写真 ガンガディアは時間を確認しようとスマートフォンに触れた。ぱっと明るくなる画面に時刻が表示される。しかしそれよりも目がいったのは、壁紙に設定したマトリフの写真だった。
「……おい」
上司の苦い声にガンガディアはスマートフォンから顔を上げる。見ればハドラーが天敵でも見るような顔でガンガディアのスマートフォンを見ていた。ガンガディアはサッとスマートフォンを隠す。
「見ないでください」
「だったら壁紙なんぞに設定するな」
「せっかく撮らせてくれた写真なんですよ。いつでも見られるようにしたいではないですか」
「……それは隠し撮りではないのか」
ハドラーが苦い顔をしたのはそのせいもあったらしい。マトリフの写真は横から撮ったもので、視線すらこちらに向いていない。少し遠いのも相まって、まるで隠し撮りのように見えなくもない。
「これは……撮りたいとお願いして許可は得て撮ってますよ」
今は忙しいから勝手に撮れ、とマトリフにぞんざいに言われた事を思い出す。あまり邪魔しないように横顔をおさめたのだ。写真のマトリフはラフな部屋着で眼鏡をかけて、面倒臭そうに書類を読んでいる。しかしそこはガンガディアの部屋で、その部屋着だってガンガディアが用意したものだ。二人はお互いの部屋を行き来する関係で、関係は良好だった。
「暫く忙しいらしくて会えないのですよ」
ガンガディアは小さな機械に閉じ込めたマトリフを愛おしそうに眺める。電話でもメッセージでも連絡を取り合うことは可能だが、忙しい時期は連絡してくるなとマトリフから言われている。だからこうして写真で姿を見ることしかできないのだった。
「時間、急ぐのだろう」
ハドラーに言われて当初の目的を思い出す。時間を確認しようと思ったのだ。ガンガディアはもう一度スマートフォンを見る。映し出された時間に、お喋りを楽しんでいる場合ではないとわかる。しかしやはりマトリフの姿に目を奪われてしまう。
ハドラーはスマートフォンから離れなくなったガンガディアを見て深々と溜息をついた。そして自分のスマートフォンを手に取るとある番号に電話をかける。
「おいアバン。老いぼれに代われ……なにぃ、忙しいだと。こっちだって忙しいわ! 老いぼれがガンガディアに構わないせいでこっちの仕事も滞るんだ。老いぼれにガンガディアに連絡しろと伝えろ!」
かくしてガンガディアは久しぶりにマトリフの声を聞くことができた。ガンガディアは真面目に仕事に取り組み、マトリフは暫くのあいだアバンから生暖かい視線を受けることになった。