夏至の夜 マトリフは昼が一番長い日の夜を待っていた。海に沈む夕陽は美しいが、マトリフからすれば今日ばかりは早く沈んでくれと祈る気持ちだった。
やがて複雑な色を残して太陽が沈む。反対側からは夜が始まっていた。
マトリフは月を見上げる。低い位置にいる月は寂しげに光を放っていた。
「ガンガディア」
マトリフの声に応えるように風が吹く。マトリフはその風に託すように瓶の中の灰を手に取った。それは火竜の炎に焼かれて燃え尽きたガンガディアの灰だ。戦いの後でマトリフが掻き集めたものだ。
灰は風に舞い、月光を受けて姿を変える。淡く光ったかと思うと、虚像を作り上げた。それはデストロールの姿だった。
「よお、久しぶり」
マトリフの言葉にガンガディアは無言で頷く。灰からガンガディアを甦らせることが出来るのは夏至の夜だけだった。朝になればガンガディアは消えて、元の灰に戻る。
マトリフはこの年に一度の、そして最も短い夜の時間だけを惜しんで生きていた。
「来いよ」
マトリフは腕を広げる。ガンガディアはぎこちない動きでマトリフを抱き上げた。戦っていた時は傷つけるために振るった腕は、今は愛おしそうにマトリフを抱きしめている。
「あなたに会いたかった」
「オレもだ」
言うなりマトリフはガンガディアの顔に手を触れて唇を重ねた。マトリフが舌を差し入れれば、ガンガディアもそれに応える。二人はお互いの存在を確かめ合うように口づけを交わした。二人が一緒にいられる時間は限られている。
ガンガディアは口づけを繰り返しながらゆっくりと地面にマトリフの身体を横たえた。そして逃がさないように小さな身体に覆い被さる。マトリフは逃げるどころか自分でマントを脱ぎ捨てた。その性急さにガンガディアは思わずマトリフの手を止める。
「マトリフ……」
「今さら抱けねえなんて言うなよ。次にお前に会うまでの寂しさを忘れさせてくれ」
ガンガディアは掴んだマトリフの手に口付けた。そのまま指先を口に含む。舌先で舐められるとぞくりと背筋が震えた。ガンガディアはマトリフの服を剥ぎ取ると、露わになった首筋に吸い付く。マトリフは身体の奥まで痺れるような快感を覚えた。
「……ッ、ガン……ガ、ディア……」
「あなたとずっと一緒にいたい」
マトリフは横目で瓶に残った灰を見る。その量は残りわずかだった。あと数回で灰は無くなってしまう。
だが、灰が無くなるのと、マトリフの命が終わるのとどちらが早いだろうか。遅かれ早かれ、終わりの時はやってくる。
だからせめてその瞬間まで、マトリフはガンガディアと一緒にいたかった。