まだ見せられないもの 不意に意識が浮上した。室内は暗い。まだ目覚めるには早すぎる時間なことは、時間を確認しなくたってわかる。どうしてこんなタイミングで意識が覚醒したか。原因はすぐに分かった。リビングから人の気配がする。
アニはベッドから出ると、リビングへ向かった。薄暗い廊下を抜けドアを開ける。そうすると、見えたのは同棲中の恋人の姿。風呂はすませたらしく、寝間着を着ている。アニが気付くより前に帰宅していたようだ。
アルミンはアニに気付くと、優しく微笑んだ。その顔には疲れが見える。
「起こしちゃったかな。ごめんね」
「……おかえり」
研究が大詰めだとかで、泊まり込みで帰ってこない日が続いていた。この場所で彼を見るのは酷く久しぶりな気がする。
そこではたと気付く。わざわざこうして起きてくるなんて、寂しがっていたようではないかと。急に恥ずかしくなってきたアニは思わず背を向けようとしたが、アルミンが彼女を抱きしめる方が早かった。
「ただいま、アニ」
耳元に落ちる囁きに胸が高鳴る。顔を上げると唇を塞がれた。触れるだけの口付けがもどかしくて、ねだるような吐息が漏れてしまう。それに応えるように深くなっていく口付けに身を委ねかけたアニだったが、背を撫でる手に一気に現実へ引き戻された。
上下揃った下着でないどころか、飾り気もなにもないナイトブラを着けていることを思い出したのだ。同棲を始めて間もないわけではないけれど、その姿を見せるのは強い躊躇いがあった。
「ちょ、ちょっと」
おもわず胸を押すと、アルミンはすぐにやめてくれる。
「ごめん、嫌だった?」
嫌じゃない。首を横に振ると、彼はほっとした顔をしたけれど、流されてはくれない。
色気のない下着姿を見せるのは嫌だ。しかし、それを説明したくもない。口下手な自覚のあるアニは、どうしたものかとぐるぐると思考を巡らせる。
「今日はもう休もうか」
あからさまな態度では示さないけれど、アルミンががっかりしているのは分かる。アニは焦った。傷付けたいわけではない。
「……嫌じゃない。けど、下着、可愛くないやつだから」
アンタに見られたくなくて。
アニがぽつりぽつり言うと、アルミンは大きく息を吐いた。呆れられたかと思いきや、まだ強く抱きしめられたことで杞憂だったことを知らされた。