姿かたちも十人十色「月島ぁ!あれを見ろ!」
「見てます」
「うふふ、小さくて可愛いな」
この人は動物全般が好きだ。ゆえに動物園に行く機会も多い。都内近郊の動物園はあらかた攻略したのではないだろうか。
今日やってきた動物園には小さめの動物が多い。コツメカワウソ、アメリカンビーバー。ミーアキャット、ワオキツネザルなどなど。種類が多すぎてとても覚えていられない。
休憩がてら、今は大きな池で鳥を眺めている。5歳児にも負けないくらいはしゃいでいた鯉登も大人しく鳥を観察してくれていた。
「オシドリのオスは派手だな。メスは慎ましい」
「オシドリに限らず、ここいらの鳥はメスの方が地味ですね」
「何故だ?」
どうせ質問されると思ったので、話しながらスマホで検索し表示されたとおりに答えた。
「メスは卵を温めるために外敵から見つかりづらいよう、周りと同化できるような色をしているようです」
「ほぉ。月島は物知りだな」
「恐れ入ります」
当然、スマホで調べた内容であると鯉登さんも知ってる。そんなもの自分で検索すればいいのに、俺は甘やかしすぎだろうか。こういった行動パターンがもう染みついてしまったので変えることは難しいのだが。
「月島が目立つ男でなくてよかった」
「…?」
「よかにせが見つかりやすくなるからな」
「はぁ」
鯉登さんはオシドリのオスに負けないほど目立つ存在だ。どこにいても華やかで煌びやかだ。例え満員電車の中であっても、雑然とした安い居酒屋であっても動物園であっても。今日もすれ違う人々が鯉登さんを振り返る。これもすっかり慣れた。
「月島はとっておきのよかにせだからな。そこいらの者どもに見つかったら大変だ。……まぁ、上を脱ぐと目立って仕方ないが」
「冗談ですか?」
「……馬鹿すったれ。人の気も知らんで」
拗ねたような口調だが、その横顔はとても柔らかい。思わず周りを見回してしまった。他の人間には見せたくない顔だ。
「おしどり夫婦というが、確かにその言葉の通りかもしれん」
鯉登さんはオシドリを指さした。もう一度鳥たちに視線をやる。
水辺には何種類かの鳥がおり各々自由に過ごしている。陸地で休む鳥や餌をつつく鳥、水面を泳ぐ鳥。オシドリは岩の上で休んだり泳いだりしているが、常に2羽はより添い行動していた。
「ああして仲がいいから、おしどり夫婦と言うのだろうか」
『おしどり夫婦 由来』と検索すると、思いの外物騒な情報が表示された。少なくとも今目にしている光景に由来するものではなさそうだ。
「オシドリでなくても仲がいい夫婦はいるでしょう。あの2羽は単に愛情深いのでは」
「……」
鯉登さんはぽかんと俺の顔を見つめ、ふふと笑った。
「月島ぁ、お前なかなか情熱的だな」
「はぁ?」
「種族だとか習性だとか、そんなものは関係ないな」
その後、鯉登さんはどこに行く時も手を握って離してくれなかった。