好きよ好きよも好きのうち 月島はその見た目のとおり、華美な物を持たない。シンプルイズベスト。いつも坊主頭でさっぱりしているし、服もシンプルなTシャツにデニムやチノパン。冬になればそこにコートとマフラーがプラスされる程度。
衣類から持ち物まで基本的に無地。かつどれもモノトーンか深いグリーン、あるいはネイビーといった具合だ。とにかくシンプル、言い方を変えれば地味だ。
長い付き合いの中で私がプレゼントしたネクタイや小物などは例外だが、自分で購入しているものはやはり今でもその調子だ。
そんな月島だから、それを見つけた時は意外性に驚いた。誰かの預かりものとさえ思った。
「……月島、それは?」
家の鍵に何かキャラクターのキーホルダーが付いていた。焦茶色の毛並みで何やら髪の毛も生えている、動物のようなキャラクターがチェーンにぶら下がっている。
「これはふぉーぜです」
「ふぉーぜ?」
「今ネットでちょっと人気のキャラですよ」
月島よりは世間の流行りに敏感とは思っていたが、ふぉーぜは初耳だ。
月島はスマートフォンを手に取りSNSを開いた。温泉や銭湯情報を収集するためにSNSを利用していたのは知っていたが、それ以外のことも調べていたのは知らなかった。
そのままふぉーぜとやらの公式アカウントを開いて手渡してくる。なるほど世に存在する色々なキャラクターと同じように、ふぉーぜもキャラグッズを展開したり着ぐるみイベントに参加してるらしい。
「フォロワーも多いんだな。あまりこういうキャラクターを調べることがないから知らなかった」
「俺も偶然見るまで知りませんでした。でも色々見てるうちにちょっとハマってしまって」
プロフィール欄からふぉーぜの公式サイトに飛ぶと個々のキャラ紹介がある。
恐らくメインは鳶色で顔に傷のあるふぁーぜと小さくて長髪の白いふぉーぜ、あとはひょうきんなタヌキのふぉーぜ。
「月島のそれは……」
「このふぉーぜですね」
すいすいと指を滑らせると、例のふぉーぜが画面上に現れる。
名前は『ショーイ』というらしい。
「これか……モデルのクズリってなんだ?」
「ロシアにいる動物です」
「不思議なところから取ってるな」
ショーイふぉーぜは絶妙なドヤ顔でポーズを決めている。可愛いようなうっすら憎たらしいような絶妙すぎる表情だ。
プロフィールによると鳴き声は『キェー!』で、チューイふぉーぜに憧れているらしい。そしてグンソーふぉーぜが相棒とのこと。
ショーイのすぐ上にグンソーがいた。
こちらはやけに目つきの鋭い、白っぽい犬だ。どこか反骨精神のありそうなグンソーはわりと私の好みだ。
「なかなか可愛いではないか。私はグンソーが結構いいと思う」
「ショーイとグンソーはペアでいることが多いですね」
「そうなのか」
「ほら、大体隣にいるでしょう」
「これは非公式のグッズです。粛々と通報しましょう」
密林でグッズを探す之進。