ガンマトアドベントカレンダー3.521素晴らしい人々
「ガンガディアのおっさんが師匠の百歳の誕生日をサプライズで祝いたいんだとよ」
「お前サプライズの意味わかってんのか?」
秘密であろう内容をさらりと言ってしまったポップにマトリフは呆れた。だがポップは調子良く笑いながら肘でマトリフをつつく。
「師匠はとっくに気付いてたろ〜?」
「まあな」
ここ数日ガンガディアは挙動不審だった。それがマトリフの百歳を祝うための準備をしているためだとマトリフは気付いていた。
「当日に師匠を連れ出す役目をガンガディアのおっさんに頼まれたんだよ。理由は何でもいいから適当に出かける用事に誘えってさ。師匠どこか行きたいとこあるか?」
「ねえよ」
「パプニカで最近流行ってるデザートでも食いに行く? あ、でもアバン先生のケーキがあるから甘いものは被るなあ」
うーんと考え込むポップを、マトリフは片肘をつきながら見やる。
「アバンも一枚噛んでやがるのか」
「先生だけじゃないぜ。だいたいみんな集まる予定だけど」
それを聞いてマトリフは眉間に皺を寄せた。嫌ではないが面倒臭い。行きたくないわけではないが億劫だ。人間嫌いで人里離れた洞窟に隠居していたマトリフにしてみれば、大勢に囲まれて祝われるなんて願い下げだった。そんなマトリフを見越してガンガディアは誕生祝いを隠していたのだろう。
「会場はカール城なんだって。先生が料理を作るからそのほうが都合がいいんだと」
「それで時間になったらお前がカールまでルーラで連れて行くってわけか」
「そういうこと」
だから適当に行きたいところを考えといてくれよとポップは言う。しかしマトリフは顔を顰めた。
「やっぱ面倒臭ぇな」
「そう言うなよ。ガンガディアのおっさんは張り切ってるんだぜ」
「知ってる」
マトリフはコソコソと何かしているガンガディアの後をつけて誕生会を計画していると知った。そのときは気が抜けたが、何やら嬉しそうに準備をしているガンガディアを見て、止める気にはならなかったのだ。別に祝われるのは構わない。ガンガディアとポップと、あとはアバンくらいが一言おめでとうと言ってくれるくらいでいい。それなのに大勢で盛大に祝う必要なんてあるのか。
「大勢のが賑やかでいいじゃん」
マトリフの思考を読んだかのようにポップが言う。
「師匠のこと祝いたいって奴がいっぱいいるってことだろ」
笑うポップとは反対に、やはりマトリフは苦い顔をした。せめてサプライズはやめてほしい。知らぬふりを通すのが思いのほか大変なのだ。
すると洞窟の外からルーラの着地音がした。それはガンガディアのものだ。
「おや、来ていたのかねポップくん」
「お邪魔してまーす」
もちろんガンガディアはポップがここにいることを知っていたのだろうが小芝居をする。それにポップも合わせていた。
「今度師匠と一緒にパプニカに行こうって話してたんだ」
ポップはガンガディアにわかりやすい目配せをしながら言う。マトリフはそれを視界の端におさめながら見ないふりをした。
「そうかね。楽しんでくるといい」
ガンガディアはほっとした顔をしている。計画が順調に進んで安心したのだろう。これで何も気付くなというほうが無茶である。しかしガンガディアの計画を成功させるためには、マトリフは知らぬふりを通さねばならなかった。マトリフは緩みそうになった顔を引き締める。
「茶でも飲むか」
その場から離れるためにマトリフは安楽椅子から立ち上がる。するとポップも立ち上がった。
「あ、おれはもう行かなきゃ」
じゃあな、と言いながらポップは手を上げる。そしてガンガディアには見えないようにマトリフに向かってウインクしてみせた。
「茶なら私が淹れよう」
「……おう」
マトリフは安楽椅子へと腰を下ろした。そしてガンガディアを見る。どことなく心が弾んでいる様子のガンガディアに、マトリフだって悪い気はしない。恋人が自分の誕生日を嬉しそうに準備しているのだ。だが、それがバレバレのサプライズなのがいただけない。
「楽しみだろう」
「あ?」
「ポップくんと出かけるのが」
「お、おう……」
マトリフは淹れられた茶をずずっと啜る。誕生日までの数日をなんとかクールに過ごさねばならなかった。