あそこに燃えてるものが見えるかね 目が覚めたときに、真っ先に感じたのは匂いだった。生き物が燃える匂い。それはここら一帯に広がっており、既にマトリフの体に染みついていた。
マトリフはわざと見ないように顔を背ける。何が燃えたのか、まさか忘れたわけではなかった。
それよりも先を進んだ仲間の心配をしなければと、頭を切り替える。殺した好敵手に手向けるものは何もなかった。
「……どうした、マトリフ」
幼子に手を握られて、よほど自分が酷い顔をしているのだと気付く。顔を背けてもその燃えた亡骸が無くなるわけではない。視界の端には黒く燃え残った塊があった。
それはもはやガンガディアではなかった。燃え尽きた亡骸は煙すら上がっていない。その輪郭は崩れ、吹き飛んだ体の破片は灰になっていた。
マトリフは思わずその灰に手を伸ばしていた。だがそれは掴んだ途端に脆く崩れる。柔らかな感触だけを手のひらに残して、風がガンガディアだったものをさらっていった。
「いったい誰が燃えたのかね」
背後から聞こえてきた声にマトリフは返事をしなかった。影もない体がマトリフの横に並ぶ。
「これほど燃えてしまったら、元の形もわからない」
巨軀が身を屈めて燃えかすを眺める。まるで他人事だ。
「……お前だよ」
燃えたのはお前だよガンガディア。オレが燃やしたんだ。その美しい青い体を、全て台無しにした。
ガンガディアは振り返ってマトリフを見る。その口元に笑みが浮かんでいた。
「私を殺して嬉しくないのかね」
ガンガディアの冷たい眼差しが体の奥深くまで突き刺さる。じゃあお前はオレを殺したら喜んでくれたのかよ、とマトリフは小さく呟いた。
「誰と喋っているんだマトリフ」
怯えたように手を握る幼子に、マトリフは小さく頭を振った。死んだばかりだというのにガンガディアはお喋りだった。
「私を殺してどんな気持ちになったのかね大魔道士。教えてくれないか」
最悪だよと胸の内で呟けば、ガンガディアは嬉しそうに瞳を輝かせた。