なんということはない。
いけ好かない調香師から半ば押し付けるように渡された大量のクリームを持て余していて、たまたまそれを必要とする人物が目の前にいる。ただそれだけの事だ。
仰向けに寝かせた墓守の、丸い頭を自分の膝の上に乗せる。不安気に見つめてくる赤い視線には気付かないフリをして、肩の下あたりまで開けられ露わになった白い肌に同じ乳白色を落とした。
自分の腹側から高くて間抜けな声が聞こえてくる。冷たさに身動ぐ細い身体をやんわりと押さえ付けながら塗り拡げれば、仄かに甘い上品な香りがふわりと漂ってきた。
アイリスをベースに調合したクリームは、フレグランスとしても愉しめるように他の素材とも合わせたと彼女が説明していた記憶を思い出す。
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