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    帝国設定の剣衛剣(シュレディンガー)

    帝国ケモ 悲劇と逆転の日「ロスト・エンド」から二年。「彼ら」の襲撃は目に見えて激減し、適合者が戦いに赴くこともだいぶ減ってきた。勿論すべてが無くなったわけではない。クラス4、5レベルの襲撃こそないものの、クラス1、2程度の「彼ら」は度々テールに向かってやってくる。東を守護する第三艦隊に配属されオペレーターを務めている剣介は、今日もまたモニターを見つつ彼らの襲撃を警戒する日々を送っている、のだけれど。

    「暇!」
    「暇なのはいいことだよ、ケン」
    「いやそうなんだけどさ~、こうもなんもないと……頭がだめになりそうっていうか」
     なぁ龍さん、と自身の腕に絡みつく自分の青龍に話かければ、彼は同意するかのように「ぴぃ!」と勢いよく鳴いた。剣介によく似て元気な龍さんも暇を持て余しているらしい。剣介から離れた彼は、書類整理をしていたはずの衛の元へ飛んでいくとその首にぎゅうと巻き付いた。
     こっくりこっくりと船を漕いでいた衛は突如自分に襲いかかった息苦しさに驚いたのかびくりと身体を震わせて勢いよく立ち上がる。敵襲とでも思ったのか、袖口に忍ばせていた隠しナイフを取り出したところで、相手が青龍であることに気づいて目を丸くさせていた。
    「……っ!? えっ、ぁ、龍さん!? どうしたのっ?!」
    「衛いま完全に寝てたなー」
    「寝てたね。よだれ、書類に垂らしてたら怒るよ」
    「ひえ……っ、すみません……!」
     口元のよだれを拭いながら涼太の絶対零度の眼差しに身を震わせる衛とは裏腹に、ドッキリを成功させた剣介の龍さんは空中をくるくる回りながらごきげんな様子で手元に戻ってきた。どうやら衛の反応が面白かったらしい。龍さんの退屈が少しでも紛れたのなら良いことだ。
     涼太の龍さんは涼太の膝の上で眠っていて、衛の龍さんはこの場にはいない。多分今は別室で各艦隊の司令官会議に出ている昂輝の元にいるのだろう。衛の龍さんは衛と一緒にいるよりは第三艦隊の誰かとともにいることのほうが多い。多分それは、衛の諜報局員としての仕事の関係もあるのだと思う。
     そうこうしているうちに会議を終えた昂輝が戻ってきた。やっぱり、彼の横には衛の龍さんがふわりふわりと浮いていた。ちなみに昂輝の龍さんは今は戦艦となって自分たちを乗せてくれている。
    「おかえり、コウ。会議どうだった?」
    「特に大きな問題はない。ただ、少し早いが今夜からテールに向けて帰る事になった」
    「あれ? 予定じゃあと一週間ぐらい先じゃなかったっけか」
     第三艦隊はツキノ帝国の主星、テールの東側の守護を任されている。第一位の青龍と集団適合したのは九人。そのうち二人が司令官となって、二つの艦に分かれて防衛ラインの前と後ろでそれぞれ守護にあたっていた。
     防衛ラインの後ろにいる場合は度々テールにも帰れるのだが、前にいる場合はその間帰ることは出来ない。今は自分たちが前線に出ている番で、予定では入れ替わりはまだ先だったはずだ。そのことを問えば、昂輝は彼にしては珍しくなんとも言い難い表情で衛へと視線をやった。
    「……第二皇子殿下が、衛を呼び戻して欲しいと仰っていてな」
     昂輝の気重そうな声に、なるほど、と剣介は頷いた。涼太も同じような反応で、衛一人だけが「えええ!?」と驚きの声を勢いよく上げている。
    「な、なんで俺ご指名……!?」
    「諜報局絡みだ。一応確認はとったが、何かをさせたいわけではなく、ただ過去のことで話が聞きたいと」
    「だったら衛だけ帰せば?」
    「リョウくん冷たい……!」
     涼太の言葉に衛が抗議の声をあげるが、涼太の言うこともあながち間違いではない。一応衛とて第一位青龍と適合した人間。単艦で帰還することも可能なのに、どうして予定を変更してまで四人全員で帰ることになるのか。勿論、四人まとまっていたほうが、彼らが現れた時に対処しやすいことに違いはないが。
     なんかそうせざるを得ない理由あったかなぁ、と考えを巡らせていて、剣介はぴんときた。
    「あ、わかった。綾乃さんがお休みに入るからだろ。最高評議会の会期切り替わりで」
     剣介が予想を告げれば、昂輝が気まずそうに視線を逸らしてゆっくりと頷いた。その耳が赤くなっているのに気づいて、思わず涼太と顔を見合わせてくすくすと笑いあう。
     衛藤綾乃は、昂輝の母親であり、帝国最高評議会の議員でもある。いつも明るく元気で、見た目と言葉こそ良家のご令嬢といった雰囲気ではあるが最高評議会員として長く務めている才女でもあった。昂輝の父親も政府の高官であり、衛藤家は全員が全員月野帝国のエリート職についていて多忙極まりない。
     そして年に一度、綾乃が二週間ほどまとまった休みを取ることができるのがこの最高評議会の会期切り替わりなのである。
     思い返せば去年もこの時期は防衛ラインの後ろにいて、昂輝は度々テールに一人帰っていたのだった。
    「俺の事情に巻き込んですまない……ただ、今年はリョウとケンもご家族から帰ってこいと言われている」
    「そういえば俺も家族に全然会ってないかも。リョウも?」
    「俺もだね。両親も、ロストエンドのごたごたでずっと忙しかったから」
    「下手するとこっちにいる俺たちより色々大変そうな時期あったっぽいしな。たくさん蜜柑買っといて貰おーっと!」
    「ふふ、ケンの数少ないわがままだ。きっとまた箱で用意しといてくれるんじゃないか?」
    「数少ないにしては値段が高いけどね。……俺も、たまには両親に甘いものおねだりしてみようかな」
     宇宙に出ていると果物などはもっぱら加工品や缶詰ばかりになってしまうから生の果実は貴重品だ。そもそもテールにおいても果物は生産量の問題で贅沢品であるとも言えるのだが、剣介の実家はいわゆる良家と呼ばれており蜜柑一箱二箱ぐらいのおねだりはぽんと叶えて貰える。家族四人で蜜柑を食べながら他愛無い話をするのが剣介にとっていつもの帰省の楽しみの一つだ。
     そんな話をしていると、衛が何やら「ほあー」と気の抜けたような声を上げるものだから、剣介は笑い混じりに「なに、どーかした?」と声をかけた。
    「いや……改めて三人のおうちが凄いなぁと感心してしまいまして……。俺には縁遠い話です」
    「何言ってるの衛。ケンのご実家にそのうち挨拶に行くんだから、そんなこと言ってられないでしょ」
    「えっ?」
    「へっ?」
     涼太の返しに、思わず衛だけでなく剣介も素っ頓狂な声をあげてしまった。衛が自分の実家にご挨拶。いや、ご挨拶だけなら縁遠いままでも構わないと思うのだけど、今の涼太の言い方ではまるで――。
     静かに混乱する剣介をよそに、昂輝が「たしかにな」と優しく微笑んだ。
    「状況も落ち着いた頃だし、そろそろ衛もケンのご家族に挨拶に行って、きちんと報告をした方がいいだろう」
    「息子さんを俺にくださいってね?」
     至極真面目な昂輝に続いた涼太の声は明らかに面白がっていて、剣介は思わず立ち上がって衛の元に駆け寄ると男の胸ぐらを掴んだ。
     気まずそうな表情をした衛は視線をあっちこっちへと彷徨わせた後、睨みつけてくる剣介と目を合わせてへらり、と笑った。
    「……ごめんケンくん、バレちゃった」
    「ばっ……!!」
     思わず馬鹿、と言いかけて二人の前でそんな暴言を吐くのは宜しくないと理性がストップをかける。けれど出口を失った感情は行き先を探して、結果剣介はごつん、と衛の頭に勢いよく頭突きをかました。
    「いった……痛いよケンくん! なんで!?」
    「俺も痛い!!」
    「何してるの? ふたりとも。ばかなの?」
     剣介が言い淀んだ暴言をあっさり口にした涼太に向かってジト目を向ければ、彼は肩を竦めてから「衛から言ったわけじゃなくて、俺たちが気づいて衛に問いただしただけだよ」と言い放った。横に立つ昂輝もこくりと頷いたから、本当にその言葉は正しいのだろう。
     好意的といえば好意的だが、なんだか生暖かい視線を向けられて剣介は苦々しい表情を浮かべた。
     一体いつからバレていたのか。自分と、目の前で痛みによってか涙目になっている男――衛が付き合っていることを。

     衛と恋人という関係になったのはロストエンドの直後ぐらいだ。きっかけを語れば長くなってしまうけれど、恋をしたからというよりはこの天涯孤独の身の上である男が突然自分たちの目の前から姿を消す可能性を少しでも減らすためという側面が大きく、付き合って最初の頃は手を繋ぐのがせいぜいで、キスをするのだって稀だった。
     言ってみれば友人以上恋人未満のような関係値。
     それがいつの間にか衛の「恋人らしいこと、たまにはしない?」というお誘いにより二人で過ごす時間が増え、今ではすっかりキスどころか一線を越えてしまっていた。
     付き合い初めて一年ぐらい経った頃だろうか。初めて身体を繋げた時に、これで衛をつなぎとめる重しが一つ増えたという考えよりも、嬉しい、という感情が先に湧き出たから、きっと自分は思っていたよりもこの男を愛しているのだなぁと感じた覚えがある。
     そして二人に関係を隠していた理由が、そもそも「衛を自分たちの前から簡単に消えさせないため」というものであり、純粋な恋愛感情ではないという後ろめたさからだったから、愛していると気づいた時点で報告してもよかったのだが、なんだか今更気恥ずかしくてそのまま隠し通すことにしていたのだ。
     衛にも二人には内緒にして、と言ったら、彼はなんだか嬉しそうに笑って「俺とケンくんだけの秘密、だもんね?」と言っていた。

    「……いつから気づいてた?」
     剣介の問いに、昂輝と涼太は暫し顔を見合わせて、それから昂輝が気まずそうに答えた。
    「いつから、というなら……ロストエンドの少しあとぐらいからだろうか」
    「もう最初じゃんそれ」
    「でも俺もコウも確信は持てなかったんだよ。なんとなく、あれ?って思ってたぐらい。本当に付き合ってるんだって思ったのは半年前ぐらいにコウが一人でテールに帰った時かな」
    「なんで?」
     昂輝の帰省でどうして自分たちの関係がバレるのか。不思議に思っていると、未だ剣介に胸ぐら掴まれたままだった衛が「あの、えっとね」とおどおどした様子で口を開く。
    「……あの時、俺うっかりケンくんの首の後ろにキスマークつけちゃって、それをリョウくんに見つかってしまってたようで……」
    「はい!? 俺それ知らないんだけど」
    「ケンくん寝てて、すやすやしてるのかわいいな~って思ったら胸がきゅんとして……つい!!」
    「つい、で人の身体に勝手に痕残すなよなぁ……」
     聞けば昂輝がテールから帰った直後に衛は二人から呼び出され根掘り葉掘り聞かれたらしい。
     もはや二度目の頭突きをかます気にもなれず、剣介は衛の肩口に頭を預けた。瞬間、昂輝と涼太の前であまり感じることのない衛の匂いがふわりと鼻孔に届き、やめとけばよかったと思ったものの今更だと開き直ってぐりぐりと頭を動かせば「痛い、痛いですケンくん」と頭上から泣き言が漏れてきた。
    「衛のばか、秘密にしとけって言ったじゃん」
    「それはごめんなさいです……。でも、ね」
     宝物に触れるようにそっと優しく、衛の手が剣介の頭を撫でる。

    「ケンくんが俺を好きになってくれたこと、ずっと誰かに自慢したかったんだぁ」

    (……そんな、すっごい嬉しそうな声で言われたら怒るに怒れないだろ)
     顔は見れないけれど、絶対に今の衛はふにゃふにゃと相好を崩しているに違いない。見たら絶対にほっぺたをつねりたくなるから、剣介は再び頭をぐりぐりと、先程よりも強く衛の肩になすりつけてやった。
    「まぁそんなわけで、俺たちはもう事情を知ってるわけだけど。……ケン」
    「はーい……」
     涼太に名前を呼ばれたからには顔をあげないわけにはいかない。あえて衛の顔は見ないようにしつつ顔をあげれば、剣介の二人の親友のうち一人は純粋ににこにこと、一人はにこにこの中にちょっぴり意地悪をちらつかせながら剣介へと視線を向けていて。
    「ご両親へのご報告の前に、俺たちへの報告、どうぞ?」
     有無を言わせぬその言葉に、えへーと誤魔化し笑いを浮かべたものの涼太相手に効くわけがなく。
     避けられぬと悟った剣介はがくりと項垂れながら、隣でわたわたしだした恋人の手を握って覚悟を決めたのだった。


     ――帰省の連絡の際に紹介したい人がいると家族に告げ、緊張しつつ剣介が衛を連れて家に帰るとそこにはテールの中でも最高級品の蜜柑が箱で用意されており、剣介は終始ご機嫌だったのだが、裏から衛が手を回していた事を知るのは衛の帰省先が八重樫家として定着したその数年後のことである。
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