55 sec❖ ❖ ❖ ❖ ❖
それはランプが灯された間だけに現れる、宵限りの儀式。
小さな枠に映し出されるのは、慎ましやかに吊り下げられたロザリオと控え目に隆起する喉元。
枠の外側から微かに聞こえる鼻唄をBGMに、華奢な両手を擦り合わせる音が混ざり合い、丁寧にクリームが塗り込まれてゆく。
綺麗に切り揃えられ、黒いエナメルを纏った爪先。その左薬指にのみ走る朱い稲妻を、細い指先が愛おしそうに撫でては去って。
暫くの後に、しゅるりと衣擦れの音を携えて、その痕跡は覆われ隠された。
不意に近付く足音。
誰かが、ふ、と息を飲む。
侵入者が視界を奪い、暗転。
触れ合う金属の繊細な音に混ざるのは、
ともすれば聞き逃してしまいそうなリップ音と、
漏れ出る甘い吐息。
やがて、彼方からは徐々に盛り上がりを見せる音が響き出し、足音が急くように遠ざかる。
暗転の後に光を取り戻した小さな枠は、持ち主の物ではない稲妻の走る手の平を映し出し、掠れたような小さな笑い声を残してブラックアウトした。
それは、滞りなく行われる宵限りの儀式。
今夜も非現実的な幕が開く。
starting.
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