うちの大魔道士が世話になったようだな「ふざけんなこの野郎! 騙しやがったな」
チンピラは罵声を浴びせながらマトリフの襟首を掴んだ。偽造された証文をマトリフが燃やしてしまったからだ。いくら大魔道士とはいえ小柄な老人であるマトリフは、男に胸元を掴まれて体が傾く。しかしマトリフは危機感などまるでなく、涼しい顔をしていた。そのことにマトリフを掴んでいる男が苛立ちを覚えた。
「このジジイ」
しかし次の瞬間、チンピラは吹き飛んでいた。文字通り、体が弾け飛んで地面に転がっていた。
「大魔道士に気安く触るな」
チンピラを突き飛ばしたのは巨大な青いトロルだった。突然に現れたそのトロルに周りにいた者たちが驚く。トロルはマトリフに向き直ると、掴まれたせいで乱れた法衣を大きな指で器用に直した。
「おーい、大丈夫か?」
マトリフはチンピラに向かって言う。
「指で弾いただけだ。脆弱な人間相手に本気になるわけがない」
「おめえの力加減なんてあてになるかよ」
チンピラはすっかり伸びてしまっているが、大きな怪我はなさそうである。
「なんだよ師匠、ボディーガード連れてきたのかよ」
「腕力で解決なんてオレ向きじゃねえのさ。得意な分野の奴に任せるのが得策だろ」
「大魔道士、私の得意分野は呪文だ」
「わかってるよ」
じゃあオレたちは帰るわ、とマトリフはポップたちに背を向けて手を振る。青いトロルのガンガディアはマトリフを抱え上げるとルーラを唱えた。