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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    ガンマト。と巻き込まれポップ

    #ガンマト
    cyprinid

    トラップブック ポップは不貞腐れていた。己の行動が招いた結果であるのは間違いないが、どこか納得できない気持ちだった。
     ポップは本になっていた。比喩でも冗談でもなく、本になっていた。表紙はポップの顔になっており、律儀にバンダナが背表紙に付いていた。
     それもこれも、ポップがマトリフの洞窟で開いた本のせいだった。ポップはパプニカで宮仕えをしているが、時々マトリフの知恵を借りに洞窟へと赴いていた。
     しかし今日はマトリフは留守だった。ポップは実家に帰ってきたような感覚で洞窟で寛ぎながらマトリフを待っていたのだが、そのときふと本棚のある本に目が留まった。
     タイトルが古語であるが、どうもいかがわしいタイトルに読めてしまう。現代語に訳すなら「魔界のエッチ盛り合わせ」とでもなるのだろうか。古代の人もすけべだったんだなあとポップは思いながら、つい手が伸びてしまった。マトリフがいない間にこっそり、最初の一頁だけでも読んでみたかったのだ。
     好奇心は猫をも殺す。すけべ心は大魔道士を本に変えてしまう。開いた本は最初の一頁すらポップに読ませず、その身体を本へと閉じ込めてしまった。
     ポップは我が身に何が起こったのか理解できないままに、洞窟の天井を見上げていた。するとそこへようやくマトリフが帰ってきた。マトリフは本になったポップを見ると、腹を抱えて笑った。
     そしてポップはいま、マトリフに抱えられてとある洞窟へと来ていた。そこは地底魔城にほど近い森の中にあり、薄暗くて不気味だった。マトリフはその洞窟の中に封印を解除するための本があると言った。ポップが開いてしまったのはトラップブックで、そこから抜け出すには封印書の破棄法が書かれた魔導書が必要なのだという。
    「なんでぇ、まだ拗ねてんのかよ」
     マトリフが言う。ポップはマトリフに散々に笑われてへそを曲げていた。しかし自分のすけべ心が招いた結果であることもわかっている。だが、そもそもマトリフがあんな本を持っていた事にも一因があるのではないか。
     それなのにマトリフは鷹揚に構えている。可愛い弟子が本にされたというのに慌てる素振りもなく、何も考えていないような呑気さである。
    「どうせオレはすけべな馬鹿だよ」
     自嘲気味に呟けば、マトリフは気まずそうに苦笑した。
    「そりゃ耳が痛いな」
    「どういう意味だよ」
    「お、見えてきたぞ」
     洞窟内の広い通路を抜けると、書架が壁一面に並んだ部屋に出た。
    「なんだよ、ここは洞窟内の図書館か?」
     ポップは高い天井を見上げる。びっしりと並んだ本は荘厳な圧迫感を与えてきた。その書架の間から、大きな影が姿を見せる。
    「私に何か用かな、大魔道士」
     ポップはその姿を見てあんぐりと口を開けた。それは見たこともないトロルだった。鍛え上げられた肉体と、高い魔法力に只者ではないとわかる。どうやらこのトロルはこの図書館に住み着いた魔物なのだろう。ポップは警戒しようとしたが、本になっていて文字通り手も足も出なかった。
    「し、師匠」
     ポップはマトリフを見上げる。マトリフの強さは信頼しているが、体が悪いマトリフを戦わせるわけにはいかない。ポップは決意してトロルを睨みつけた。
    「それは誰だね」
     トロルがポップに視線をやりながら言った。そのトロルは体の大きさのせいもあって身が竦む厳しさがある。
    「オレの弟子だよ。お前なあ、オレの洞窟に勝手にトラップブックを持ち込むんじゃねえよ。これの封印の解除本だってお前が持ってんだろ。早く出せ」
     その言葉にポップは目を見開く。どうやらマトリフとこのトロルは知り合いらしい。そしてトラップブックをあの本棚に入れたのはこのトロルだという。マトリフに恨みでも持つ魔物なのだろうか。トロルは顔の小さな丸眼鏡を押し上げて笑みを浮かべた。決して愉快な笑みではなく、交戦的なものだった。ポップは戦うつもりで魔法力を高めていく。
     そのとき、ポップの頭の中に突然に声が響いた。
    『大魔道士、すぅぅうううううううきぃいいいいいいいい!』
     そのあまりの音量と内容にポップは驚いてあたりを見渡した。しかしこの洞窟にはポップとマトリフとトロルしかいない。マトリフとトロルは何やら話し込んでいる。しかしポップの頭には大音量の「大魔道士♡大好き♡」という声がなだれ込んでくる。その声がどうもトロルの声に聞こえてならなかった。
     ポップが目を白黒させていると、マトリフがポップを見た。すると今度は別の声がポップの頭に響く。
    『トラップブックに閉じ込められると、相手の心の声が聞こえるんだよ』
     マトリフがニヤリと笑う。ということは、今のはマトリフの心の声なのだろう。しかしさっきまでマトリフの心の声なんて聞こえていなかった。
     そこでポップは思い至る。マトリフはトラップブックに閉じ込められると心を読まれることを知っており、意図的に何も考えていなかったのだろう。呑気に構えているように見えたのはそのせいなのではないか。
     そこでポップはそろりとトロルを見た。さっきからずっと『大魔道士すきすきだいすき』と心で考えているトロルを。
     ふう、とポップは溜息をつくと、遠い目をしてマトリフとトロルを見た。
    「解除本をなる早で頼むわ」

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