幸せに名前なんてなかったから3「断ってよかったのか?」
新三郎の言葉に、瘴奸は一度目を伏せてから、ゆっくりと頷いた。
死蝋は連絡先を教えろと言ってきたが、瘴奸ははっきりと断った。そのまま家の中へ逃げ込んだから、その後のことはわからない。貞宗が追い返したと言っていたから、諦めて帰ったのだろう。
「ほれ、アイスを食べるぞ」
貞宗が冷凍庫から出したアイスを持ってきた。差し出されたアイスを受け取ろうとすると、貞宗はそのアイスを瘴奸の頬に当てた。冷たさに思わず声が出る。貞宗はその反応に笑うと、すまんすまんと言いながら瘴奸の頬に手を当てた。ついた水滴を拭うように動く手に、瘴奸は頬を擦り寄せる。誰かの視線が背中を撫でたような気がして振り返ると、常興と目が合った。常興は小さくため息をついて背を向ける。今回は見逃してくれるらしい。
1856