酒が飲みたい夜 籠城するときに欠かせないのは食料、飲水の確保である。限られた物資しかない中で、兵を食わせて士気を保つ。そのために酒も多少は備蓄してあるが、真っ先に尽きていた。
赤坂城に籠ってどれほど経つか。戦況はこちら側に有利でないことを、楠木正成は十分に承知していた。様々な奇策で切り抜けてきたものの、ここが限界かもしれないと、撤退を考えていた。
「将監殿はおられるか?」
此度の戦に誘った悪党に、平野将監という男がいた。それなりの数の郎党を率いており、兵法にも通じている。城から逃げ出す算段を話し合おうと楠木は考えていた。
「あぁ、いるにはいるんすけど」
いつも将監の側にいる若い郎党が言った。その歯切れが悪い言い方に、何か事情でもあるのかと楠木は尋ねる。すると郎党は頭を掻きながら、後方を振り返った。その奥は仕切りがされて、寝床になっている。将監と誰かが喋る声が聞こえていた。
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