大切なものだから、今すぐに君に"これ"を、返さないと。
軽く握りしめた手の平に入れてから……早10分経つ。僕はふらふらと漂うように、まだいるだろうかと見渡しながら校内を彷徨うーーー
探しているのは寺刃ジンペイ。
僕の後輩、手の平の私物の持ち主だ。
いや、私物なんて、返せる時に返せばいいじゃないか…そう思うのは必要性の無い私物ならではの話。よりによって変身メダル・紅丸を落としているんだからタチが悪い。一番花形のメダルを、廊下のど真ん中に堂々落としていく奴の 気が知れない。
(嗚呼……知っていたよ……そういう子だって)
時は黄昏時過ぎ。…最近は暴走化した怨霊も頻繁に出没しており、この時間帯は特に油断ができない。
万が一を考えて、本人かその友人に会えれば、と色々と場所を当たってみたが見つけられなかった。
諦めて明日のホームルーム前が確実か、そう考えていた時
大きな物音と、言い争う声が耳に入る。
どうやら、空き教室からだ。
ひとつは 探し求めていた声が、
もうひとつは 知らない男の声で
様子を見ようと近寄ると、声のする空き教室には 鍵がかけられていた。僕は背中を窓硝子にあわせるように 中の様子に耳をすます……
「……」
「…………」
(?急に、静かになったな。いや、微かに何か、聴こえるけれど……)
(まさか数歩立てた足音に気づいたか?いや、騒いでいたからそんなはず……)
そんな思考を殴るように、君の声が聴こえた。
「ッ痛…」
(痛、?……………まさか、怪我を?)
そんな一言で、僕の御御足は迷わず、空き教室の扉を蹴破ってみた。バタン!という重い音が終わると同時に、君の姿は光で照らし出される。
…想定外の様子に、目を疑う
腕や足首は縛られ…頭からは血が垂れて髪色より目立つという汚れ具合。
で、その横にいるのは知らない男子生徒1名。
(そうか。この生徒のせいで、勘の良い僕がいくら探しても見つからなかった訳だ。)
九尾「こんな所で、何してるのかな」
男子生徒「……!いや、これは!その」
ジンペイ「………………九尾先輩」
九尾「僕はその、後ろの馬鹿で阿呆で間抜けな後輩くんに用があるんだよね、邪魔だから、席…外してくれるかな?」
男子生徒「ぁ……すみませんでした!!」
一声かけると、ソイツは一目散に空いた扉から飛び出して行った…………
(なんだ、小心者か)
僕は呆れてもう一声かける暇も無かった。
よそに、縄を解いてあげると 君は落ち着くように溜息を漏らした。
ジンペイ「自分でも、よく分からない状況なんですけど…多分助けられた、のかな」
九尾「溜息つくのはこっちの方だよ。ほんっとう、君でもあんなのに好かれるんだね」
ジンペイ「あんなの?」
九尾「君は無駄に愛想振りまきすぎるんだよ。相手選びな」
ジンペイ「それは九尾先輩もじゃん。違うの?」
九尾「…違うよ。あ、そうそう。はいこれ、君くらいだよ、大事なメダル廊下のど真ん中に落とす奴」
ジンペイ「あ!サンキュー!落としてたこと自体今知った!」
九尾「(落としていたこと自体知らなかったのか…)」
見た感じ、さっきの生徒に頭以外は大きく危害を加えられていない……けれど服が乱れて血で滲んでいるから分かりにくいものの、斑点も数える程度付けられているし。本人はこうされたこと自体、何をされていたのか認識出来ていない……そんな 無垢な顔をして、痺れた手を振っている。
九尾「……ジンペイくんってさ」
ジンペイ「お?なに?」
九尾「自分が何されたか分かってる?」
ジンペイ「…んーさあ?気がついたらあんな感じだったし、強いて言うなら縛られてて腕痛いし埃っぽくて暑かったくらいだけど」
九尾「あ、そう。なら、君は保健体育の授業をもっと勉強するべきだな。」
ジンペイ「え?!ということはえんら先生に教えて貰えんの?!」
九尾「そんなわけないだろ。とにかく暗くなるし、帰るよ。先に、保健室寄っていこう」
ジンペイ「あぁ!ちょうどえんら先生に会いたいところだったから行く!」
九尾「もう園等先生は帰ったよ」
ジンペイ「ええ?!じゃー行くのやめた!離してくれよ!」
九尾「…………ほんと。大事にしてくれよ、メダルもそうだけどさ。」
メダルも大事だけれど…君そのものも
もっと大事にして欲しいと思うよ
君はたった、一人しかいないんだからさ
おわり