストと立場が近いがフィガロの口車にオズの寡黙さは相性が悪い。
     性別を変えるだなんてこと、年嵩の魔法使いにとって余興に等しかった。抵抗もなにも無いらしい。躊躇いなく、呪文は軽やかに唱えられた。
    「《ポッシデオ》」
     そうして現れたのが悩殺美女(中身フィガロ)なのであった。
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    DONE
    りんごひとかけぶんの理性 ネロ晶♀ マグカップを両手で包んで晶は息をふうと吹き掛ける。弾みで耳に掛けられた髪が、丁寧に織られたカーテンのように彼女の横顔を覆い隠した。隣で見ていて、あ、とネロは思ったが彼の指先がその髪に触れることはなかった。
     触れたらいけないような。空夜に触れあいを咎める者はいないけれども、そんな意識が働いてネロの指はこれっぽっちも動かなかった。
    「ネロは私のことを子どもみたいに思っているんじゃないかって、たまに感じるんです」
     拗ねたような響きにどう反応するべきかネロの胸に迷いが生じる。全く思っていないと言えばそれは嘘になる。けれど本当に思っていることを伝える気はさらさらなかった。
    「賢者さん」
     正面、シンクの方を向いていた視線が隣のネロに向かう。乾燥させたりんごは、彼女の、引き結ばれた唇のあわいへ寄せられた。りんご一つ隔てれば触れることは容易かった。それは逆を言えば直接触れられないことの証左であったが。ぱちりと目があったかと思えばりんごのスライスはあっという間に半分が齧られる。手ずからりんごを食べる、その姿はどこか小動物めいていた。もっと躊躇ってくれたらやりやすかったんだけど。かといって拒まれたら拒まれたで傷の生まれることは必定だ。難儀なこと。りんごを味わっている間は目が口ほどにものを言った。
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