最近の御幸はカッコイイ。
高校の頃から元々カッコ良かったが、プロになってからその容貌はさらに洗練され、ますます精悍になっていた。そして若手で実力があってイケメンとくれば、モテない方がおかしい。
おかげで御幸がプロに行ってから、沢村は高校でも大学でも落ち着かない日々を過ごすことが増えた。御幸とバッテリーを組んでいたと調べ、紹介してだのLINEを教えてだの言ってくる女性が増えたからだ。
もっともそんなのどれだけしつこく頼まれようとも、教えるはずがない。だって沢村は、その御幸と高校時代から付き合っているのだから。
付き合ってはいるが、しかし不安はある。どんなに彼に近付きたい女性たちをはねのけたって、沢村の目の届かない場所ではもっと多くの女性たちが御幸に群がっている。それも仕事にかこつけて寄ってくる、モデルやアナウンサーといった美人揃いが。
さすがに彼女たちを排除する力は沢村にはないし、案外御幸だって口では迷惑だと言いつつも、嫌がってないのかもしれない。数か月に1回は出る、交際疑惑のニュースを見るたびそう思う。御幸はそろそろ、沢村と別れたいのかもしれないのではと。
それでそんな記事が出るような隙を作ったり、昔のように貪り合うようなセックスが減ったのかも。以前は所有印とばかりにつけたがったキスマークも、もう当分刻まれていない。
もしかしたら記事はとっくに本当で、ガツガツしなくなったのは欲を分散させてるからなのでは。なんてことまで考えた。
「つまり俺が浮気してるって?」
「う、あ、はい…」
「ふーん」
それきり黙り込んだ御幸の無言が怖い。深刻な雰囲気に沢村は思わずソファーに正座して、小さくはない身体を縮こまらせた。
久々に会った沢村の様子がおかしいのに気付き、悩みがあるなら話せと言ったのは御幸の方だった。相談があるならのるし、聞きたいことがあるなら答えると。
だから素直に話したのに、沈黙されると困ってしまう。しかも何も言わないくせに、御幸の気配がどんどん不穏になっていくのだけは感じる。清潔感のあるホテルの部屋の空気が、妙に重い。
「…沢村も、そろそろ卒業が見えてきた頃だよな」
「へ? うん?」
「スカウトも増えてきただろ」
「そーっすね」
「おまえの将来を決める大事な時期だ。無理させて身体に影響残したくねぇし、ましてキスマークなんか見られたらどう思われるかって心配して、それでこっちは必死にがっつきたいの我慢してるってのに、おまえってやつは…!!」
「ひぇっ」
鍛えているからそれなりに重い身体を軽々と担ぎ上げた御幸に、沢村はベッドに放り投げられた。互いに身体を痛めたらどうすんだという苦情は、口から出る前にぶつかってきた御幸の唇に飲み込まれ、執拗にすり潰されていく。押し返そうとした手を掴まれベッドに縫い付けられる。
「んっ、ちょ、っ…!」
ぢゅるっと舌ごと唾液を吸われながら、ゴリゴリと硬くなりつつある下半身を擦り合わされ息が上がる。僅かに隙間が出来た際にいきなり激しすぎるとぼやけば、おまえが悪いと御幸が口を尖らせた。
「なんで」
「かわいーやきもち妬くから」
「俺は真面目に!」
「あと浮気疑われたのはむかつくから、いい機会だし教え込む」
「えっ、なに御幸先輩、顔こわ、んぶっ」
再度口が塞がれて、そして沢村はその後2度と御幸が浮気しているなんて疑惑を持たないよう、身をもって教え込まれた。