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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    🐜→🟥ぽいもの。1351年の🟥に会いにいってる幽霊の🐜

    歳上のお姉さん(概念)「それで、本能寺が燃えるわけです」
     瘴奸の言葉に常興は筆を置いて顔を上げた。書き損じてしまった紙を丸めて、瘴奸に向かって投げる。丸めた紙は真っ直ぐに飛んだが、瘴奸をすり抜けて後ろにあった柱に当たった。瘴奸はだらしなく寝転んだまま、転がっていく紙屑へと視線を向ける。
    「何度も言うようですが、私は幽霊なので触れませんし、物を投げても当たりませんよ」
    「わかっておるわ」
     死んだはずの瘴奸が初めて常興の前に姿を現したのはいつだったか。瘴奸が小笠原にいたのはたった二年だが、死んでからも幽霊となって居座っている。
    「そう苛立っては血圧が上がりますよ。塩分を控えて野菜を摂ると良いとか」
     常興は更に苛立って瘴奸を睨んだ。あの世で未来の知識にかぶれた瘴奸は、何かと常興に知識を披露したがる。はっきり言って鬱陶しかった。
    「さっさとあの世に帰れ」
    「そう仰らずに。あまりにテレビを占有するから大殿に怒られたのです」
    「だからといってこっちへ降りてくるな。貴様が度々来て私の邪魔をするから、こうして仕事は捗らぬし、独り言を言っていると勘違いされて、私が耄碌したと裏で囁かれておるのだぞ」
    「幽霊と喋っているのですから、独り言と大して変わらないでしょう」
    「だったら喋りかけるな!織田信長だの明智光秀だの、そのような未来のことなど私が知ってどうなる!」
    「いえ、単に面白いので常興殿にも聞いて頂きたくて」
    「私が知って未来が変わってしまうかもしれないとか考えないのか!?」
    「バックトゥーザフューチャーですね。私的にはマルチバースのほうが好みですが」
     常興は頬を引き攣らせて深く息をついた。新しい兵站基地の図案は一向に進まない。小笠原の兵站基地は先日の奇襲でその殆どが燃えてしまった。敵に知られたからには場所も移したほうがよかろうと、幾つかの候補地が上がっていた。
    「その場所がよろしいのでは。輸送と防衛の両方に優れてますゆえ」
     いつの間にか瘴奸は常興のすぐ背後にいた。音もなく移動するので心臓に悪い。しかも幽霊の性質なのか、側に寄るだけでひやりとしたものを感じる。常興は思わず身震いした。
    「……これは失礼」
     瘴奸は常興から身を離す。その表情に僅かに寂しさが見えたような気がして、常興は地図を指し示した。
    「構わん。ついでに砦の構えについて、考えがあれば聞かせろ」
     瘴奸は常興の向かいに移動すると、幾つかの考えを話し始めた。常興はそれらを書きとめる。気遣われるくらいなら、太々しく振る舞われるほうが気が楽だった。
    「……ではこれで建造を進める」
     常興は図面をまとめた。すると瘴奸が何かに気付いたようにじっとこちらを見ていることに気づく。
    「まだ何かあるのか」
    「いえ、常興殿もお年を召されたなと思いまして」
    「それなら以前も聞いたわ。髪が白くなるくらいなんだ」
    「私より若かった常興殿がお年を召しておられるのが、なんとも不思議な気分でして」
     常興は瘴奸を見る。その姿は死んだ頃のままだ。死んだ者は生前のどの頃の姿にでもなれるのだというが、迎えなかった未来の姿にはなれないという。若くして死んだのであれば、老人の姿にはなれないそうだ。
    「貴様がさっさとくたばったせいだ。そのうちに新三郎より歳若くなるぞ」
    「ふふ、新三郎殿の得意げな顔が想像できますよ」
     瘴奸は控えめに笑ってから、机に肘をついて常興を見つめた。
    「まだ何かあるのか」
    「いえ、別に」
     瘴奸は嘘くさい笑みを浮かべたかと思ったら、少し斜に構えると婀娜っぽい流し目を常興に向けた。
    「常興殿がそのように美しくお年を召されるのであれば、長生きすればよかったなと思っただけですよ」
    「は?」
    「こんなことなら、生きている間に触れておけばよかった」
     瘴奸の手が常興の手に触れようとしてすり抜ける。ひやりとしたその手に、常興はわけがわからず眉根を寄せた。
    「それはどういう……」
     すると、突然に貞宗が現れた。貞宗は瘴奸の襟首をむんずと掴み、瘴奸は慌てたように貞宗を見上げた。
    「何をしておるか、瘴奸」
    「大殿、これは違くて」
    「ええい。言い訳するでない!」
    「あ……え、さ、貞宗様」
     常興は突然現れた貞宗に動揺した。たとえ幽霊でもずっと会いたいと思っていた人が目の前にいる。それだけで常興の目頭は熱くなった。
    「常興、息災か。こやつが邪魔をしたな。連れて帰る」
    「私も、私も一緒にお連れください!」
     常興は貞宗に縋ろうとするが、貞宗も幽霊であるから触れられず、常興の体は板敷へと倒れた。
     すると貞宗は倒れた常興の手に手を重ねた。触れられぬその手が、常興には温かく思えた。
    「すまんな常興。連れてはゆけぬが、いつもそちを上で見守っておるからな」
     そう言うと貞宗は瘴奸を引き摺って去ってしまった。瘴奸が恨めしそうに常興を見ている。なんなんだあいつは。
     瘴奸の歳上好きな趣味などまるで知らない常興は、幽霊でも耄碌するのだろうかと首を捻っていた。



     
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