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    髪を結んで欲しいトールと結んであげた呂布の雷飛

    #雷飛
    leiFei

     様々な結い紐や髪を整えるための道具を準備して、どうだとばかりの顔をするトールに、呂布はひくりと口の端を震わせた。たしかに、呂布は、トールに「その髪は邪魔ではないか」と言った。冗談のつもりで、「なんなら我が結ってやろうか」とも言った。だがトールは「いや、いい」と言ったではないか。まさかそれが「(今は準備がないから)いい」ということだったとは思わなかった呂布は天を仰いだ。きちんと櫛も、姿見も用意して待っていたトールに、断ることもできない。呂布はトールの髪をいじることになった。
    「我がそれほど器用だと思わないことだな」
     吐き捨てるように言った呂布に、トールは微笑んだ。
    「そんなことは承知の上だ」
    「わかっているなら、どうなっても知らんぞ」
    「ああ」
     なんだかんだ言って、呂布はトールに甘い。決して、決して、弱いわけではない。甘いだけなのだ。
     姿見の前に設置された椅子に座ったトールの髪に櫛を通せば、するするとなんの引っかかりもなく櫛が通る。いい櫛なのもそうだが、トールの髪自体もとてもいい髪質をしている。どちらかといえば、かたく融通が利かない呂布の髪とはだいぶ違う。結い紐が留まるといいのだが。取り敢えず、前髪を全部後ろに流してひとまとめにでもするか、と思い、手を動かす。櫛が頭皮にぶつからないよう、一応は気をつけながら前頭に櫛を入れる。ふと、前を見ると、前髪がなくなり視界が良好になったトールと、鏡越しに目があった。本当に、トールは、見れば見るほど整った顔をしている。
    「どうかしたのか」
     呂布の手が止まったのを咎めるように、トールが言った。
    「なんでもねぇ」
     わざと雑に言って、手の動きを再開する。長い前髪を後ろに流し、頭のてっぺんよりもやや下の部分に括る位置を定める。様々な色の、様々な糸で織り込まれた、一目で上等とわかる結い紐たちを横目で見て、呂布は選ぶのも面倒になり、適当に掴み取ったものにした。黄色がメインの、ところどころに青い糸とビーズが散った結い紐だった。片手でまとめていた髪にくるりと巻いて固定していく。それほど器用でないから、てきぱきとはいかない。けれど確実に、課せられたことをこなす。手触りがいい髪は結い紐がするりと抜けそうになるので、困った。呂布は自分では使ったことはないピン引っつかみをどうにか挿して固定する。
    「……できたぞ」
     鏡に映ったトールに前髪はなく、全て後ろに流され、紐で結われていた。トールは横を向いて結び目がどんな風になっているのかを確認する。一番簡単なリボン結びで留められているものの、その結び目は少し歪んでいた。それも愛嬌がある。横髪は垂れたままなので耳はいつも通りに隠れてはいるが、額が露出しているので少し寒いような気がする。
    「いいな。気に入った」
     トールはそう言った。やりきった顔をした呂布は頷いた。
    「気に入らなければ剃ってやろうかと思っていたところだ」
    「元はといえば貴様が言い出したことだろうに」
    「ここまで大掛かりにしたのはお前だろうが」
     呂布は唸ったがおくれ毛の出ている後ろ頭に触れ確かめるトールは嬉しげである。
    「けれど、まあ、こうして結ってくれたのはありがたい。礼を言おう」
     トールはにこやかに笑った。礼を言われ満更でもなくなった呂布は「……おう」と頭を掻いた。トールは椅子から立ち上がる。
    「では呂布よ。早速出かけようではないか」
    「……解かんのか」
    「せっかく貴様がしてくれたのだから見せびらかしたい」
    「やめろ!」
     出かける出かけない、解く解かないでひと悶着あったが、トールが勝った。
     うきうきのトールとしょぼしょぼの呂布は連れ立って出かけることになった。様々な場所に行き、知り合いに遭遇するたびにトールは呂布に結ってもらったことを自慢した。呂布は赤兎馬を呼びその背中に飛び乗りトールの傍から高速で離れたかったが、手を繋がれていたためそれは叶わなかった。
     面々から褒められたり、冷やかされたりしながら、トールと呂布は帰路についた。
    「次は違う髪型にしてくれ」
    「……次があると思うな」
     要望を出したトールに低く言い放つ呂布。トールはこと、と首を傾げた。
    「ないのか?」
     ない! と言い切りたかったが、結い上げられて嬉しそうにしていたトールを思えば言い切れなかった。
    「…………他人に見せぬと言うなら、あるかもしれん」
     搾り出すようにそう言えば、トールは瞬きをして、くっと笑ってから「ならば、次は人前に出ないことにしよう」と言った。
    「自分の仕事が人に見られるのが嫌だったか。それとも髪を結った私を人に見せるのが嫌だったが。どちらにせよ、呂布――貴様はかわいいな」
    「やかましい」
     ばしんと、呂布はトールの背中を叩く。常人であれば骨が粉々に砕けているだろうそれを、常神ですらないトールは軽く痛いなと思うだけで済ませた。
    「今度は私にも貴様の髪を結わせてくれ」
    「……気が向いたらな」
     そんなことを言いながら、結局呂布はその日になれば、背中を許し、髪に触れられることを是とするのだろう。大の男が二人で部屋にこもり、髪を結って戯れる様子を考えれば、それはあまりにもおかしい光景かもしれない。だけれど、まあ、トールが楽しいと感じるなら、別にいいかと呂布は思った。
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    amei_ns

    DOODLE子猫にじゃれつかれるトールを見てる呂布の雷飛「助けてくれ」
     トールが助けを求めるなど、どんな天変地異があってもないことだと思っていた。けれど、それは有り得たらしい。トールからの連絡があり駆けつけた呂布は、その光景を目の当たりにし、驚愕で目を見開いた。
    「お前、なにをしているんだ……?」
     トールは子猫に群がられていた。数は、五匹くらいだろうか。ぴゃう、ぴゃう、などと鳴きながら、小さすぎて恐れというものをまだ知らないのだろう。トールの足元をよじ登っていたり、その足元でころころと転がっていたりと、それぞれに違う反応はしていたもののどれもがトールの傍にいるという点では一致していた。
    「見て分かるだろう」
    「いや、見て分からん。どうした?」
     使用人が邸の傍に捨てられていた箱を持ってきたら入っていた、というのである。
    「私を恐れない生き物など初めてだ……」
     はぁ、と溜め息をつくトールの揺れる髪の毛にちょいちょいと手を出している子猫もいた。
    「お前のことだから捻り潰していても不思議ではなかったが」
    「こんなもの、殺したとてどうなる」
     呂布が近付き、一匹をひょいと拾い上げる。シャーとも言わない、警戒心というものすらまだないのではあるま 1199

    amei_ns

    DOODLE行為のとき首に噛み付こうとしてくる呂布を肩に誘導するトールの雷飛。いろいろあった。そう、いろいろあった、のである。
     その結果、トールと呂布は、いわゆるそういうことをする仲になっていた。この話は二人が寝所を共にしているところから始まる。

     首とは急所である。それは人も神も同じだ。否、神にとって弱点であるから、神を模して作られた人間もそうなっているのだ、と言わなければならないだろうか。首は頭部と胴体を繋ぐ関節であり、また太い血管の流れる箇所である。そこに食いつかれようとするならば、危機を感じ、避けようとするのが普通の心情であろう。
     それは、北欧最強神であるトールもそうであった。首に食らいついてこようとする友の額を押さえそれを阻止する。
    「噛むなら肩にしろ」
     押さえた頭をそっと肩の方に誘導すると、呂布はおとなしく肩に齧り付いた。呂布の鋭い歯で噛まれたことにより、痛みが走るがその程度で表情を歪めるトールではない。がじがじと肩に歯型を付ける呂布に、ほどほどにしておけなどという言葉をかけようかと思ったが、やめた。どうせもう聞こえてはいないだろうことがわかったからだ。
     意識が朦朧とする中でもしっかりとトールに掴まり、肩に齧り付きながらも時折口を離し喘ぎ声 1774

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    MOURNING今書いてるやつで気に入らなくなって没にした展開の雷飛「貴様が了承したのであろう」
    「なにをだ」
    「……まさか覚えてないのか」
     呂布が頷くと、トールは目を見開いた。
    「ばかな……」
     そう呟くトールの様子を見て、自分が忘れたことはそんなに重要なことだったのだろうか、と思い冷や汗が背中を流れた。
    「教えろ、トール。我はなにを了承した」
     自分が昨日なにをしたか知るのはトールしかいない。今にも熊などを捻り殺しそうな剣幕で、呂布はトールに尋ねた。
    「貴様はな、呂布よ」
     トールは重々しく口を開いた。

    「私と婚約することを、了承したのだ」

     沈黙。

    「は?」

     こんやく。こんやく、とはあの婚約か? 宇宙に放り出されなにもできない猫のような顔をする呂布に、トールは続けて言った。
    「今朝、父、オーディンからも貴様と婚約していいという許しを得た。貴様と私は晴れて婚約者というわけだな」
     唇の端を少し上げ、微笑むトールに、呂布はまだ宇宙に放り出されたままのような顔をしていた。今朝ということはそう何時間も経っていないはずである。それなのにあのオーディンから許しを得たということはトールの仕事は早かったということで、混乱したままの呂布はせっかく整えら 631

    amei_ns

    DOODLE神トールと悩む呂布の雷飛 鉄の手套をしていないトールの握力は凶器である。通常時のミョルニルですら握り壊してしまう可能性のあるそれは、紛れもなく殺戮兵器の域に達している。しかし、最近のトールは呂布と素手で触れ合いたいがため、呂布の前では鉄の手套を外すことが多くなっていた。――今回はそれがあだとなった。
     ミシッ、と軋む音がしたと思ったときには、すでに遅く。トールに掴まれた呂布の腕は粉砕されていた。咄嗟のことだったので、トールも力加減を間違えていた。何が起こったのか理解するよりも先に、握り壊された呂布の腕の折れた骨が刺さった血管から、鮮血が溢れ出てトールの手を、落ちた血が床を、汚した。トールが手を離せば、血はどんどんと溢れて、落ちる。呂布には当然痛みはあったが、うめき声一つあげることなく、半ば引きちぎれた腕を完全に引きちぎり、邪魔になった腕を放り投げると、傷を残った手で押さえた。少しでも血の流出を抑えるためだ。
    「布はないか」
     呂布の声で唖然としていたトールはハッとして自らの着ていたものの一部を破り、呂布に渡した。呂布はそれを片腕で器用に流血している箇所に巻きつけ、止血をする。それはどちらかといえばこれ以上床を 1906

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    DOODLE呂布に死んで欲しくないってしたトールと対応に追われた呂布の雷飛「貴様は、天でも、退屈したら死ぬのか?」
    「まさか。ここにはトール、お前がいるではないか。それだけで、我の日々は退屈からは程遠い」
     トールは眉間に皺を寄せたままその言葉を受けた。呂布の言葉に懐疑的なのはそれだけでわかった。面倒だな、と思いながら呂布は頭を掻いた。なにかの拍子に生前の呂布について見てしまったトールは、呂布が目の前から消えることを恐るようになった。なるべく目の届く範囲にいてほしい、と友に願われた呂布はしかたなしにそれに付き合っていたが、陳宮が近況を送ってくる頻度が高くなり、また赤兎馬の様子も気になっていた。そのため、この状況を打破しなくてはならないな、と思っていたところだった。
     喋るのはあまり得意ではない。全てを解決してきたのは武、であったから。言葉などは不要だった。武以外のことは陳宮やほかの配下に任せてきたこともあり、不得意であった。いくら頭を悩ませたところで武器を取る、以外の答えが見当たらない。顔を曇らせる友に、慰めの一言すらでてこない。体を動かすのは自由であった。軽い手合わせなら何度もした。呂布はどうすればいいのかと考える。…………。ちっともわからなかった。
     呂 1238

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    DOODLE気づいてしまったトールと断る呂布の雷飛「私は、貴様が好き……なのかもしれん」
     トールから捻り出された言葉は、呂布を唖然とさせるには充分だった。ぽろ、と肉がこぼれ落ちたのを下につくまでに拾い上げることになんとか成功した呂布は、それを口に放り込みもぐもぐと噛み締めてからごくりと飲み込んだ。
    「なんだ、それは。どういうことだ」
    「そのままの意味だ。私は、お前が好きなのかもしれん」
     トールはもう一度言った。一度言ったからか、次には絞り出すようにではなく随分とスムーズに言葉に出していた。
    「それはどういった意味の好きだ?」
    「……愛おしいと思ったり、慈しみたいという気がしたりする、それだ」
     呂布はうっかり杯を取り落とすかと思った。トールから愛おしいだの慈しみたいだのという言葉がでてきたことに驚いたが、それ以上にそう言われているのが自分であることに、驚愕したのであった。
    「待て。相手は誰だ? 本当に我か?」
    「ああ。貴様だ」
     肯定されて、呂布は頭痛がしてきた。まさか自分が? という気持ちでいっぱいであった。しかもそれが友と認めた、友だと思っている、友として扱っているし、向こうも友として扱ってきているはずの、トールから言われてい 1659

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    DOODLEキスをする二人の雷飛 トールの不思議な色をした目が間近にあるというのは、どうにも慣れない。普通キスをするときには目を瞑るものだろうが、普通ではないトールと普通ではない呂布がそれを行うときには、互いに目を閉じたりしない。気恥ずかしくなった方が負けなのである。相手をガン見しながらのキスは、それは落ち着かないものがあるがしかたがない、と呂布は思っている。
     なぜか、どういう訳か、なにがあったというのか、そういう仲になった二人である。トールは案外甘えたなところがあったが、甘えるのが下手な上に相手は呂布なので、変な方向に転がることが多々あった。キスの時のこの所作もその一端である。二人にかかるとなんでも戦いになってしまうのは――そういう性分である。生きづらいのはお互い様であった。
     ちゅむ、ちゅ、ちゅむ、と角度を変えては軽く押し付けられていた唇が、次第に大胆に呂布の呼吸を奪うような、荒々しいものに変化していく。吐息すらも逃がさないとばかりに、はく、と口を大きく開き呂布の唇を閉じ込める。
     トールの口から伸びてきた舌が唇を擽れば、呂布は口を開かざるを得なくなる。侵入してきた舌は呂布の特徴的な尖った歯を一本一本丁寧に愛撫 1706

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    DOODLE自分の感情に悩むトールとめんどくさがる呂布の雷飛愛、という言葉は、二人の間にはあまりにも似合わないものだ。だから、決してこれは愛ではない、とトールは定義していた。わかっていた。わかっている。わかって、しまっている。これは愛などではないと。愛と呼べるほど甘やかではなく、激しく、燃えるように、苛烈で、暴力的な、それは愛などでは決してないのだと、そう、理解しているはずだった。
     けれど呂布を見るたびに、感じるたびに、思い返すたびに、弾ける胸の内を表せる言葉を、トールは知らなかった。友に向けるには凄絶過ぎるそれを、どう定義していいのか。その問題は詩情を理解したことがないトールには難しすぎた。
     この胸の内を、どう表していいのか。困って、困って、困って。
    「それで我に尋ねてどうするんだ」
     トールよりも詩情というものを理解しないであろう友、呂布本人に尋ねるまでに至った。
     呂布は此奴混迷し過ぎだろう、という感想を持った。それでもこの頃には聞くだけは聞いて放置というわけには行かず、一緒に考えてやる程度にはトールのことを突き放せなくなっていた。
    「激情ではダメなのか」
    「ダメだ。もっと好意的な解釈がしたい」
    「慈しみ」
    「そうではない。これはそこ 1222

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    DOODLEキスが好きなトールとキスをされる呂布の雷飛 トールはくちづけをするのが好きらしい、と呂布は気がついた。むやみやたらと呂布の体に唇を落としたがるし、その唇が触れるときには自然と口角が上がっている。そのくせ、痕という痕はつけてこない。まあ、呂布の普段の格好が格好だからかもしれないが。それが気遣いであるとするなら、素直に受け取っておくのである。下手につついて、蛇を出すこともあるまい。
     唇が合わさる。普通なら目を瞑るのかもしれないが、トールも呂布も普通ではなかったので、目を開いたままだ。視線がカチ合ったまま、キスをする。トールの舌が催促するように呂布の唇を舐めると、呂布は口を開き、トールの舌を受け入れた。口内を蹂躙しようとしてくる舌に対し、呂布は応戦する。二人にとって、キスもまた戦いであった。どちらの勝ちというものもないが、相手を負かすことを考えているのであれば、それは戦いとなる。
    「っ、ふ……ぁ」
     呂布の口から吐息が漏れ、それはトールの耳に届いた。官能を刺激する、いい音だった。ぬる、と舌同士が絡み合い、くちゅりと音を立てる。始めの頃はそう、軟体生物のようなそれを受け入れるのは苦手な部類だったが、いまはそうでもない。むしろ心地がい 1381

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