甘えんぼう ガンガディアが帰ったとき、玄関にもリビングにも電気がついていた。テレビの音声らしいものも聞こえてくる。ガンガディアは今日も終電での帰宅だった。マトリフはまだ起きているのかとガンガディアはリビングの戸を開ける。
リビングダイニングに置かれたテレビは賑やかなバラエティを流していた。マトリフの姿が見えなかったので寝室を覗きに行くが、ベッドは空だった。
「マトリフ?」
ふと見ればテレビとソファの間に置かれたローテブルに酒瓶があった。もしやと思って見てみれば、マトリフはソファに丸まって眠ていた。
おおかた酒を飲みながらテレビを見ていて、そのまま寝落ちたのだろう。見れば酒瓶は空になっている。ガンガディアは瓶をキッチンへと持って行った。
ガンガディアはソファに戻って屈むと、そっとマトリフの身体を抱きかかえようとする。しかし腕に触れた途端にマトリフの目が開いた。マトリフは眩しそうに目をすがめてガンガディアを見ている。
「ベッドで寝よう」
さあ、とガンガディアが促すと、マトリフは体を起こしてガンガディアに抱きついてきた。ふわりと酒の匂いに混じってマトリフの匂いがする。ついその首筋に鼻を埋めた。
マトリフは不明瞭な声で何か言っている。運んでくれとかそんな内容だろう。ガンガディアは軽々とマトリフを抱き上げた。
マトリフは顔をガンガディアの胸にすり寄せる。そしてまたはっきりとしない口調で何か言っている。ガンガディアは耳をマトリフのほうへと寄せた。
「……遅ぇんだよ」
待ちくたびれた、とマトリフは拗ねたように言う。ここのところ残業続きでガンガディアは帰るのが遅くなっていた。どうやらマトリフはガンガディアの帰りを待っていたらしい。
「明日は早く帰れるように努力する」
ガンガディアは言ったが、マトリフは既に目を閉じていた。
ガンガディアはマトリフをそっとベッドに下ろす。マトリフの髪を撫でてから額へと口付けた。