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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    #ガンマト
    cyprinid

    黒マト&ガンガvsロカ マトリフは闘技場の上空に浮かんでいた。身に纏った黒衣が風に揺れている。隣に同じように浮かぶガンガディアは監視するようにマトリフを横目で見た。
     闘技場には魔物たちに追い立てられてきた勇者たちがいた。アバン、レイラ、そしてロカ。彼らはまだ戸惑いを残した表情でマトリフを見上げている。もっと怒ってもいいだろうとマトリフは思った。こっちは魔王軍に寝返った裏切り者なのだから。
    「アバン、先に行け」
     ロカの言葉にアバンは小さく頷く。ここに来るまでに取り決めでもしたのか、アバンとレイラは揃って走り出した。こちらとしてもアバンまで足止めするつもりはない。
    「大魔道士」
     ガンガディアの声は釘を刺すようだった。それを煩く思いながらマトリフは手に魔法力を高める。
    「わかっている。今さらあいつらの所になんて戻れねえ」
     剣を抜いて構えているロカをマトリフは見下ろした。突然に裏切ったマトリフを、ロカは許してはくれないだろう。魔王を倒すまでは付き合ってやると約束したが、反故にしてしまった。
     マトリフが纏う黒衣の下には、呪文によって刻まれた呪縛がある。それがある限りマトリフはガンガディアの眷属だった。背くことはできない。
    「悪いな」
     マトリフは呪文をロカに向かって撃つ。それが戦闘開始の合図となった。

     ***

     啜り泣く声が地底魔城の冷たい廊下に響いている。ガンガディアはその声がマトリフに与えた部屋から聞こえてくることも、泣き声がマトリフのものではないことも知っていた。
     ガンガディアは重い溜息をつく。先ほど魔王から受けた叱責を思い出したからだ。だがその叱責はガンガディアの地位が揺らぐほどのものではない。
     ガンガディアはマトリフの部屋へと入る。そこは薄暗く、入り口からも見える位置に檻があった。先ほどの泣き声はこの檻から聞こえている。マトリフは檻の前に座っていた。
    「……マトリフ」
    「なんだ、魔王の小言は終わったのかよ」
     その小言は君のせいなのだよ、と言いたいのをガンガディアは堪えた。言ったところでマトリフの奔放が改善されるわけではないと、この十数年で悟ったからだ。
     マトリフは檻の中へと視線を向けたままだ。その檻にいるのは人間で、まだ少年と呼べるほどの年頃だ。跳ね返った黒い髪で、額には黄色いバンダナをつけている。
    「……せんせぇ……」
     少年はぐずぐずと鼻を啜りながら涙を流している。捕らえてからというものずっとこの調子だ。なぜマトリフがこの人間を殺さずにいるのか理解できない。ガンガディアは気持ちを落ち着けようと眼鏡を押し上げた。泣き声が不快だ。
    「煩いから殺したい」
    「まぁそう言うなって」
     マトリフは面白そうに檻の中の少年を見ている。ガンガディアにはマトリフの興味の対象がよくわからない。この部屋の奥に仕舞い込んでいるあれもそうだ。あれだって魔王の不興を買ってガンガディアは肩身の狭い思いをしたのだ。
     魔王ハドラーは今でもマトリフのことを快く思っていない。マトリフがガンガディアの眷属になって十数年が経つというのに、いまだにマトリフがいずれ裏切ると思っているのだ。マトリフはこれまでガンガディアの部下として魔王軍に貢献してきた。パプニカを手中に収めたのはマトリフの功績と言っても過言ではない。それでもハドラーはいつかマトリフが魔王軍を裏切ると思っていた。
     ハドラーの心配がマトリフが呪文を破ることであることはわかっている。ガンガディアがマトリフにかけた呪文は精神を操るものだ。それは呪文をかけられた者の根幹を作り変える呪文で、意のままに操ることもできる。
     だがガンガディアはあえてマトリフの自我を壊したりはしなかった。ただ少しの変化を与えただけで、魔王軍へと寝返らせること成功させた。
     しかしハドラーはその呪文が甘すぎると言う。精神など破壊してしまって従順にさせろと言ってくるが、ガンガディアは頑として聞き入れなかった。そんなことをしてはマトリフの知性まで失われてしまうからだ。ハドラーはマトリフの傍若無人な振る舞いが我慢ならないからそのような事を言うのだろう。マトリフには一度きつく言い聞かせなければならない。
     しかしそう考えたのはこれまで何度もあった。けれどもガンガディアは結局マトリフの奔放で我儘な振る舞いを許容していた。今回の、この少年を殺さずに捕らえておいたことも、その我儘の一つだった。
     この少年はあの勇者アバンの弟子だという。その割にはひ弱で、ガンガディアを見た途端に逃げ出そうとした。捨て置けばいいと思いもしたが、脅威となる可能性も捨てきれなかった。ガンガディアは少年を殺そうとしたが、マトリフがそれを止めた。
    「こんな人間のどこがいい」
     ガンガディアの声には苛立ちが滲んでいた。それを感じ取ったのか檻の中の少年が小さく悲鳴を上げる。
    「こいつから魔法の才能を感じるんだよ」
    「才能?」
     ガンガディアは改めて少年を見る。少年はその視線にすら怯えて身を縮めるような有様だ。
    「才能があるとは思えないが」
    「感じるんだよ。今はまだ全然だけどよ」
     マトリフはどこか嬉しそうだった。その様子にガンガディアは苛立ちを感じる。ガンガディアがマトリフの言葉を否定したくて檻の中の少年を睨め付けた。
    「……こ、殺すならっ、さっさとやりやがれ!」
     少年は半分泣きながら言った。それが精一杯の虚勢であるとわかる。
    「なんだよおめえ、死にたいのか?」
     マトリフは悪い笑みを浮かべながら言う。少年は顔を歪めながらも、言い返してきた。
    「てめえが大悪党だって、知ってんだからな! 先生たちを裏切って、魔王軍の手下に成り下がって、マァムの父ちゃんを……消滅させやがったんだってな!」
     ガンガディアはマトリフの様子を伺った。マトリフは表情を変えずに少年を見ている。
    「そうさ、オレぁお前の言うとおり大悪党さ」
     マトリフは立ち上がると檻を撫でるように手を動かした。途端に檻が鏡のように光る。それは簡単な結界だった。これで檻の中の魔法は封じられる。あの少年がどんな呪文を使おうとしても無駄な足掻きだ。
    「そういえば魔王は何だって?」
     マトリフがようやくガンガディアを見て言った。
    「我儘もいい加減にしろと」
    「小鳥の一匹くらい飼ってもいいだろうよ」
    「自重したまえ。君の立場をわきまえるんだ」
     マトリフは肩をすくめてわざとらしくガンガディアに頭を下げた。
    「申し訳ありません、ガンガディア様」
     たった少しも反省していないことなどわかりきっている。しかしガンガディアは「もういい」と言って部屋を出た。戸口で振り返るとマトリフはもう部屋の奥へと消えている。またあれを見に行ったのだろう。
     ガンガディアはまた重い溜息をついて扉を閉めた。
     
     ***

     朝陽が昇ったとしても地底魔城の奥深くまでは届かない。常に薄暗い廊下を、ガンガディアは歩いていた。
     手に持ったトレイには食事が乗っている。それも人間のものだ。ガンガディア達は食べないようなものを、わざわざ作っている。
     ガンガディアはマトリフの部屋の扉を開けた。部屋の中は何も明かりがついていない。ガンガディアは部屋の主の不精さに溜息をつきながら蝋燭に火を灯した。
     しかし明かりがついた部屋にマトリフはいなかった。また奥の部屋にいるのだろう。この部屋の奥にはもう一つ小さな部屋がある。マトリフはそこにいる時間のほうが多かった。
     ガンガディアは先に不愉快な用事を済ませようと、トレイを手にしたまま檻へと向かった。檻の中では少年が丸まって眠っている。この状況で眠れるのなら意外と肝が据わっているのかもしれない。
     ガンガディアは屈むとトレイを置いた。床に近い位置に食事の出し入れ口がある。そこから檻の中へとトレイを入れた。
     その音で目が覚めたのか、少年が飛び起きた。更にガンガディアを見て飛び退く。ガンガディアは怖がられることには慣れていた。だがそれを鬱陶しく思わないわけではなかった。
    「食事だ。食べるといい」
    「だ、だれがてめえらの出す食事になんて手をつけるかよ」
    「毒などは入っていない。その気があればとっくに殺している。無駄な強情を張る必要はない」
     少年はそれでも疑わしげにトレイに乗ったパンと水を見ていた。その様子を見ていると、初めてマトリフをこの檻に入れたことを思い出す。この檻もマトリフを閉じ込めるために使ったものだ。
     少年は恐る恐るパンに手を伸ばした。そして腹が減っていたのか勢いよく食べはじめる。
     ガンガディアはこれ以上この少年に関わる気はなかった。もう一つのトレイを持って部屋の奥に向かう。
     ガンガディアは扉を開けた。途端に明るさに目をすがめる。地底魔城では珍しい日光が部屋に満ちていた。部屋の中央に置かれた人型の鋼鉄がその光を浴びている。
     マトリフはそこにいた。人型の鋼鉄の足元に身を丸めている。まるでそこだけが心休まる場所であるかのように、マトリフは穏やかな表情で眠っていた。
     ガンガディアは忌々しげにその鋼鉄を見る。戦士ロカ。勇者一行の一人であり、マトリフにとっては友人だという。だが今は鋼鉄となって指一本も動かせない。
     ロカを鋼鉄に変化させたのはマトリフだ。勇者たちはマトリフがメドローアでロカを消滅させたと思っているようだが、ロカは消滅などしていない。鋼鉄となったまま十数年ずっとここにいる。
     ガンガディアは机にトレイを置くと、屈んでマトリフの肩を揺さぶった。
    「マトリフ、こんな所で寝ては風邪をひく」
     マトリフはゆっくりと眼を開けた。そして顔を起こしてロカを見上げている。
    「食事だ。冷めないうちに食べるといい」
     トレイの上ではスープが湯気を上げている。朝からパンなんて食べれないと不満を言うマトリフのためにスープを用意している。
     マトリフは小さく頷くと立ち上がった。しかしマトリフはロカしか見ていない。手には魔法力が込められている。マトリフはロカに向かって呪文を唱えた。
     小さな部屋にマトリフの魔法が溢れる。この呪文の詠唱は長い。マトリフの声で紡がれる詠唱はガンガディアにとって至極だった。神々しいとさえ思う。だがその魔法はロカのために使われていた。
     マトリフがロカにかけている呪文はアストロンの応用だった。普通のアストロンよりも長い時間鋼鉄へと変化させる。しかしそれでも一日に一回は呪文を掛け直さねばならない。
     マトリフはそれを十数年、毎日欠かさずに続けていた。そのためにロカはあの日から一秒も時を重ねていない。ずっとあの日のまま時を止めていた。
     ガンガディアは呪文を唱えるマトリフを見る。マトリフは炯々とした眼でロカを見ていた。その様子は尋常ではない。余程の執着がなければこんなことは出来ないだろう。
     ガンガディアがマトリフへかけた服従の呪文が解けていないと確信する理由がこれだった。ガンガディアはマトリフを服従させるように精神を作り変えたが、同時に執着を増加さえた。マトリフが人間を憎むように仕向けるためだ。マトリフは人間と衝突して辛い思いをしたことがある。その気持ちを増幅させたかったのだ。思惑通りマトリフは人間を怨むようになった。だが同時にロカに対する執着も膨れ上がってしまった。
     結果としてマトリフはロカに対して常軌を逸した執着を持つようになった。マトリフはよほどロカのことを大事に思っていたらしい。そのために増幅された執着心が、ロカが死ぬことも、年老いることも許さなかった。マトリフは呪文を掛けてロカを永遠にしようとしている。
     マトリフの呪文が終わった。マトリフは満足そうにロカを見上げる。朝陽を浴びたロカは驚きと恐怖に固まった表情のままだ。
    「マトリフ」
     ガンガディアは呼びかけてマトリフの首筋を指で撫でる。そこには服従を示す模様が刻まれていた。
    「……わかってる」
     マトリフはロカから目を逸らすとローブを脱ぎ捨てた。
     ガンガディアが運んだ食事はすっかり冷めている。
     
     ***

    「なにを拗ねてんだよ」
     マトリフの言葉に、ガンガディアは拾い上げた眼鏡を壊しそうになった。床にはマトリフとガンガディアが身につけていたものが散乱している。マトリフはまだ服を着る気はないのか、裸のまま壁に身をもたせていた。
    「誰が拗ねていると?」
    「お前って拗ねるとオレを抱こうとするだろ」
    「不愉快な思い違いだ」
     ガンガディアは手早く服を身につけた。そしてマトリフの言葉が図星であることに苛立つ。マトリフを抱くことで得ていた仮初の幸福は霧散していた。
     ガンガディアはロカを見ないようにする。部屋の中央に置かれたそれを視界に入れないのは難しい。先ほどまでは動けもしないロカへの当てつけのつもりでマトリフを抱いた。ロカの足元で嬌声を上げるマトリフを貫いているときは、一時とはいえ心が満たされていた。だがいまは虚しいだけだった。
     人間の心とは厄介なものだ。ガンガディアは呪文でマトリフの精神を操ったが、思い通りにできるわけではない。マトリフにガンガディアへの服従心を植え付けたが、それはマトリフがロカへ向ける執着心には劣っていた。元から持っていたロカへの執着心のほうが強いからだ。
     ガンガディアはマトリフを見る。マトリフはぼんやりと窓を見ていた。その身体にはガンガディアの欲望の跡が散っている。
    「今日はカールへ侵攻する」
     ガンガディアの言葉にマトリフは無関心な顔で頷いた。
    「だったら朝っぱらから激しくすんなよな」
    「君には回復呪文があるだろう」
    「疲れんだよ……先に風呂か」
     マトリフは億劫そうに立ち上がった。
    「んっ……」
     マトリフは小さく呻めいた。見ればマトリフの太腿を白濁が伝っている。それは床を汚していった。マトリフはそれを見ても興味がなさそうだった。
    「掃除しておけよ」
    「なぜ私が」
    「おめえが出したんだろうが」
     マトリフは服を拾うとよろめきながら部屋を出ていく。白濁が足跡のように床に残った。
     ガンガディアは手近にあった布で床を拭いた。嫌でもロカの姿が目に入る。光を浴びたその姿が憎くてたまらなかった。
     なぜマトリフがロカに執着するのかガンガディアには理解できなかった。ただの弱い人間だ。それなのに無謀にも立ち向かってくる。自分の力量も判断できないのだ。その姿勢がガンガディアの神経に触る。
     ガンガディアは立ち上がるとロカの頭を鷲掴みにした。いくら鋼鉄となろうが、ガンガディアの力ならば頭くらい引きちぎれる。マトリフはそんなことも知らずに、ロカを守れている気でいる。そう考えるとマトリフも愚かだ。他愛もない人間の一人に過ぎない。
     いっそ握り潰してやろうか。ガンガディアはロカの頭を握る手に力を込める。ひしゃげたロカを見てマトリフがどんな反応をするか考えるだけで愉快だ。泣き叫ぶか、怒りを露わにするか、そのどちらでもいい。
     ロカさえいなくなれば、マトリフは私を見るようになる。ガンガディアは薄暗い笑みを浮かべていた。
     だが隣の部屋で大きな音がして、ガンガディアは咄嗟にロカから手を離していた。
    「何事だ」
     ガンガディアは隣の部屋へ行く。するとそこには破壊された檻と、倒れたマトリフの姿があった。
     
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    なりひさ

    DONEガンマト「時の砂」その後の蛇足。弟子に会いたくて未来へ来ちゃったバルゴート
    なにこれ修羅場じゃん ポップは焼きたてのパイを持ってルーラで降り立った。アバンの料理教室で作った自信作である。折角なのでマトリフと一緒に食べようと温かいうちに持ってきた。
    「師匠ぉ〜ガンガディアのおっさん〜お邪魔するぜ」
     呼びかけながら入り口をくぐる。しかしいつもなら返ってくる返事がなかった。人の気配はするのに返事が無いとは、来るタイミングが悪かったのだろうか。ポップはそろりと奥を覗く。
    「えっと、これどういう状況?」
     ポップは目の前の光景に頭にハテナをいくつも浮かべながら訊ねた。
     まずガンガディアがマトリフの肩を抱いている。優しく、というより、まるで取られまいとするようにきつく掴んでいた。ガンガディアは額に血管を浮かべてガチギレ五秒前といった雰囲気だ。そのガンガディアに肩を抱かれたマトリフは諦念の表情で遠くを見ている。そしてその二人と向かい合うように老人が座っていた。ポップが驚いたのはその姿だ。その老人はマトリフと同じ法衣を着ている。かなりやんちゃな髭を生やしており、片目は布で覆われていた。その老人がポップへと視線をやると立ち上がった。
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