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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    ガンマト。両片思いのままの二人。凍れる時の秘法の頃、ガンガディアはある呪文を使う。作業用BGM「ピノ」

    #ガンマト
    cyprinid

    君を残す呪文 それに気づいた時には、呪文は煙のように消えかけていた。
    「なんの呪文だそれ?」
     ガンガディアの手はマトリフに向けられ、指が輪のように形作られていた。そこには間違いなく呪文の形跡があり、しかもマトリフの知らないものだった。だが攻撃呪文ではなさそうで、その証拠にマトリフの周りに咲いた花は風に揺れるだけでなんの害も受けていなかった。
    「……秘密だ」
     ガンガディアは珍しく言い淀みながらぽつりと口にした。真面目な気質の彼はその事に不誠実さでも感じたのか、恥じるように目線を外らせてしまった。
     マトリフは何か言い返そうとした口を閉じる。揶揄うにはよいネタだと思ったのだが、何故だが気分が乗らなかった。あまりにも平和すぎる時間の流れに感化されたのかもしれない。マトリフは咲き乱れる花に目をやる。そうすると自然とそこに立ち尽くす二人にも目がいった。
     魔王と勇者は向かい合ったまま時を止めている。表情さえ凍りついたまま、もう半年になるだろうか。
     マトリフとガンガディアはお互いに救うべき相手のためにここにいた。だがあらゆる手を尽くしても、それは叶わなかった。人々は平和を謳歌している。先日、レイラが無事に子を産んだらしい。マトリフはまだ会いに行けていなかった。
    「君たち人間にとっては、この呪文は解けないほうが良いのだろう」
     ガンガディアがまた覇気のない声で言う。その気になればガンガディア一人でも今の平和を台無しにする事も出来ただろう。しかし彼はあくまでもハドラーを救うことに全力を向けていた。ただその気持ちを砕くほどに、多くの手を尽くし終えていた。
    「知るかよ、そんなこと」
     アバン一人の犠牲と引き換えに、ハドラーを封じておけるなら人間はこの平和の継続を願うだろう。しかしマトリフはそんな事を許せないのだ。だからこの秘法を解いて、ハドラーを倒すつもりだった。
    「まったく……いつまで凍ってるんだ」
     秘法を解くという点において、マトリフとガンガディアの目的は一致していた。最初の頃こそ牽制しあっていたが、そんなことさえ馬鹿らしくなって、今ではお互いに秘法の解き方を話し合うほどになっていた。そこから生まれた情には見ないふりをする。
     ハドラーとアバンの周りには花が咲いていた。新緑の季節である。ガンガディアは何か大切な物でも見るように手のひらを見ていた。花でも摘んだのかとマトリフは思う。その表情があまりにも穏やかで、こんな時間が続けばいいと思う自分が許せなかった。
     
     ***

    「久しぶり! 元気にしてたか」
     賑やかな声にガンガディアは顔を上げた。蝋燭は短くなっていたが、洞窟の入り口からは朝陽が差し込んでおり、いつの間にか明るくなっていた。
    「二代目大魔道士」
     緑の服に身を包んだポップを見てガンガディアは本を閉じる。もっとも、開いたまま読んでいなかった。
    「久しいな。見るたびに成長していく」
    「もう成長じゃなくって老化だよ」
     そう言うポップの表情は昔と変わらず剽軽で明るいが、見ればその皮膚には皺が刻まれていた。流れる時間が同じであるはずなのに、人間はどうも変化が早い。まだ少年だと思っていた彼も、もう老齢らしい。
    「師匠の本を借りにきたんだよ」
    「借りるもなにも、君に託された本だ。私は管理を任されただけ。好きに持っていくといい」
     ガンガディアは本棚を振り返る。そこにはマトリフの残した本がぎっしりと詰められていた。マトリフが生きていた頃は未整理だったが、ガンガディアが管理してからは整頓されて本棚に収まっていた。
    「ん? なんだそれ」
     ポップがガンガディアが座っていた辺りを指差す。そこにはガンガディアが呪文によって映し出した映像があった。
    「これ……若い頃の師匠かい?」
     ポップが映像をまじまじと覗き込む。それは花畑に座っているマトリフの姿だった。どこを見ているのか視線は遠くに投げられている。ちょうど風が吹いていたのか銀髪が揺れていた。まるでその瞬間を切り取ったような映像が映し出されている。
    「姿を残す呪文だ。どうしても彼を残しておきたくて」
     それはガンガディアが魔導図書館で見つけた呪文だった。まるで絵に描き残すように映像を残しておける。ガンガディアは一晩中眺めていたそれを見て目を細める。そして口元に笑みを浮かべながらポップを見た。
    「これは君の先生とハドラー様が凍っていた頃のだ」
    「へえ……この頃から師匠と?」
    「少なくとも私は想いを抱いていた」
     あの凍りついた時間の中で、ガンガディアは動かない魔王と勇者のようにマトリフを残しておけないかと考えていた。そんな事をマトリフ本人に伝えなかったし、呪文でその姿を残したことも、ついぞ彼には言わなかった。ただ彼がいなくなってから、その姿を眺めて過ごしている。そうして夜を過ごしていると、気がつけば朝になっているのだ。
    「愛していたよ……彼を。心から」
     お互いに口にしなかった言葉も今なら言えた。これほど単純で簡単なのに、どうしてか直線伝えることは出来なかった。
     ガンガディアは映像に手を伸ばす。触れようとしても指は映像をすり抜けた。呪文は揺らいで消えてしまう。こんな呪文がなくても、彼のふとした仕草さえ簡単に思い出せる。その愛おしさを伴って。
    「思い出話なら付き合うぜ」
     ポップがどこからか酒瓶を持ってきた。それはマトリフが好んで飲んでいたものだ。どうやらこの洞窟にはガンガディアが知らない隠し戸でもあって、そこへ酒も隠してあるのだろう。悪事ばかりガンガディアに隠す師弟だった。
    「まだ朝だというのに」
     ガンガディアは小さなグラスを手に取る。酒の助けを借りながら思い出を語る。そこに確かにあった思いと一緒に。
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