ウチの子常春の世。そこでは命を終えた者たちが思い思いに過ごしている。どこからか未来の田楽が流れ、それに合わせて踊る者達もいた。
和田米丸。巨漢でありながら、その動きは音楽と調和している。そしてその米丸と共に踊っているのが征蟻党幹部である死蝋、白骨、腐乱であった。彼らは米丸とは生前での関わりはなかったが、こちらに来てから親しくなっていた。
流れ続ける田楽に、彼らは飽きることなく踊り続ける。新しい振り付けを考えたり、ぴったりと動きを合わせる練習をしたりと、充実した時間を送っていた。
そこへやって来る者がいた。瘴奸である。瘴奸は踊っている彼らを遠目に見ていたが、何か不満そうな顔をしながらやって来た。
「あ、頭だ」
気付いた死蝋が踊るのを止めると、他の者も動きを止めた。
瘴奸は米丸の前まで来ると、居丈高に言い放った。
「そいつらは俺のだ。返してもらおうか」
瘴奸は死蝋達を指差していた。米丸は鬱陶しそうに瘴奸を見下ろす。
「なんだてめえ、オラァ」
「そいつらは俺の郎党だ。寄越せ」
米丸と瘴奸は火花を散らすように睨み合った。死蝋は今にも瘴奸に飛びつきそうになっているが、白骨と腐乱が「ステイッステイッ」「まだだ、まだだ」と宥めている。
すると突然、米丸の張り手が瘴奸を襲った。派手な音が響き、瘴奸はそのまま地面に倒れ伏すと、動かなくなってしまった。
「え、やば」
「骨折れる音しなかった?」
「か、頭〜!!」
腐乱、白骨、死蝋は慌てて瘴奸に駆け寄った。しかし瘴奸の首はあらぬ方向へと曲がっている。
「首の骨折れてるって」
「お頭〜死ぬな」
「いや、もう死んでるんだって」
だってここあの世だし、と腐乱がゲラゲラと笑う。
すると、瘴奸の体が動いた。瘴奸は呻きながら身を起こすと、捻じ曲がっていた首を力ずくで直した。おぉ、と三人が感嘆の声をあげる。
「頭ぁ、生きててよかった」
「だから死んでるんだって」
「これ以上死ねないもんな」
「ここがあの世でよかった〜」
言いたいことを口々に言って騒ぐ征蟻党であったが、瘴奸はふらりと立ち上がると、人でも殺しそうな気迫で再び米丸に向き直った。
「こいつらを返せ」
すると米丸はじっと瘴奸を見てから、つまらなさそうに鼻で息を吐いた。
「返すも返さねえもないだろ。楽しく遊んでただけだ」
米丸は体を揺すりながら背を向ける。すると瘴奸はついでとばかりに米丸に言った。
「それとあの公家をどうにかしろ」
瘴奸が指差す先に清原国司がいた。清原は貞宗の顎を掴むと、眉を描き入れている。その横には顔中を落書きされた市河がいた。
米丸はその様子を見て首を横に振った。
「遠慮する」
「するな。引き取れ。大殿が困っている。というかさっきなぜ殴った」
「なんとなく」
「なんとなくで人の首を折るのか」
すると米丸は腐乱を捕まえると小脇に抱えた。
「やっぱり俺がコイツら引き取るから、お前らで国司を世話しろ」
「おい、やめろ」
「お前らだってさっき楽しそうに踊ってただろ」
それから米丸と瘴奸は揉めに揉めたが、結局は瘴奸が征蟻党を連れていき、米丸は清原を迎えに行くこととなった。
常春の世、鎌倉流儀。狂乱の宴か永遠の安穏か。田楽は鳴り止まない。